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045 禍々
しおりを挟む視線の先にてガサガサと草が揺れた。
繁みの奥からひょっこり顔を出したのは……黒いイヌ?
いや、もっとワイルドな顔立ちにてオオカミというべきか。
だが、こいつには見覚えがある。
ふらふらと竹林内を彷徨っていたところを何度か狩ったことがある。
なんにせよ、たいした相手ではない。
けれどもサクタとマサゴは妙に警戒しており、私は「はて?」
その理由はじきに明らかとなった。
ひょこ、ひょこ、ひょこひょこ、ひょこひょこひょこ、ひょこひょこひょこひょこ……
繁みの奥から次々にオオカミどもが顔を出す。
一頭ではなくて群れ、それもかなりの大規模にて、すでに囲まれている。
オオカミたちの体は草むらのなか、見せるのはあくまで顔だけ。
まるで緑の壁にたくさんのオオカミのお面を飾っているかのようだけど、何かあればすぐに引っ込めるように用心しているのであろうか。
などと私が考えていたら、ジュドーくんがボソッと。
「そ、そんな……どうしてグンニゲルがこんなところにいるんだ? こいつらはもっと西域の山中にいるはずなのに」
探索者として各地を旅してきたジュドーくんの情報によれば、この黒いオオカミはグンニゲルという禍々なんだそうな。
あー、禍々っていうのは、私がバケモノと呼んでいる者たちの総称ね。
パンダクマや炎のデカトラ、不気味な首長ばあさん、四本腕のサルなどなど。
こちらの世界では魔獣やモンスターではなくて、こう呼ぶのが一般的とのこと。
なので以降は私もそれに倣おうとおもう。
ジュドーくんのつぶやきに私は「ん?」と首をかしげる。
いや、だってほら、黒いオオカミならば竹林でちょいちょい見かけていたから。
もっとも、いま目の前にいる連中とはちがって、群れておらず、もっとやせぽっちにて喰いでがなく、たいした養分にはならなかったけれども。
だがそれよりも私が気になったのは『もっと西域うんぬん』という発言だ。
現在、私たちが拠点を構えている場所より西ということは、かつて竹の里があった場所および、渓流の向こう側を指す。
それすなわちパンダクマ三兄弟の縄張りなわけで……
「くっくっくっ、そういうことか」
私は独りごち、肩をくつくつ震わせた。
「なるほど、なるほど。こちらが雌伏している間、むこうさんもただ無為に過ごしていたというわけじゃないってことだね」
私たちが成長しているのと同じく、パンダクマどももまた成長している。
考えてみれば当然のこと。
アイツらはたしかに強い。少なくとも転生してから出遭ったなかでは最強にして、理不尽を濃縮した暴力の権化のような存在だ。
とはいえ、そんなヤツらもまたこの弱肉強食の世界に生きている。
強さの上に胡坐をかいていたら、気を抜いて油断していたら、たちまち他者に噛みつかれては喉元を喰い千切られ息絶え、冷たい骸と化す。
ああ見えて、パンダクマたちも生存競争に勝ち残るべく必死なのだ。
「あー、どうやら私は連中のことをかんちがいしていたみたい。てっきり調子に乗って目ざわりになったから、竹の里を叩き潰されたのかとおもっていたんだけど、ちがったんだ」
むしろ逆の理由にて。
いずれ脅威になると判断されたがゆえに、早いうちに芽を摘まれた。
それがあの竹の里襲撃事件の真相である。
ちなみにジュドーくんによれば、パンダクマの正式名称はシロクロコムというそうな。
まぁ、それはさておき……
「ここにいるはずのない連中がいる。それってつまり、このグンニゲルとかいうイヌっころどもは、生存競争からしっぽをまいて縄張りを放棄したってことだよね。
でもそれってさぁ、パンダクマどもにビビッて逃げ出したってことでしょう?
なのに私たちの前には、のこのこ姿をあらわしちゃうんだ。
へー、ほー、さいですか。これはまたずいぶんとナメられたもんだよねえ」
負け犬の分際で、私たちにならば勝てるとおもったのか。
とんだ屈辱である。
私はこめかみにビキリと青筋を浮かべつつ、ホルスターから竹鉄砲を取り出すなり、いきなりバン!
手近な相手の額へと目がけてぶっ放した。
それが開戦の合図となった。
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