竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

文字の大きさ
上 下
71 / 209

071 遺物

しおりを挟む
 
 地を這うようにして斜面を駆け降り、止めを刺すべくカンスケのもとへと迫る竹忍者軍団。
 みるみる包囲の輪が狭まっていく。
 さなか、竹忍者らの輪が上下に分かれて増えた。
 まるで分身の術のように見えるが、もちろんちがう。
 後続の竹忍者らが跳躍したのである。
 これにより地からは第一陣が、天からは第二陣が同時に攻撃を仕掛けるのだ。
 だが、ここでさらに輪が増えた。
 シュタタと先を走る仲間たちの肩や背を借り、宙へと踊りあがったのは、三重に敷かれた包囲網の外縁部分を担っていた最後尾の者どもである。

 三段構えにて死角ナシ。
 竹忍者らによる全方位からの圧殺の陣。
 囚われたカンスケに逃れる術はない。

 ………………はずであった。

 傷だらけのカンスケ、やにわに遺物を振りかざす。
 大きなサビたクギのようなそれで、迫る敵勢を打ち払うのに使うのかとおもいきや、さにあらず。
 カンスケは遺物を地面へと向けて思い切り突き立てた。
 瞬間のこと――

 リィイィィィィィイィィィィィィィィーン……
  リィイィィィィィイィィィィィィィィーン……
   リィイィィィィィイィィィィィィィィーン……

 殷々(いんいん)と響き渡ったのは、血生臭い戦場にそぐわない澄んだ音。
 まるで涼しげな音色を奏でる火鉢風鈴のよう。
 だがしかし、その音が聞こえたとたんに、竹忍者らの身に異変が生じた。
 ガクンと膝が折れ腰が下がる。四肢がバタつく。機敏だったのがたちまち鈍くなり、連携をも乱れてしまう。
 ついさっきまで華麗に宙を舞い、地を滑るようにして駆けていたのがウソのように、カクンカクンとした動き。
 まるで作りたての竹人形のようだ。

 異常事態、発生!

 カンスケに殺到していた竹忍者たちの機動性が著しく低下してしまった。
 原因はリグニンコードに不具合が生じたためとおもわれる。
 リグニンコードは目には見えないモノで、竹生命体である私たち以外には触れることも、感じることもできない。地下茎からのびたコードは竹人形たちに接続し、つねにリグニンパワーを供給し続けている。
 その接続がプツプツ途切れている。
 さながら通信状況の悪いWiFiのようにて安定しない。
 かといってコードが断裂したわけではない。システムそのものには異常は見られず。
 あくまでリグニンパワーの流れを一時的に阻害しているだけのようだが、そのせいで竹忍者たちがおかしくなってしまったのである。

 やったのはカンスケだ。
 これがあの遺物の能力……
 どういった仕組みにて、何を意図して造られた品なのかはナゾである。
 だが、私たちの活動を支えるワイヤレス竹電との相性は最悪にて。
 そうとわかっていたからこそ、カンスケはわざわざ崩壊した巣穴からこれを持ち出してきたのだ。

 圧殺の陣、完成ならず。
 バタバタと倒れてはロクに動けなくなってしまった竹忍者たち。
 これによりカンスケは窮地を脱したかにおもわれた。
 けれども、そうはさせじと動く者がいる。
 コウリンだ。
 特製のロケット弾を放ったがゆえに、みんなよりも少し出遅れたおかげで、遺物の影響を受けずにすんだ。
 そのことから、あの遺物には有効範囲があると推察される。

 猛然と近づいてくてくるコウリンに気がつき、カンスケはふたたび遺物を使用しようとする。
 地面に突き立てた遺物を、爪の横薙ぎにて打ち鳴らす。
 させじとコウリンも急ぐが、カンスケの方が少しばかり早かった。

 リィイィィィィィイィィィィィィィィーン……

 ふたたび澄んだ音色が鳴り響く。
 カンスケが口を開け、にへらと笑った。あとは動けなくなった連中を一方的に破壊するのみ。
 でも、その隻眼が驚愕で大きく見開かれる。

 シュタタタタ――

 コウリンは止まらない。
 たしかに遺物の効果によってリグニンパワーの供給は途絶えている。でも、すぐさま体内に内蔵している竹電池に切り替えたことにより、停止するのを免れたのだ。
 とはいえ、これはあくまで緊急時の処置にて、竹電池によってフル稼働できるのは、たったの三分のみ。

 竹忍者頭領のコウリンとパンダクマ三兄弟の次男・隻眼のカンスケ。
 短いながらも熾烈な戦いが、いま始まる!


しおりを挟む
感想 185

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私のアレに値が付いた!?

ネコヅキ
ファンタジー
 もしも、金のタマゴを産み落としたなら――  鮎沢佳奈は二十歳の大学生。ある日突然死んでしまった彼女は、神様の代行者を名乗る青年に異世界へと転生。という形で異世界への移住を提案され、移住を快諾した佳奈は喫茶店の看板娘である人物に助けてもらって新たな生活を始めた。  しかしその一週間後。借りたアパートの一室で、白磁の器を揺るがす事件が勃発する。振り返って見てみれば器の中で灰色の物体が鎮座し、その物体の正体を知るべく質屋に持ち込んだ事から彼女の順風満帆の歯車が狂い始める。  自身を金のタマゴを産むガチョウになぞらえ、絶対に知られてはならない秘密を一人抱え込む佳奈の運命はいかに―― ・産むのはタマゴではありません! お食事中の方はご注意下さいませ。 ・小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 ・小説家になろう様にて三十七万PVを突破。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

神々の娯楽に巻き込まれて強制異世界転生ー1番長生きした人にご褒美有ります

ぐるぐる
ファンタジー
□お休みします□ すみません…風邪ひきました… 無理です… お休みさせてください… 異世界大好きおばあちゃん。 死んだらテンプレ神様の部屋で、神々の娯楽に付き合えと巻き込まれて、強制的に異世界転生させられちゃったお話です。 すぐに死ぬのはつまらないから、転生後の能力について希望を叶えてやろう、よく考えろ、と言われて願い事3つ考えたよ。 転生者は全部で10人。 異世界はまた作れるから好きにして良い、滅ぼしても良い、1番長生きした人にご褒美を考えてる、とにかく退屈している神々を楽しませてくれ。 神々の楽しいことってなんぞやと思いながら不本意にも異世界転生ゴー! ※採取品についての情報は好き勝手にアレンジしてます。  実在するものをちょっと変えてるだけです。

処理中です...