竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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052 火の山

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 ブブブブブブ……

 かすかに響くのは羽音だ。
 網目模様にて向う側が透けてみえるほどに薄い四枚のはね
 それらを小刻みに震わせ飛ぶのは竹蜻蛉たけとんぼである。
 全長は十五センチほど、実寸大にて遠隔操作が可能。
 今風にいえば虫型のドローンのようなもの。
 地下茎がおよばない上空域、ワイヤレス竹電式の範囲外での活動を可能にしたのは、ウンサイさんが開発に成功した竹電池のおかげだ。
 ようは小型のバッテリーにて、軽量かつ小柄な竹蜻蛉であれば稼働時間は二時間ほどもつ。
 これにより私たちは危険をおかすことなく、竹林外の広範囲を偵察できるようになった。

 スーッと垂直に上空へと舞い上がっては、風を捉まえる。
 気流に乗って飛行することで、竹電池の消耗を抑える。

「……よし、うまく乗れたみたいだね。あとはこのまま西へ進路をとって、と」

 あとはしばらく風に身をまかせておけばいい。勝手に目的地の近くへと運んでくれる。
 私はほっとひと息つく。
 同期している竹蜻蛉から送られてくる映像、壮大な景色をしばし堪能する。

 どこまでも続く青い空、流れる白い雲、遥かなる地平線……

 世界はとてつもなく広い。
 それに比べたら私のなんとちっぽけなことか……支配する竹林なんてゴマ粒にも満たないだろう。
 過酷な環境を生き残り、数多のライバルどもを蹴散らし、生存競争に勝利して竹林の女王として君臨する。
 その道のりは果てしなく遠く険しい。
 だけど……
 私はぶるると武者震いした。

「けっして届かない夢じゃない。なにせ竹の、リグニンの可能性は無限大だからね。せっかく優良種であるハイボ・ロード種とやらに産まれたからには、てっぺんを目指す!」

 あらためてギンギラ光るお天道さまに「やったるで~」と誓う。
 と、そうこうしているうちに、はや目的地が近づいてきたもので、私は竹蜻蛉の機首をさげて、降下を開始する。
 じきに見えてきたのは大中小、三つの山が肩を寄せ合うようにして連なっている場所。

  〇

 鬱蒼とした樹海の奥深くにぽっかり開いた空白地帯にそそり立つ山々。
 そこはこの一帯を統べる王の居城だ。
 宿敵であるパンダクマども――シロクロコム三兄弟の住処。

 もうもうと煙を吐いては、ときおり火口が煌々と不気味に光り、赤い飛沫をあげている一番大きな山。そこに長兄であるハートはいる。
 山肌には万年雪があり、まるで白化粧が施されたような優美さのある二番目に大きな山には、次兄のカンスケが。
 岩だらけでゴツゴツしており、頂上にはひと際大きな巨石が鎮座している三番目の山には、末弟のスエッコが陣取っている。

 樹海と三連山との間は荒れ地にて、身を隠せるような場所はどこにもなく、山の上から丸見えだ。
 たとえ夜陰に紛れて近づこうとしたとて、すぐに気取られることであろう。
 山の周辺がひらけているので、一見すると軍勢を展開しやすそうにおもえるが、そうじゃない。
 ヤツらが存分に暴れるのにこそ都合がいいのだ。
 投擲する岩にもこと欠かない。

 ――守るに易く、攻めるに難い地形だ。

 何度見ても、おもわず舌打ちしたくなる。
 じつは偵察をするのは、これで七度目。
 おかげで竹蜻蛉の操作にはすっかり馴れたものの、肝心の攻略法がまだ見つかっていない。
 もしも一帯の地盤がもう少し柔らかければ、地下茎にてこっそり掘り進めて、大きな落とし穴でも仕掛けられたのだけれども、めちゃくちゃ硬いんでやんの。
 たぶん、以前に噴火した折に流れ出たマグマが固まったせいだろうけど、カチンコチンにて隙間もほとんどなく、塗り固められてしまっているのだ。
 コツコツがんばれば、掘れないこともないだろうけど、いったい何年かかることやら。

「いやはや、まいったねぇ、どうしたものやら。って、んんん? あれは……」

 三連山の上空を竹蜻蛉でうろちょろしていたら、南西の方角、荒れ地の手前の樹海にてウゴウゴしている連中を発見した。
 ブ~ンと翅を震わせ近寄ってみれば、雄々しい甲冑姿の兵らで構成された軍勢である。
 けっこうな規模にて、数千、もしくは万に届く数かも。
 それらが森に息を潜めては、山の方の様子を伺っている。

「うげっ、アンスロポスだけで構成された軍隊だ」

 ジュドーくん情報によると、彼のようなケモミミな獣人はテリオン族といい、私の前身でもあるホモサピエンスっぽいのをアンスロポス族というそうな。
 では、どうして「うげっ」なのかといえば、そのアンスロポス族というのが困ったちゃんだからである。
 連中の大半が他の種族を亜人と蔑んでは下にみているのだ。
 彼らの社会ではなんとか信教というのが幅を利かせており、その教義による思想らしいのだけれども、ことあるごとに一方的に突っかかられる他種族からすれば、迷惑千万な話にて。
 そんな教義を幼少期から刷り込まれたら、もう、ねえ?
 もはや洗脳である。
 いやはや教育って怖いよね。

 そんな話をジュドーくんから聞かされているせいで、私の中でのアンスロポス族に対する評価はかなり低い。
 ぶっちゃけ関わりたくない。討伐対象とかにされそうだし。
 あー、そうそう、そのジュドーくんといえば……
 病気の妹さん、助かったってさ。
 さすがは私印の『竹瀝』だけのことはある。効果覿面こうかてきめんにて順調に回復しているとのこと。この前、竹通信で連絡があった。
 いや~よかった、よかった。
 っと、いまはそれどころじゃなかったね。
 アンスロポスの軍勢VSパンダクマ三兄弟である。

「うーん、わざわざこんなところにまで出向いてきたということは、つまりはそういうことなのだろうけど」

 はてさて、アンスロポスたちの実力やいかに?


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