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058 爆誕!竹侍将軍
しおりを挟む培養カプセルに身を沈めてから十日後――
みずからフタを開けて、外に出てきたサクタは見違えるほどに変化していた。
まず体だ。
ひと回り大きくなっている。
さりとて単にデカくなったというわけじゃなくて、より均整がとれた体躯となり、それは幾年月にも及ぶ長い修行を経て鍛えあげられた武辺者のようでもあり、幾多の戦場を潜り抜けた修羅のようでもあり……
肌の色にも変化が生じている。
幹の艶が増し、磨き込まれた黒竹のようだが、何よりも目を惹くのは体表に浮かぶ虎斑である。
通常の虎斑竹は、表面に多数の茶褐色な虎斑状の斑紋があるのに対して、サクタのはまるで蒔絵のように精緻かつ、螺鈿細工のように美しく七色に淡く輝く。
サクタと平行して別の培養カプセルに浸しておいた防具類。
こちらの形状や形質も劇的に変化する。
源平合戦の世にあった大鎧のような姿が、南蛮胴具足っぽいのになった。
えっ、何ソレ、ちょっとよくわからない?
あー、これは五月人形のが、第六天魔王・信長さま専用になったようなもの。
時代に換算すれば、平安末期から戦国時代へ、いっきに四百年以上も跳躍したようなもので。
でもって南蛮胴具足だけど、これは戦国時代に登場し戦場を席捲していた鉄砲の弾丸にも耐えられる堅牢さを誇る。
甲冑は黒銀色で統一されており、こちらにも虎斑が刻まれているのだけれども、ぱっと見にはわからない。
角度によって、陰影がうっすらと浮かび上がる仕様なのだけれども、これがまた渋カッコいい!
甲冑を身に着け立つ姿は、威風堂々にして優麗。
サクタは竹侍大将から竹侍将軍へとランクアップを果たす。
「あらまぁ、初々しい若侍だった子が、こんなにも立派になって……」
すっかりお母さん目線にて、元リケジョにして歴女でもある私は感無量である。
くっ、手元にスマホがないのが悔やまれる。とりあえずピンホールカメラあたりから作るか。でも、アレってば撮影時間がめちゃくちゃかかるんだよなぁ、う~ん。
なんぞと私が考えているうちに、サクタとウンサイさんはサッサと研究室を出ていく。
向かったのは地下五階の最下層だ。
かつてキマイラなミイラが隔離されていたエリアも、その頑強さを活かし、いまでは各種研究成果を試すための実験場となっている。
「ちょ、ちょっと待ってよ。置いてかないで~」
私もあわててふたりを追った。
〇
まずは軽く馴らし運転とばかりに、体を動かすサクタ。
両の拳を構えては、シュッシュとシャドーボクシングを始めた。
大柄のわりに軽快なフットワーク、繰り出す左ジャブが空気を切り裂き、右ストレートが轟っとうなる。
じょじょに回転をあげていく。
やがて手先がほとんど見えなくなった。
それだけパンチが鋭く加速しているということ。私はおもわず二度見するも、残影を目で追うのがやっとである。
ウォーミングアップを終えたサクタは大太刀を手にし、ブンブン。
最初は正眼の構えから上下に素振り、からの踏み込んでの面、小手、胴、引き胴、払い、突きなどをひと通り試してからは、連続技の型稽古を始めたのだけれども……
これがまた凄まじい。
一刀ごとにまるで空間が本当に裂けているかのような錯覚を抱かされる。
しかも閃きが先にて、風切り音があとからやってくる。
まるで雷みたいだ。
それすなわち剣速が音より勝っているということ!?
産み出される斬撃たるや、どれほどのモノになるのかは、ちょっと想像がつかない。
続いてサクタがもっとも得意とする槍へと持ち替える。
握った長柄を手の中で滑らせ、穂先が突き進み、敵の身を穿つ。
この動作を『槍をしごく』という。槍術の基本となる型だ。
地味な動きをサクタは淡々とくり返す。
でも、ひと突き、ひと刺しが必中必殺の威力を秘めており。
その槍捌きに込められた烈々たるや、空前絶後にて……
はたで見学していた私はまるで生きた心地がしやしない。
「……本当にすごい。これならパンダクマたちにも通用するはず。ヤツらの硬い毛やぶ厚い皮下脂肪、筋肉の鎧をもきっと貫ける。
とはいえ、問題がまったくないわけでもない……、か」
私がつぶやいた刹那、パンっ!
はじけたのはサクタが握っていた練習用の槍である。
穂先を固定している口金も割れて、切っ先がポロリと落ちたとおもったら、床に当たったはずみで砕けて折れてしまった。槍身全体もささくれてしまい、原型を留めない。
じつは先に振っていた大太刀も似たり寄ったりにて。
原因は、遣い手に得物の方がついていけなかったせいだ。サクタの動きに刀や槍が耐えられない。
「う~ん。これは主要メンバーらの強化と平行して、新しい武器の制作にも着手しないと。ウンサイさん、悪いんだけど急ピッチでお願いね」
かくいう強化の方も口で言うほど楽じゃないし。
なぜなら一体の強化に使用される『竹瀝』の量が尋常ではないから。
培養カプセルを満たして、そこに竹人形を放り込んでおけばいいわけじゃない。
じつは新たな液をじゃんじゃん投入しては、循環させて、古くなったのと入れ換え続けなければならないのだ。
そうしないと吸収された分だけ、薬液が薄まってしまうからね。
つねに一定以上の品質、高濃度を維持しなけばならないので、24時間つきっきりでの調整が必要となる。
消費される液量もまた膨大だ。
あくまで概算だけれども、たぶんサクタを仕上げるのに小学校のプール一杯分ぐらいはかかってる。
数字にしたら、だいたい540トンぐらいかしらん。
これ掛ける人数分……
う~ん、とてつもない。考えただけで卒倒しそう。
こりゃあ、当分の間、私はせっせと『竹瀝』造りに励むことになりそうだね、トホホ。
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