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056 竹通信
しおりを挟むコン、コン、コン――
軽く青竹をノックすること三回。
これは『竹通信』を開始する合図だ。
私が竹姫ちゃん(小)から(中)へと成長したおりに身につけた新能力にて、竹を通じて無線のように遠距離通話ができるという優れモノである。
とはいえ性能はイマイチにて、前世にあったスマートフォンには遠くおよばない。初期の携帯電話とどっこいどっこい。
よって今後の改良は必須である。
「ザー、ザー……、竹姫……さま、竹姫さま、聞こえますか? こちらジュドーです」
雑音まじりで聞こえてきたのは、ケモミミ青年の声。やや音割れしている。
現在、唯一の外部協力員にして、病気の妹さんを助けるために私と悪魔の契約をした人物でもある。
ちなみにその契約というのは、新薬の人体実験だ。
提供したのは『竹瀝』なる品。
これは私特製の劇的な効果を持つ万能薬液である。
どれくらいスゴイのかといえば、もげかけている腕が元通りになり、瀕死の重傷すらもが数日で完治するぐらい。
回復ポーションっぽいノリで作ったのだけれども、出来上がったのは伝説のエリクサーみたいなシロモノであった。
怪我以外の病気類にもどれぐらい効果があるのか?
それを確かめたかったので、私はこの取引をジュドーくんに申し込んだところ、彼はこちらの差しのべた手を取った。
なおその対価として私が求めたのは、彼の持つ知識全般である。
ほら、私たちってば深山の奥深くで隠遁生活を送っているからね。外部の情報がほとんど入ってこないんだよ。ぶっちゃけ外の世界のことを何も知らない。目隠しをして耳を塞ぎ生活しているようなものだ。
どんな種族が暮らしているのか、社会体制、信仰、文化、モノの考え方、倫理観、技術レベル、周辺の国々および関係性などなど。
知っておくべき情報は山とある。
今後の活動のことを考えれば、非常にマズイ状況にて、それを憂いての提案であった。
ジュドーくんは妹さんが助かるかもしれない。
私たちは欲しい情報が手に入るし、外部との伝手も得られる。
双方が得をする、いわゆるウィン・ウィンな関係というヤツだ。
「あー、はいはい、こちら竹姫です。ちゃんと聞こえてるよ~」
私は返事をする。
でも感度はイマイチかなぁ。どっかで雷雨でも発生しているのかもしれない。
この『竹通信』は天候に左右されたり、距離より音声に遅延が生じるのが困りモノ。ゆくゆくはこれらも改善したいところ。
「ザザー……ご無沙汰しております。それで例の件なのですが……」
「おっ、何かわかったの?」
「はい、どうやら以前に自分たちが遭遇した、グンニゲルの大群と関係があったようでして」
私がジュドーくんに調べるように頼んでいたのは、アンスロポスの軍勢がシロクロコム――パンダクマに仕掛けた戦について。
結果は大惨敗にて、スエッコひとりに全滅させられちゃったんだけど。
気になったのは、『どうしてあのタイミングで行動を起こしたのか?』ということ。
アンスロポスの軍はけっして弱くはなかった。マギアという魔法みたいな能力を行使しての戦法はなかなかのモノ。特殊な装備類を持ち、兵士たちの練度も高かったとおもう。
けど、万全の状態でパンダクマに挑んだのかと問われれば……、う~ん。
なんていうか……リサーチ不足?
ハート、カンスケ、スエッコら三兄弟をまとめて相手にするには、いささか……いや、かなり戦力不足であったのは否めない。
いかに自分たちの能力に自信があったとしても、だ。
もしかしたらパンダクマが三頭いることすらも知らなかったのではなかろうか。
だとすれば、あまりにも調査不足であろう。
しかしあの統率ぶりからして、指揮官はけっして無能なんかじゃない。兵たちもうちの子たちには及ばないけれども、それなりに勇猛だった。
にもかかわらず進軍を強行した。決着を急いだ。
それが私にはどうにも腑に落ちなかったのだけれども、ジュドーくんが仕入れてきた情報により「フム、なるほど。そんな裏事情があったんだね」と納得する。
アンスロポスの軍勢が派遣された理由……
それはグンニゲルたちの大移動が起因していた。
パンダクマたちとの生存競争を放棄し、しっぽを巻いて逃げたグンニゲルたち。
ヤツらが向かったのは、私たちが縄張りにしている荒れ地の東側だけではなかったのだ。
他の方面にも散りぢりになっていたようで、それらが波となり押し寄せることで、ついには各地で氾濫――スタンピードを引き起こす。
同時多発的に発生、規模は広域にて複数国にまたがり、被害はピンからキリまで。
畑がちょっと荒らされた程度ですんだところもあれば、ガッツリ遭遇して壊滅の憂き目にあった都市なんかもあるらしい。
なまじ高い壁に囲まれており、守りが堅いところほど油断があったようで、怒涛のごとく押し寄せるグンニゲルどもや、それらといっしょになって向かってきた凶暴な獣や禍々らによって、瞬く間に蹂躙されてしまったそうな。
驕れる者久しからずというヤツだ。
滅びるときは一瞬にて。
で、その滅んだ都市というのがとある大国に所属しており、自国がこうむった被害状況および、詳細な報告を受けた王さまは大激怒!
周囲が止めるのも聞かずに、すぐさま元凶となったシロクロコムの討伐を命じたと。
運悪くその指揮官に任命されたのが、スエッコに丸かじりされちゃったあの男だったのであろう。
政争に巻き込まれたか、上司に厭われたか、あるいはたんに貧乏クジを引いたか。
国元から相当にせっ突かれていたがゆえの、あの強行軍であったのだ。
そんな無茶ぶりにつき合わさた挙句に、無惨に散った兵士たちもまた憐れにて。
「いやはや、宮仕えツライねえ」
とくに上司が無能だともう、ね。
私は冥福を祈らずにはいられない、ナムナム。
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