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071 遺物
しおりを挟む地を這うようにして斜面を駆け降り、止めを刺すべくカンスケのもとへと迫る竹忍者軍団。
みるみる包囲の輪が狭まっていく。
さなか、竹忍者らの輪が上下に分かれて増えた。
まるで分身の術のように見えるが、もちろんちがう。
後続の竹忍者らが跳躍したのである。
これにより地からは第一陣が、天からは第二陣が同時に攻撃を仕掛けるのだ。
だが、ここでさらに輪が増えた。
シュタタと先を走る仲間たちの肩や背を借り、宙へと踊りあがったのは、三重に敷かれた包囲網の外縁部分を担っていた最後尾の者どもである。
三段構えにて死角ナシ。
竹忍者らによる全方位からの圧殺の陣。
囚われたカンスケに逃れる術はない。
………………はずであった。
傷だらけのカンスケ、やにわに遺物を振りかざす。
大きなサビたクギのようなそれで、迫る敵勢を打ち払うのに使うのかとおもいきや、さにあらず。
カンスケは遺物を地面へと向けて思い切り突き立てた。
瞬間のこと――
リィイィィィィィイィィィィィィィィーン……
リィイィィィィィイィィィィィィィィーン……
リィイィィィィィイィィィィィィィィーン……
殷々(いんいん)と響き渡ったのは、血生臭い戦場にそぐわない澄んだ音。
まるで涼しげな音色を奏でる火鉢風鈴のよう。
だがしかし、その音が聞こえたとたんに、竹忍者らの身に異変が生じた。
ガクンと膝が折れ腰が下がる。四肢がバタつく。機敏だったのがたちまち鈍くなり、連携をも乱れてしまう。
ついさっきまで華麗に宙を舞い、地を滑るようにして駆けていたのがウソのように、カクンカクンとした動き。
まるで作りたての竹人形のようだ。
異常事態、発生!
カンスケに殺到していた竹忍者たちの機動性が著しく低下してしまった。
原因はリグニンコードに不具合が生じたためとおもわれる。
リグニンコードは目には見えないモノで、竹生命体である私たち以外には触れることも、感じることもできない。地下茎からのびたコードは竹人形たちに接続し、つねにリグニンパワーを供給し続けている。
その接続がプツプツ途切れている。
さながら通信状況の悪いWiFiのようにて安定しない。
かといってコードが断裂したわけではない。システムそのものには異常は見られず。
あくまでリグニンパワーの流れを一時的に阻害しているだけのようだが、そのせいで竹忍者たちがおかしくなってしまったのである。
やったのはカンスケだ。
これがあの遺物の能力……
どういった仕組みにて、何を意図して造られた品なのかはナゾである。
だが、私たちの活動を支えるワイヤレス竹電との相性は最悪にて。
そうとわかっていたからこそ、カンスケはわざわざ崩壊した巣穴からこれを持ち出してきたのだ。
圧殺の陣、完成ならず。
バタバタと倒れてはロクに動けなくなってしまった竹忍者たち。
これによりカンスケは窮地を脱したかにおもわれた。
けれども、そうはさせじと動く者がいる。
コウリンだ。
特製のロケット弾を放ったがゆえに、みんなよりも少し出遅れたおかげで、遺物の影響を受けずにすんだ。
そのことから、あの遺物には有効範囲があると推察される。
猛然と近づいてくてくるコウリンに気がつき、カンスケはふたたび遺物を使用しようとする。
地面に突き立てた遺物を、爪の横薙ぎにて打ち鳴らす。
させじとコウリンも急ぐが、カンスケの方が少しばかり早かった。
リィイィィィィィイィィィィィィィィーン……
ふたたび澄んだ音色が鳴り響く。
カンスケが口を開け、にへらと笑った。あとは動けなくなった連中を一方的に破壊するのみ。
でも、その隻眼が驚愕で大きく見開かれる。
シュタタタタ――
コウリンは止まらない。
たしかに遺物の効果によってリグニンパワーの供給は途絶えている。でも、すぐさま体内に内蔵している竹電池に切り替えたことにより、停止するのを免れたのだ。
とはいえ、これはあくまで緊急時の処置にて、竹電池によってフル稼働できるのは、たったの三分のみ。
竹忍者頭領のコウリンとパンダクマ三兄弟の次男・隻眼のカンスケ。
短いながらも熾烈な戦いが、いま始まる!
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