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049 竹砦の攻防 後編
しおりを挟むボスのひと吠えにより、死兵と化した敵勢。
骸がみるみる積み上がっていく。
グンニゲルらの肉の階段が、じょじょに高くなっていき、ついには15メートルほどにもなった。
あと少しで竹壁が突破される。
されたが最後、いっきに数で押し切られることは明白にて。
「ちっ、なんてことを……。群れの仲間たちの命をなんだとおもってんだ!」
私は拳を強く握りしめる。
恐れ、慄きとともにふつふつと湧いてくるのは怒りだ。
いくら暴君とて、さすがにこれはナイ。いや、あってたまるか!
アイツは……あの影法師はダメだ。とてもではないが群れを率いるボスとして許容できない。
だから私は決めた。
「アイツはここで必ず仕留める」
すぐさま竹スナイパーライフルを構えては、照準をセット。
スコープのど真ん中にヤツを捉えたところで、迷わず引き金をひく。
バンッ! バンッ! バンッ!
三連射を放つ。
狙いあやまたず、弾丸はヤツのもとへと飛んでいく。
が、届かない。
手前にいる盾役のグンニゲルたちによって、すべて阻まれてしまった。
ばかりか、たったいま量産された骸すらもがヤツを守る盾となってしまう。
隠れるということは、こちらの攻撃を嫌がっているということ。当たればたぶん効く。だが、それがムズカシイ。
用心深いヤツのことだ。あれ以上、前に出てくることはないだろう。
「くそ、いっそのことこちらから打って出るべきか。
でも、そうしたらたちまち囲まれて数で圧殺されてしまうだろうし。それにこちらがムキになって前線を押し上げたところで、きっと後退してつねに一定の距離を保つにちがいない」
完全に決着がつき、己の安全が確保されないかぎりは、絶対に表に出てこない。
あれはそういう厭らしいタイプだ
「もう少し手前に陣取ってくれたら、ちくちく地獄(改)の餌食にしてやるんだけど。さすがに遠すぎる。さりとてこっちから近づくのは悪手だし、高所の利点も失せてしまうし……いや、ちょっと待てよ。そうか高所か」
あらためて現状をかんがみるに、火力こそは勝っているが、戦力差は歴然にて。
いかに個々の武が強かろうとも、さすがにここまでの劣勢では、いかんともしがたく。
地下茎を通じて救援要請は出しているけれども、援軍はちょっと間に合いそうにない。
でもって、現在位置は丘の上だ。周囲を見下ろせる高台に建てられた竹砦である。
おかげで敵の布陣は丸見えにて、動きも手に取るようにわかる。
それすなわち高さを制しているのは、私たちということ。
この利点を活かした狙撃にて勝敗を決したかったのだけれど、互いの距離がありすぎてさすがに弓矢は届かず。唯一、狙えるのは竹スナイパーライフルだが、敵首魁を守る肉の盾によって阻まれてしまう。
この事態を打開するには……
「しょうがないね……アレをぶちかますか」
アレとは対パンダクマ用の秘密兵器として開発中のモノ。
構想自体は前々からあって、それをもとにウンサイさんに開発を頼んである。試験用のプロトタイプならばすでに完成しており、現在は各種データと照らし合わせながら、改良しつつ試運転を重ねているところ。
よって秘密兵器について知見はすべて頭の中にある。
私の能力を使えば再現は可能だろう。
ただし、あり合わせの上に即席だから強度は期待できない。
一発、もしくは二発使えれば御の字といったところか。
「おあつらえむきなことに立派な物見櫓もあることだし、こいつを代用するとしよう」
そうと決まればさっそく準備にとりかからなければ。
私はみなに指示を出しつつ、体内にてリグニンパワーを練るねるねるね。
〇
竹砦へと押し寄せる敵勢。
いよいよ竹壁が突破されるかというタイミングで、その壁がみずからバタンと勢いよく外側へと倒れてきたものだから、攻め手側は面喰らった。
まるでコントの舞台のセットのように、パタパタっとね。
これにより轟っと強風が発生する。
砂埃が舞い一帯の視界が悪化した。
砦に取りついていた者らは、積み上げた肉の壁ごと斜面を転げては吹き飛ばされる。
じきに砂塵が薄まり、視界が戻ってきたとき。
無防備となった丘の上には、立派な物見櫓だけが残っていたのだけれども、それまでもがグラリと傾いだもので、残っていたグンニゲルどもはあわてふためく。
でも、それは杞憂であった。
なぜなら物見櫓が倒れるのが途中で止まったから。
そしてこの段になって、櫓の形が先ほどまでと変わっていることに一同気がつく。
八本のゾウタケで造られた櫓が、いつの間にか煙突みたいになっており、先端にはぽっかり穴が空いているではないか。
その穴がピタリと向いていたのは、グンニゲルどものボスである影法師がいるところ。
呆気にとられている敵勢を他所に、私はサクタたちに命じた。
「照準……よし、撃ち方始め、てーっ!」
緑海に割れんばかりの大轟音が鳴り響き、煙突が火を噴く。
これこそが対パンダクマ用に開発していた竹火輪砲、ようは竹製のキャノン砲である。戦国時代には木をくり抜いて造った大砲モドキがあったらしいので「竹でもできんじゃね?」と開発を始めたモノ。
大口径の砲塔にて、そのサイズは大和型戦艦に搭載されていた主砲に匹敵する。
超音速に達した弾頭が一条の光となり、戦場を切り裂く。
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