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074 ふたつの戦いの終わり、そして……
しおりを挟む竹要塞、地下格納庫。
私が大型決戦兵器のコクピットにつくのに前後して――
地上ではふたつに戦いが終わった。
〇
掘の奥深く、奈落の底にて戦っていたサクタとスエッコ。
逃げ場のない閉じた空間での一騎討ち。
甲冑は傷だらけにて、ところどころ破れている。愛槍は折れ、太刀も砕け、残るは小太刀のみだが、刃こぼれがひどい。
それを手にサクタは果敢に戦い続ける。
対するスエッコは全身、刺し傷、切り傷だらけにて、左腕がだらりとしたまま。地の底へと落ちる直前に受けた槍の一撃により、重傷を負っていたところにムリをしたせいで、ついに完全に壊れてしまった。
激しい応酬の末、ついにサクタの小太刀がスエッコを捉える。
鎖骨と鎖骨の間のくぼみ、天突に切っ先がめり込む。
「ひゅう」
とスエッコが喘いだ。
ひょうしに口からゴボゴボと血が溢れる。
サクタはさらに踏み込む。小太刀の柄尻に全体重がかかるようにして、グッグッと押す。
――ブツンっ。
厭な音がした。
生命の根幹にかかわる、体の中にある大切な何かが断ち切られる音。
刹那、スエッコの双眸より光が消え、フッと全身から力が抜けて崩れ落ちる。
が、膝がガクンと一段下がったところで、スエッコの目にかすかに光が戻る。
それはとても小さな輝きにて、消える寸前のホタルの瞬きにも似たもの。
けれどその刹那、すでに死に体であったはずのスエッコが、かつてないほどの怪力を発揮した。
右腕にてサクタを突き放そうとするのではなくて、逆にガッチリと抱え込む。
そして……
ザシュ!
竹侍将軍の背より飛び出したのはスエッコの凶爪の突端、右脇腹から左後背へと胴体の中央部分を抉るようにして貫く。
とっくに壊れていたはずの左腕、それを動かしたのはスエッコの意地か、死力か。
共に致命傷を負った両雄。
抱き合った形にて、その場にて膝をつく。
でも、これで決着とはならない。
小太刀の柄から手を離したサクタが、どうにか抜け出した右腕にて地面を擦るような仕草をとる。
手甲と岩肌が当たったところで、チリリと火花が咲いたとおもったら――ぼうっ!
たちまち地の底が火に埋め尽くされた。
掘の中にはたっぷりと竹油が染み込ませてある。
それに引火したのだ。
さらに埋め込んである樽にも次々に飛び火していく。
やがてすべてが炎に呑み込まれて、サクタとスエッコの姿は紅蓮の奥に消えた。
〇
竹林内に出現した焼け野原にて戦っていたコウリンとカンスケ。
遺物の影響により、コウリンには三分間という稼働制限がある。
さりとてカンスケにも余裕はない。すでに満身創痍にて。
にもかかわらず、巧みに立ち回ってはコウリンの猛攻をしのぎ、いなし、ときに反撃する。
何かと小狡い行動ばかりが目につくカンスケだが、じつはかなり強い。
でなければハートが認めて側にいることを許すわけがなく、また末弟がおとなしく従うわけがない。
パンダクマにしてはやや細身ながらも、長い手足から繰り出される攻撃は鋭くリーチがある。これに爪の分が加わると、短槍を手にしているようなもの。
間合いが広く、懐が深い。
隻眼であるがゆえに視野が狭いのかといえば、そんなこともなく。むしろ見えない分だけ他の感覚で補っているようで、かえって察知能力が高いぐらいだ。
一方でコウリンもまた四肢が長く、それを活かした俊敏な動きと体術を得意としている。
つまりふたりは似たようなタイプにて、それゆえに互いの長所、短所もわかるのでやりにくい。
戦いが始まってからの最初の一分間は、ただただ激しい攻防にて。
しかし、攻撃がかすることはあっても、まともに一発も入らない。
続く一分間は、闇雲に攻めるのではなくて、互いに様子を見ながらの、陣取り合戦の様相を呈する。
相手よりも有利な位置を押さえて、必殺を見舞うための駆け引き。
牽制しながら目まぐるしく立ち位置を変えて動く様は、まるでペアになってダンスでも踊っているかのよう。
ついに残り一分となった。
時間制限があるコウリンはいよいよ追い詰められる。
ゆえにより積極な攻勢に転じるものとおもわれた矢先のこと、先に動いたのはカンスケ。
カンスケもまた限界が近かったのだ。
体内よりかなり血が流出しており、悠長に時間切れを待つ余裕はない。
でも、これによりカンスケが機先を制す。
コウリンは出鼻を挫かれた。ほんのわずかな差だが、勢いに乗り遅れる。
持ち前のスピードが出る前に頭を抑えられた格好だ。
そこで振るわれたのは、遺物による横薙ぎ。
いつの間に回収していたのか、それを使っての渾身の振り。
側頭部へと目がけて向かってくるのを、とっさに腕で庇ったコウリンだが、もの凄い衝撃にてぐらりと大きく体が傾ぐ。
ばかりか――
リィイィィィィィイィィィィィィィィーン……
竹人形たちを惑わせ狂わせる魔性の音色が鳴る。
本来であれば、内蔵の竹電池に切り替えているコウリンにさして影響はないはずだった。
なのにコウリンの足下がふらつく。
殴られた衝撃もあるが、近々で発生した音が体内にて反響し、竹電池による供給機構に支障をきたす。
この時点で残り三十秒を切った。
もはやコウリンは態勢を維持するのがやっとといった風にて、止めを差すべくカンスケがさらに遺物を振りかぶった。
ブゥウゥゥゥン!
打ち抜いたのはよろけているコウリンの腹部。
メキリと音がしてコウリンが吹き飛ぶ。
しかし、ここで奇妙なことが起きた。
遺物に殴打されるなり、不意に竹忍者の身がバラバラとなったのだ。
そしてバラけた手足が向かったのはカンスケのところ。
手足はワイヤーで胴体と繋がっており、これによりカンスケはがんじがらめとなった。
どうにかして振りほどこうと暴れるも、ままならず。
なにせ絡まっているのは黒鍬衆らの研究班が開発した特殊なワイヤーにて、いかにパンダクマの膂力でもそう簡単にははずせない。
キュルキュルとワイヤーが巻かれて、先ほど飛ばされた胴体部分が戻ってくる。
これに頭部も合流したところで、残り時間は五秒となっていた。
だからカンスケは最後の手段を選ぶ。
〇
竹要塞の周囲に巡らせた空堀より火が吹き出し、炎の壁が出現しては轟々と天を焦がす。
竹林の一角にあった焼け野原では、ふたたび大きな爆発が起きた。もうもうと黒煙があがっている。
ふつり――
彼らとの繋がりが切れた。
私はそれですべてを察する。
「……ふたりともお疲れさま。あとでちゃんと復活させてあげるから、ちょっと待っててね」
さぁ、次はいよいよ私たちの番だ!
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