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069 レベル3
しおりを挟む――にらんだとおりだ。
パンダクマ三兄弟の次男坊・カンスケは、こちらの背後を突くべく竹林内を用心しながら移動している。
だがその行動を読んで、索敵により捕捉した私たちは、ヤツに気づかれないように三重の包囲陣を敷く。
コウリンが率いる竹忍者軍団らを中心に構成された部隊が、この任についている。
なお彼には状況に応じて、レベル3の武器を使用することを許可している。
コウリンの体はギミック満載にて、歩く武器庫のようなもの
レベル1は通常の忍具にて、これは自由に使ってよし。
レベル2はより過激な忍具にて、対象のみならず周囲にも被害を及ぼしかねないので、許可が必要となっている。
レベル3にいたっては敵勢だけでなく自分や味方をも巻き込みかねないので、よほどのことがないかぎりは使用を認めない。
今回はそれを事前に解禁している。
もちろん強敵だからだ。
いかにこちらが格段に成長したとはいえ、出し惜しみをして勝てるような相手ではない。
〇
背丈はスエッコと同じぐらい。
育ち盛りの弟に追いつかれたようだ。
だが、こちらの方がややほっそりしており、手足が長く、動きが機敏である。
右目が潰れており、半分視界が効かないのにもかかわらず、器用に竹林の合間をすり抜けては進む。
そんなカンスケの足が不意に止まった。
足下の落ち葉を踏む寸前のこと、ピタリと動きを止めたとおもったら、そっと足を戻す。
「フーフー」
地面に鼻先を近づけ息を吹きかける。
生ぬるい風にて降り積もっていた落ち葉が払いのけられ、下から姿をあらわしたのは円形の物体だ。
竹で編んだ蒸籠(せいろ)のようだが、フタの中央に突起がついている。
それを発見するなり、カンスケはそっと後退ると進路を変えた。
蒸籠の正体は地雷である。
この地域一帯に埋められてあるのだが、隻眼のカンスケはそのことごとくを察して、回避していく。
まるでタケノコ掘りの名人のようだ。
ざっと周囲を見渡すだけで、どこに生えているのかがわかるかのように、地雷の在り処を見つけては、脇へそれたり、ひょいと跨いだり、器用に躱していく。
たいした察知能力だ。
が……惜しい。
この地雷原が、ある程度、見抜かれることをも前提にしての配置であることにまでは考えが至らなかったらしい。
地雷原を避けて進める安全な経路。
じつは数本だけ、あらかじめ設定してある。
まるで点と点をつなげた星座のように、ジグザグに進んでは行ったり来たり。
自分ではうまく危険を察知して免れているようでいて、その実、ある地点へと誘導されているのだ。
向かう先は周辺よりも一段へこんでいる、すり鉢状になった場所だ。
同じような景色が延々と続く竹林の中。
ぱっと見にはそうとはわからないが、いざその地点に立つと、竹たちが目隠しとなっており、とたんに視界が悪くなる。緩やかな勾配に囲まれており、地面が少しフカフカしている。
その理由は柔らかな地質と、ここに積もった大量の落ち葉のせいだ。
もとからあった地形に、こちら側で少しだけ手を加えた。
用心深いカンスケのことだ。
ガッツリ仕掛けた罠では逆に悟られる。
だから「ん?」とわずかに眉根を寄せるぐらいの塩梅でちょうどいい。
柔らかい地層の深さはさほどでもなく、竹忍者たちならば音もなくシュタタタと駆け抜けられる。
けれども重量のあるカンスケにはムリだ。
十中八九、沈む。
でも浅いので、沈んだとてせいぜい足首ぐらいまでのこと。
軽く足をとられる程度だ。ほんの少し動きが阻害されるぐらいの影響だろう。
だが伯仲する戦いにおいて、その『ほんの少し』が命運を左右する。
〇
地雷原を抜けたカンスケは窪地へと到達した。
そんなカンスケの足下で、しゅるしゅると素早く這う影がある。
いったい何かと目を向けてみれば、それは竹ヘビであった。
小さなヘビたちがにょろにょろと蠢いている。
邪魔なのでカンスケは近くにいた一体を踏み潰そうとするも、竹ヘビはするりと逃げて、落ち葉の中へと潜りこんでしまった。
かとおもえば、こんどはブブブブという耳障りな音がして、顔の近くを竹蜻蛉が飛び回る。
何機もの竹蜻蛉がブゥーン、ブゥーン。
これにイラ立ち、カンスケは首を振ったり、空いている方の腕で叩き落そうとするも、竹蜻蛉たちは身軽にて、スイとかわしてしまう。
群がるザコども。
カンスケはしだいにイキリ立ち、ムキになってはどうにかしようと暴れる。
なのに、まとわりついていたそれらが急に離れたとおもったら、一斉に潮が引くようにして遠ざかっていくではないか。
「――――」
不自然な行動に、カンスケの隻眼が険しくなる。
そしてこの時になってようやく自分の周囲に違和感を覚えた。
見た目には何もない。
ヘンなニオイもしない。
けど、何かがおかしい。
まるで湿気のように、ねっとりと体にまとわりついてくる不快なモノがある。
その正体は、空気よりも重たい気体にて。
風の流れにのせては、こっそりと放っていたのはコウリンである。
水素と酸素を二対一で混ぜ合わせたものに、より揮発性と可燃性が増すようにと工夫が施された化学兵器。
使いどころや扱い方を間違えると、たちまちすべてを巻き込みドッカン!
コウリンが所有するレベル3の兵器のうちがひとつ。
これを窪地の底に溜まるようにしてまく。
あらかじめ仕掛けても、勘のいいカンスケは近づかなかっただろう。
だからこそ、こんな回りくどい手段を講じた。
獲物は罠にかかった。
首にまいたスカーフをはためかせながら、コウリンが右手を突き出し、パチンと指を鳴らした。
刹那、指先にて火花が散り、それが目には見えないガスの流れに引火して、竹林内を炎が奔り、たちまちカンスケのもとへと迫っていく――
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