竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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062 カイザラーン

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 ピー! ピー! ピー! ピー!

 作業完了を報せるブザーが鳴り響く。
 とたんに培養カプセル内に満ちていた『竹瀝』が、ゴポゴポと足下の方から抜けていく。
 十三日間にもおよぶ強化期間を終え、私はゆっくりと顔をあげた。
 サクタたちよりも三日ほど余計に時間がかかったのは、たぶん個体差のせいであろう。
 いろいろと取り込んでは吸収している分だけ、体内での調整に手間がかかったとおもわれる。

 培養カプセルのフタが開き、私は外へと出た。
 すると待ちかまえていた竹三人官女たちが、すぐさま寄ってきて濡れた体を拭いたり、髪をすいたりと世話を焼き始める。
 しばらくはされるがままにて。
 身支度を整えてもらいつつ、同期し彼女たちの目を通じて己の姿を確認してみたところ……

「フム。外見の変化はとくになし、か。ちぇっ、どうせなら私もみんなみたいにカッコよくなりたかったのに」

  〇

 強化を経て――
 サクタは虎斑がカッコいい黒銀の竹侍将軍にランクアップした。

 竹女武者のマサゴはまるで紅寒竹のような朱色となり、いち剣客から隊を率いるにふさわしい風格を兼ね備えた竹女武将となる。

 竹忍者らの組頭であるコウリンは、なんと! 迷彩柄に変色した。
 えっ、たったそれだけ? と侮るなかれ。
 この迷彩……自在に仕様を変えられるのである。
 森の中ならば竹色と濃緑、雪原地帯ならば白と灰色みたいに。
 複数の色によるパターンを描いた分割迷彩だけでなく、必要に応じて単色迷彩にもなれちゃう。色の濃淡や陰影も自在だ。これにより瞬時に周囲の景色に溶け込む。
 コウリンの隠形の術と合わさることで、鬼に金棒である。

 タマキ、ヒコノ、オヨウら三人竹官女らは若竹色の肌艶がいっそう増して華やかになったばかりか、長くのびた髪の毛が鋼線のような強度を持ち、切れ味のいいワイヤーソーのような武器へと変じる。
 身にまとっている着物の袖もまた柔から剛へと瞬時に変じては、刃物としたり盾となったりする。

 黒鍬衆の率いるウンサイさんは……
 白い眉毛と顎髭のボリュームが増したばかりか、あらたに腕がにょきにょき生えて、六本腕の阿修羅みたいな姿になった。あるいは蜘蛛のお化け?
 では、どうしてそんな劇的な変化を遂げたのかといえば、すべては作業効率をアップさせるためである。
 腕の数が増えた分だけ、単純に同時にこなさせる作業量も増えた。
 また手が増えた分だけ、より細かな作業もこなせるようになる。
 二本の腕では成せぬことが可能となった。
 おかげでみんなの新装備も滞りなく用意できたけど、おそるべきは職人スピリッツである。

 竹砲兵であるイスケは、ぱっと見にはあまり変化がなかったけれども、よくよく見てみたら襟首のところについている階級章の星印が、ひとつから四つに増えていた。
 これは階級があがったということなのかしらん?
 それから地味に目が良くなっており、より戦場を俯瞰して視れるようにもなっていた。

 竹僧兵のベンケイは、密度と重量感が増しており、ただただゴツイ。
 もはや竹人形というよりも、ゴーレムのようである。
 でもって丸太のような金棒を豪快に振り回すかたわらで、新たに竹把(たけたば)を出せるようになった。
 竹把――竹束とも書き、文字通り竹を束ねて縄で縛ったモノである。
 形状は円柱状をしており、盾として用いる。
 そんなものが本当に役に立つのか?
 との疑問はもっともだが、これがなかなかどうして丈夫だったりする。
 また軽くて頑丈な防具としてだけでなく、陣地の構築および、攻城戦ではハシゴとしたり、水に浮かべては橋としたり、ぬかるむ足場を補強したり、火計の際には燃料にもなる優れモノ。アイデアや組み合わせ次第でいろいろデキそうである。

 主要メンバーらは『竹瀝』を大量に摂取することで、さらなるパワーアップをはたす。
 比べて私だが、見た目はそのまま。内包しているリグニンパワーはいくぶん増したようだが、そこまで劇的に変化していない。
 ただし、変化はたしかにあった。
 おそろしく心の内が凪いでいるのだ。

 菱形をした緋色の禍石を吸収したことにより、私のリグニンパワーは異常洪水時防災操作級になっていたものの、それをちゃんと管理できていたかといえば、否である。
 首根っこを抑えているような状態にて、栓を開けたが最後、ドバドバドバ……
 放出の勢いが凄すぎて、とてもではないがコントロールできない。落ちつくまで放置するしかなかった。
 それが細かく調整できるようになったのだ。
 完全な制御下に置けるようになった。
 一切の無駄がなくなり、より効率よくリグニンパワーを運用できるようになったメリットは計り知れない。

  〇

 身支度が終わった。
 最後に竹女官のタマキから渡された竹皮のマントを羽織り、私は整列して待っている一同に向かって告げた。

「さてと、うちもずいぶんと大所帯になったことだし、ここいらで一発ビシっと軍団名をつけるとしようか。
 培養カプセル内にいるときに考えたんだけど、以降、私たちは『カイザラーン』と名乗ることにする」

 カイザラーン……アラビア語で竹を意味する言葉だ。
 どうよ? 字面といい言葉の響きといい、ちょっとカッコよくない。
 賛同するかのようにして、二の腕をカンコンカンコン打ち鳴らし、囃し立てる一同。
 そんなみんなに私は高らかに宣言する。

「諸君、機は熟した……。さぁ、狩りを始めるとしよう」


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