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055 異常洪水時防災操作級
しおりを挟むペロ~リ、ペロペロ……
周囲の目を気にしつつ、こつこつ根気よく舐め続けること、百と十一日目にして、ついに――
ついに私は菱形の緋色石の吸収を完遂した。
「ふぅ、もう少し時間がかかるかとおもったんだけど、途中から吸収スピードがちょびっとあがっていたっぽいから、そのおかげかな?」
最初のうちはとにかく反発が強かった。
意思のない石のくせして「おまえなんぞに喰われてなるものか! カーッ、ペッ、千年早いわ、出直してこい、このしょんべんクサい小娘がっ!」と云わんばかりに拒絶する。
石だけに非常にかたくなで、わからずや。
頑固一徹にて、一度決めたらテコでも自分の考えや態度を変えようとしないところは、庭師だった祖父にそっくり。
だがしかーし、私とて負けちゃいない。
なにせ一本気なことにかけたら、天突き生える竹の右に出る者はいないからね。
それを統べる女王である私もまた負けん気が強い。
「上等だ! そっちがその気なら、こっちもとことん付き合ってやらぁ!」
と啖呵を切っては、これでもか、これでもか、ってぐらいに執拗にネチネチ責めてやった。
「オラオラオラ、竹のしぶとさ、舐めんなよ」
ときに地中へ埋め込まれたコンクリート塀をも突き破り、敷き詰められたアスファルトもなんのその。
ワイドショーとかでたまに話題になるド根性大根やらド根性スイカなんぞは、ちゃんちゃらおかしくって、ヘソで茶を沸かす。
ひとたび侵入を許したが最後、気づけばあっという間に一帯を浸蝕している。
それが、竹。
植物界の破壊王の異名は伊達ではない。
とはいえ敵もさるもの。
ひと筋縄ではいかない。たいそう苦戦をしいられた。
初期の頃はどうにかして体内に取り込んでも、なかなか馴染まなかったもので胃もたれ気味で難儀する。
しかしそれをどうにか乗り越え、ちょうど折り返し地点へと差し掛かったあたりで、ガラリと風向きが変わった。
たぶん吸収した成分が定着し身についたことで、私自身が成長したおかげとおもわれる。
とはいえ、見た目はさっぱり変わっていないけどね。
あいかわらず可憐な竹姫ちゃん(中)のままだ。
ただし、内包しているエネルギーやこねくりまわせるリグニンパワーが段ちがいになっている。一度に扱える量がグンと増えた。
イメージで例えるならば、これまでが機動隊の特殊車両である高圧放水車による放水砲だとすれば、いまならば巨大ダムからの緊急放流に近いモノになっている。
この放流、正しくは『異常洪水時防災操作』というのだけれども、意味は読んで字のごとし。
私自身がダムとなり、毎秒・数十トンもの大量の水がドバドバと瀑布となって降り注ぐ……といった感じかしらん。
とにかく滾りまくっている。
それこそ変身できそうなぐらいに。
だから、ちょっと自室で試してみた。
「チクリン・リグニンパワー! メイクアップ!」
と叫んで、ポーズも決めてみたんだけど。
……
…………
………………
あー、うん、ダメだった。
変身のへの字もなかったよ。ピロンと竹ひごの一本も生えやしない。
ばかりか間の悪いことに、決めポーズをやっているところを、うっかりお茶を運んできてくれた竹女官のタマキにばっちり見られたものだから、気まずいったらありゃしない!
そっとお盆ごと湯飲みを置いていったタマキ。
かとおもえばすぐにヒコノとオヨウを連れてきて、三体がかりで私は寝床に放り込まれた。
どうやら頭がおかしくなったと心配されてしまったらしい。うぅ、めんぼくない。
ちなみにヒコノとオヨウはタマキと同じく竹女官である。
かつての三人竹官女が揃い踏み。
私の世話役として仕えてくれていた彼女たちを、少し前に復活させたのだ。
ふたりの名前の由来はタマキと同系統である。
大正ロマンを代表する画家・竹久夢二に翻弄された三人の女たちから拝借した。
モテまくり人生の夢二先生、だがその大衆人気とは裏腹に中央画壇には認められず、終生、野にあって新しい美術のあり方を模索しては、ウツウツしていたらしい。
たぶんセンスや感覚が先進すぎたのであろう。
天才ゆえに起きた悲劇、悲しいことである。ナムナム。
なお三人竹官女を復活させてネームも与えたのは、庵を増改築して邸宅にしたのと、ここのところの自陣営の発展ぶりが目覚ましいからだ。
古代遺跡を手に入れたことにより、第二拠点と巨大工房および大量の資材が調達できた。
また私の成長にともなって、有り余るリグニンパワーを活用しては、せっせと竹人形らを製造し、自軍の増強に努めている。
それにともなって規模も拡大し編成も変更した。
かつては剣、槍、弓で武装した者らによる三部隊と、それらとは別に竹忍者たちによる斥候部隊、これに竹工作兵らの黒鍬衆という編成であったのが、新たに砲兵部門を新設した。竹火輪砲などによる支援攻撃を担う兵科にて、これにより私たちの戦術の幅はいっきに広がった。
パンダクマ三兄弟とのリベンジマッチに向けて、準備は着々と整いつつある。
決戦の日は近い。
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