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070 オクタニトロキュバン
しおりを挟む閃光にて視界が真っ白に染まる。
これに呼応し、周囲の竹たちがざわめき変化が生じた。
節と節の間である稈の部分が輝く。
まるでカグヤ姫を宿した時を彷彿とさせる幻想的な光景だ。
けれども、竹の中にいたのは珠のような赤子なんぞではなくて、超危険な爆発物である。
オクタニトロキュバン。
ニトロ化合物で爆薬の一種、これもコウリンが所有するレベル3の武器のひとつだ。
爆発する際には千二百倍もの体積膨張をともない、とてつもない破壊力を生み出す。
理論上は最強の爆薬とされているシロモノ。
ただし、その製造工程はとても複雑にて、ベースとなる物質を造るのだけでもひと苦労。
さらにはそこから40段階もの工程をこなす必要があり、なおかつ製造コストがべらぼうにかかる。グラム単価は純金なみ!
非常に手間暇がかかる。なおかつ高度な機材、ややこしい製造工程を経るがゆえに、大量に生産するのは困難だ。
古代遺跡の施設とそこにあった資源、私の記憶のライブラリ、黒鍬衆を率いるウンサイさんをしても、再現できた量はわずか。
限られたそれらすべてを、コウリンはここで投入する。
水素と酸素を混ぜた化学兵器。
オクタニトロキュバン。
それぞれが凶悪な破壊力を秘めたレベル3兵器の併用。
ほと奔る火がカンスケのもとへと到達した瞬間――
激しい爆発が起きた。
天を突かんばかりに巨大な炎の柱を出現する。
轟っ! 局地的に強い風が吹く。
灼熱により景色が歪む。
これらに押されるようにして、炎の柱がゆっくりと回り始めた。
まるで糸車のように周囲の空気を絡めとっては、より強い燃焼エネルギーへと転換する。
じょじょに回転が速まっていき、すぐに紅蓮の旋風へと変貌した。
火災旋風。
竜巻状の渦よりまき散らされる高温のガスや炎、熱波にて、一帯がたちまち焦土と化す。
だが、荒れ狂っている火災旋風は、その場から一歩も動かない。
いや、動きたくとも動けないのだ。
だからこそコウリンたちはこの場所に、カンスケを誘い込んだである。
すり鉢状の窪地という地形は天然の大きな鍋のようなモノ。
火災旋風で怖いのは、気まぐれでフラフラ動き回っては被害を拡大し続けること。
それをさせないための工夫だ。窪地の底で発生したがゆえに、どこにも出られず足踏みを続けることで、竹林は延焼をまぬがれている。
とはいえ、それでも被害は甚大にて竹林全体がざわめき、梢が震えていた。
そんな火災旋風だが、フツリと消失する。
あまりにも急激に、苛烈に燃焼したがゆえに、投入された物質のすべてを消費し、なおかつこの場所に満ちていた酸素をもすべて喰らい尽くしたがゆえに。
これにより窪地内が一時的に真空に近い状況となった。
間髪入れずに揺り戻し現象が起こる。
激変した環境、ごっそり失せた空気、それにともない開いた隙間を埋めるかのようにして、周囲から大量の空気がドッと窪地へ流れ込む。
風の奔流が怒涛となっては一点へと押し寄せていく。
刹那、コウリンの合図により動いたのは包囲網を敷いていた竹忍者たち。
シュタタタと駆け寄りながら、手にしていた竹クナイを一斉に放つ。
投擲された大量の竹クナイらは、風の流れに乗り、より加速し、鋭さを増しては獲物のもとへと殺到する。
それらを横目に、コウリンはしゃがんで片膝をついた。
曲げた左膝の皿の部位がパカンと開き、ドンと射出されたのは竹筒状のロケット弾。
このタイミングで放ったのは、他の飛び道具に比べると速度や飛距離がいまいちだから。
しかし、いまならば対象は動けず、なおかつ風の力を借りられる。
通常時の三倍強もの速さにて飛ぶロケット弾が着弾したのは、次々に竹クナイが標的に突き立った直後のことであった。
レベル3の兵器の併用による大爆発。
それにより生じた火災旋風。
大挙して高速で押し寄せる竹クナイ。
信じがたいことに、これらの直撃を受けてもカンスケはまだ生きていた。
さすがに見た目はズタボロだ。
あちこちが焼けただれており、爆発により損傷した傷からは血が溢れている。
我が身を守る盾の役割りを果たしていた自慢の毛皮も、もはや見る影もなく、大量の竹クナイにてハリネズミ状態だ。しかもクナイにはたっぷり毒が塗られてある。
にもかかわらず、カンスケは膝を屈せず。
例の持ち出した遺物を杖がわりにしては、こらえている。
隻眼は血走っており、いまなお心は折れていない。
けれどもコウリンが放ったロケット弾が当たり、中身が散布されたところで、
「ぎゃあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!」
かつて発したことのないような絶叫をあげ苦しみだした。
ロケット弾の中に仕込まれていたのは竹酢液である。
とはいえ、もちろんただの竹酢液ではない。
酸性の成分だけをさらに抽出、濃縮し、極限にまで濃度を高めた劇物だ。
これはレベル2に区分される兵器にて、単体で使うこともあれば、塩素系の液体と混ぜて毒ガスを発生させたりもする。
今回は単独での使用、その狙いは……
全身よりシュウシュウと白煙をあげては、カンスケが悲鳴をあげながら七転八倒している。
ふつうに触れても危険な液体だ。
火傷と爆傷だらけの身には、さぞや染みることであろう。
そこへ忍刀を抜いた竹忍者たちが全方位より襲いかかった。
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