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059 竹玉神事キラキラ
しおりを挟むひさかたの天の原より 生れ来る神の命 奥山の賢木の枝に 白香つけ木綿とりつけて 斎瓮を斎ひほりすゑ 竹玉を繁に貫き垂り 鹿猪じもの膝折り伏せて 手弱女の襲衣取り懸け かくだにもわれは祈ひなむ 君に逢はじかも
これは万葉集の巻三にある大伴坂上郎女が詠んだ、神を祭る長歌である。
えっ、長歌って何?
この歌の意味は?
いったい何について詠んでいるの?
といったことは、まぁ、どうでもよろしい。
注目すべきは、この長歌に登場する『竹玉』というキーワードである。
竹玉とは――
細い竹を輪切りにして、数珠みたいにひもで継ぎ合わせた装具のこと。
遥かいにしえ、遠きまほろばの頃。
この竹玉には神霊の力が宿ると信じられており、願掛けに使われていたという。
ようは現代でいうところのミサンガとかパワーストーンのブレスレットみたいなモノである。
ただし、ひと口に願いといっても様々にて。
例えば……
『キーッ! あの女さえいなければ私だって。お願い! どうかあの女が不幸になりますように、ナムナム』
とか。
『どうしてアイツばかりが……オレだってこんなにがんばっているのに。悔しい、辛い、妬ましい。あぁ、どうか今度の仕事でヤツが失敗しますように』
とか。
『どうかお母さんが早く元気になりますように』
などなど。
そこに込められる想いは人それぞれにて。
まぁ、ぶっちゃけると竹玉は神事だけでなく、裏では呪具としても使用されていたという闇の歴史を持つ。
願いと呪いは表裏一体、紙一重みたいなもの。
一説によると、全世界での幸福の総量というのはあらかじめ決められており、人々は無意識のうちに限られたパイを奪い合っているのだという。
仲良くみんなで分ければ、みんながそこそこ幸せになれるというのに、だ。
とどのつまり、自分の幸せは誰かの不幸の上に成り立っているというお話。
もしもこれが本当だったら、じつに嘆かわしいことである。
でもまぁ、自分の利益や欲求を最優先に考える態度や行動に、ついつい走りがちなところが、いかにもヒトらしいといえばらしいわけで……
おっと、話がいささか横道にそれてしまったか。
それで肝心の竹玉なのだけれども。
大量の『竹瀝』作りの合間に、休憩がてら竹イヌのヘミを散歩させている時に、ふとその存在について思い出した。
ちなみに竹イヌの名前の由来は、竹の主成分のひとつであるヘミセルロースから。
はじめは『ロース』と名付けようとしたんだけど、みんなから「なんだか特売のお肉っぽい」と止められた。
さりとて『セル』はマズかろう、某有名キャラと丸かぶりにて。
で、残った部分の『ヘミ』が採用されたと。
間を取って『ミセル』という案もあったんだけど、これは却下した。
だってイケメン風でカッコ良すぎて、この子には似合わないんだもの。
しかしこのヘミなのだが、他のネームド仲間とちがって、名付けをしても、ちっとも変わらないでやんの。
いちおう復活前よりもグンと強くなっている。
はずなのにアホイヌ感丸出しにて、とにかく落ちつきがない。あいわからず待ては覚えないし、しょっちゅうイタズラをしては、怒った竹三人官女らに追いかけ回されている。
リードをはずされハフハフ元気に駆け回っているヘミを横目に、私はその辺に落ちていた倒竹を拾って、チャチャっと竹玉をこさえてみたのだけれども。
ここで疑問が浮かぶ。
それは……
「う~ん、実際のところ、これって効果があるのかしらん?」
科学の申し子、元リケジョの身としては、呪いなんぞというあやふやなモノを断じて肯定するわけにはいかない。幸福量うんぬんの話だって本気で信じちゃいない。
とはいえ、それはあくまで前世での話だ。
今世はいろいろと勝手がちがう。禍々という異能を使うバケモノどもが跳梁跋扈している、ファンタジー要素あふれる異世界にて。
かくいう私自身もハイボ・ロード種として生を得た身である。
体内に滾るリグニンパワーを行使しては、自在に竹林を操るばかりか、自分のアバターである竹姫ちゃん(中)の格好で、そこいらをウロついたり、多数の竹人形たちを従えていたり……と、わりとやりたい放題であったりする。
というか、いまだに自分自身の能力についても、すべてを把握していないし。
でも、だからこそだ。
私はこうおもったのだ。
「本当に呪えちゃったらウケるんですけど~、ぷーくすくす(ギャル風)」
とはいえ、いきなり誰かを呪うというのもいかがなものか。
そこで私は呪うのではなくて、神事として祈る方向で試してみることにした。
対象は……あそこで無邪気に穴を掘っているヘミでいいだろう。
それじゃあさっそく。
「え~と、こんな感じでいいかな? 祓へ給ひ清め給へ~」
竹玉を掲げ、じゃらじゃらさせながら、うろ覚えの祝詞を適当に唱える。
くり返すこと三度ばかし。
そろそろ飽きてきた……というか、我に返って恥ずかしくなってきたので、止めようとした矢先のことであった。
キラキラキラキラ……
竹林の梢の隙間から光が差し込み、穴掘りに夢中になっているヘミの背へと降り注いだとおもったら、その身が薄っすら輝きだしたではないか!
これには私もおったまげ。
「えぇーっ、もしかして本当に祝福を与えちゃったの! うそ~ん、私ってばそんなことも出来ちゃうの!?」
竹姫ちゃん(中)におもわぬ能力が開花しちゃったかも。
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