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072 王、動く
しおりを挟む暗い地の底より聞こえくるのは剣戟と咆哮。
竹侍将軍のサクタとスエッコが戦っている。
両雄がぶつかるたびに、闇が震え、風が哭き、飛び散る殺気にて地上の竹たちもがざわめく。
竹林の一角が消失した焼け野原では、竹忍者頭領のコウリンとカンスケが死闘を繰り広げている。
三分という稼働時間内に片をつけるべく、コウリンが疾風となりては体術と忍具を駆使し、激しく攻め立てる。
だが、カンスケも負けてはいない。
満身創痍にもかかわらず、コウリンの動きに必死に喰らいつく。
時間切れでの決着なんぞはありえない!
とばかりに、守りを捨て牙を剥き凶爪を振るい続ける。
〇
戦場の上空に展開している竹蜻蛉たち。
それらと同期し、私は本陣にて戦況を逐一確認している。
孤軍奮闘中のサクタとコウリン。
すぐにでも援軍を送りたいところだけど、サクタの方は地の底という地形ゆえに、コウリンの方は例の遺物があるがゆえに、ままならず。
下手に送ったら逆に足を引っ張りかねない。
そのことは当人らも重々承知しているらしく、どちらからも支援要請はない。
「ふたりとも因縁がある相手だし、自分で落とし前をつけるつもりなんだろうね」
かつて竹の里の戦いにおいて、サクタはスエッコに惜敗している。
当時、コウリンはまだ造られていなかったものの、彼の先輩である初期型の竹忍者たちが多数、カンスケによって破壊された。
「……にしても、あの遺物はやっかいだね」
山の形を変えるほどの猛攻、五十門からの新・竹火輪砲による一斉砲撃。
レベル3兵器の併用により産み出された爆発と劫火、火災旋風。
竹忍者らによる毒クナイの投擲。
超強酸性の竹酢液を積んだロケット弾。
これまではいかなる攻撃をも物ともせず、すべてを撥ね返す。
無類の屈強さと頑強さを誇っていたパンダクマも、さすがにボロボロとなりかつてない深刻なダメージを負った。
にもかかわらずだ。
あのサビたクギみたいな遺物はケロリとしている。
折れることもなければ、欠けもせず。
そもそもの話、カンスケが爪でぶん殴っても傷ひとつつかないのがおかしいのだ。
「まさかあんな危険なシロモノが存在していただなんて。なんとしてもアレは回収して隔離しないと……」
だから私は、とりあえず回収班を向かわせることにする。
とはいえコウリンの戦いに水を差すつもりはない。
遺物の影響が及ばないところに待機させておき、決着がついたら動いてもらう。
けれども、それよりも先に動き出したのがハートである。
パンダクマ三兄弟の長兄にして、最大最強個体がついに戦場に姿をあらわした。
出現場所は……竹要塞の正面!
ハートはべつにどこにも隠れてなんていなかった。
ただ、崩壊した巣にてじっと戦いの趨勢を見守っていたらしい。
そして不甲斐ない弟たちに業を煮やして、ついに王はみずから動くことにしたようだ。
悠然と山を下り、荒れ地をこちらに向かって歩いてくる。
威風堂々。
だがこれではいい的である。
ゆえに竹砲兵のイスケの指揮の下、火竹輪砲による長距離精密射撃をふたたび実行した。
照準を合わせ、徹甲弾をセットし、号令一下、砲塔が火を噴く。
先ほどよりも距離が近く、なおかつ標的の姿をしっかりと捉えている。イスケの弾道計算は完璧にて、必殺必中の自信を持って放つ。
だがしかし――
発射音が轟くやいなや。
サッとハートの身が横へと移動する。
一瞬、巨体が消えたかのような機敏な動き。
これにより弾頭は目標の脇を素通りしては、後方にある岩を撃ち抜き、さらに背後にあった丘陵一帯を粉砕して地面をごっそりと抉った。
残り四発しかない虎の子の一発、徹甲弾がはずれた!?
いいや、ちがう、かわされたのだ。
信じがたいことに、ハートは徹甲弾が来ることを予測し、なおかつ射線をも読み切り、発射から着弾のタイミングを見極め、これを見事に回避してみせたのである。
徹甲弾か通常弾かのちがいは、発射時の音で判別することは可能だ。
また砲口の向きを見定めれば、ある程度ならば射線を読むこともできる。
撃つタイミングを把握することで、砲弾をかわすことはけっして不可能じゃない。
とはいえ、これはあくまで理論上の話……机上の空論だ。
いざ、銃口を突きつけられた危機的状況で、冷静に対処して、そんな芸当がやれるかといえば、まずムリだ。
ましてやそれがより高火力の大砲相手ともなればなおのこと。
なのにハートはそれを平然とやってのけた。
目がいいのは知っていたが、こうなると単に視力がいいというだけじゃない。
警戒すべきは、巨躯でもなければ膂力でもなかったのだ。
真に恐るべきはその洞察力。
物事の本質を見抜く力……それこそがハートを絶対強者たらしめている。
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