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064 火の雨、燃える山
しおりを挟むゆっくりと昇る朝陽。
彼方よりのびた幾筋もの陽光が、闇を切り裂き夜を駆逐していく。
夜気の残り香もまた薄れていく。
陰と陽が入れ替わる、そのさなか。
まばゆい朝焼けにて樹海の奥にある荒れ地一帯が黄金色に染まった。
山々が燃ゆる――
実際に燃えているわけではない。
陽の光を受けてそのように見えているのだ。
ふと、空を見上げてみる。
そこには蒼いキャンパスに、ハケでさっと描いたような形をした雲の姿があった。
もっとも高いところに現れる雲のひとつ――巻雲。
空気が澄んでよく晴れた日に見られる、絹糸のような雲である。
巻雲がある日は雨が降らないと昔から伝わっている。
私は視線を空から地上へと戻す。
とたんに目に入ったのは、「いまか、いまか」と指示を待つ麾下の精鋭たち。
みな、闘志むき出しにて、リベンジマッチにやる気をみなぎらせている。
頼もしい仲間たちに満足し私はうなづき、声も高らかに告げた。
「刻は来たれり、戦を始めよう」
同時に振り上げていた右腕をバッと振り下ろす。
それが合図となって、鳴り響いたのは大音声。
まるで竹要塞そのものが武者震いしたかのように、揺れた。
早朝の静寂を破り、清浄なる空気が霧散し、かわりにあらわれたのは大量の火球である。
一斉に火を噴いたのは、城塞内に持ち込まれた新・竹火輪砲たち。
その数五十門。
これは竹製のキャノン砲で、そのサイズは大和型戦艦に搭載されていた主砲に匹敵し、放たれた弾頭は超音速にも達する。着弾時の破壊力については言わずもがなであろう。
そして冠に『新』の文字が付いているのは伊達ではない。
初期型は単身であったのが三連装の砲塔となり、精度や耐久力が格段にアップしているのだ。
開戦の号砲となる第一射。
あえて斜め上空に撃ち出したのは、三連山に火の雨を降らせるため。
白雲らが次々に蹴散らされ、澄んだ蒼穹に穴を穿つ。
遥か天空へと打ち上げられた弾頭らは、大きく弧を描き、標的へと向かっていく。
だがそれだけではない。
打ち上げた弾頭らの滞空時間により生じる時間差を利用し、続けて水平射撃も敢行する。
これにより天地の両面からシロクロコム――パンダクマらの巣を攻撃しては、連中を穴倉から追い立てる算段だ。
なお射撃の指揮は竹砲兵らをまとめるイスケに一任している。
自身も優れたスナイパーであり、状況の見極めや弾道の計算などを瞬時に精確に行える彼に任せておけば、なんの心配もいらない。
上を向いていた砲塔らが揃ってカクンとうなづき、砲口の照準がぴたりと三連山に向けられたところで、一拍置いてから一斉に火を噴いた。
轟音が重なり、射出された弾頭たちが横並びにて、空気を切り裂きながら目標へと殺到する。
山々にこれを防ぐ手立てはない。
〇
五十門からなる新・竹火輪砲による集中砲火。
火の雨と水平掃射による激烈な挨拶にて、暴虐の王の居城は派手に爆破炎上し、その姿を大きく変え、背もずいぶんと低くなった。
スエッコの住処、一番標高が低くてゴツゴツした岩だらけの荒れ山は、頂上にあったシンボルの巨岩が砕けて倒壊し、あちらこちらで崖崩れも起きて、半壊している。
カンスケの住処、二番目の高さにて、雪化粧の姿が優麗であった山は、もはや見る影もないほどに落ちぶれている。均整の取れた形が崩れ、化粧もすっかりはがれた。なまじ元がキレイであった分だけ、凋落ぶりがいっそう際立つ。
ハートの住処、もっとも大きな山からは火口から黒煙がモウモウとあがり、まるで血を吐くかのようにして溶岩が流れ出している。こちらの攻撃に誘発されて、噴火が起きたようだ。
滔々と溢れるマグマによって生じた劫火の川が山肌を焼き、巨大な赤いヘビのように地を這いうねる。
大量に舞い上げられた粉塵にて陽が陰った。
荒れ地一帯が薄闇に包まれ、高熱を帯びた灰が風に踊っては渦を巻く。
自分たちの攻撃により顕現した地獄。
その凄まじい光景を目の当たりにして――
「おうおう、せっかくのいい天気が台無しじゃない」
なんぞと私はうそぶくも、直後に望遠鏡を持つ手にギチリと力が篭る。
レンズ越しに視えたのは宿敵の姿だ。
あれほどの攻撃にさらされたというのに、ハートはなおも健在にて。
降り注ぐ石礫や、落石、足下に押し寄せるマグマなんぞはものともせずに、瓦礫の中で仁王立ちしては、こっちを見ている。
遠すぎて表情まではわからない。
けれども、それでも私は確かにヤツの視線を感じた。
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