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041 メンマと竹酒
しおりを挟むカッコン……
静寂の竹林に響くは鹿威しの音。
風雅な音色に耳を傾けながら、私は庵の自室にてメンマをつまみに竹酒をグイ呑み。
「こりこりこり……フム、おもったよりどちらもいい仕上がりだね」
おっと、竹姫ちゃん(中)になったけど、あいかわらずのモブな仮面顔の竹人形にもかかわらず、どうやって飲食をしているのか? だなんていう野暮なツッコミはなしね。
そこはそれ、異世界ファンタジーのご都合主義ってことで。
にしても、やはり地下茎を中心にした侵略に切り替えて正解であった。
おかげで竹林内で育てている野生種から収穫した大豆を使って、醤油もどきの製造に成功したのだから。
ありあわせの材料にてメンマをこしらえてくれたのは、竹女官のタマキだ。少ない素材や薬味を工夫して、このクオリティに仕上げるとは、たいしたものである。
竹酒にかんしては、さして苦労をしていない。
青竹の生育過程でちょちょいと成分をいじってやったら、自然に発酵して節間にお酒が入っていた。いわば天然の酒樽にて。
じつは昔から『竹を伐採したら、なかから甘い芳香がして酒精薫る水が溢れ出した!』という話はちらほらあった。
その正体は稈の中にたまった糖液がアルコール発酵して醸造されたものである。
純竹製の酒、そのお味はやや甘口にて度数はさして高くない。
呑んべえにはちと物足りないかもしれないが、私はわりと好みである。
カッコン……
いつにもまして鹿威しの音が澄んで聞こえる。
その理由は床下がすっかり静かになったから。
庵の地下工房は納戸および各種食材の加工場となった。
そして工房は古代遺跡の方へ移転することに決めたのは、つい七日前のこと。
やはりあれだけの施設を放置するのは惜しい。
さりとて私はあそこには住みたくない。
あと内部で発見した物資をいちいち外に運び出すのも手間である。置き場所を用意するのも、管理するのもたいへんだ。
で、あれこれみなで協議した結果、竹工作兵たちで構成された黒鍬衆の拠点にすることにした。
前々から「工房がせまい」との苦情がウンサイさんから寄せられていたこともあり、古代遺跡は彼に任せることにする。
その引っ越し作業が完了したがゆえの、静寂だ。
「物資も建物も好きにイジってかまわない」
との許可を与えてあるので、次に訪れた時にはどんな姿に変貌しているのか、ちょっと楽しみでもある。
みんなが工房の移転でドタバタしていた間、私は何をしていたのかといえば、おもに手に入れた菱形の緋色石の検証と吸収である。
とはいっても、いつもみたいにイッキ呑みは無理だった。
あの石……おそろしく純度が高いのだ。含まれている成分が、これまで喰ってきた石とはまるで別物。
どれぐらいちがうのかといえば、駄菓子屋で売っているチョコレートと、デパートで箱詰めで販売されているショコラティエが作ったヤツぐらいもちがう。
いや、駄菓子屋のはあれはあれで美味しいんだけどね。
まぁ、それはさておき菱形の緋色石だ。
せっかく手に入れたことだし、さっそく吸収しようとするも、よもやはじかれ拒否されるとはおもわなかった。
水と油とまではいわない。
せいぜい淡水と海水ぐらいか。塩分濃度の差でうまく馴染まないのだ。
私が両者の混じりあう河口にある汽水域と成れればよかったのだけれども、いまの我が身ではこれがちと厳しい。
どうやら元の石の持ち主と竹姫ちゃん(中)との間では、生き物としての格、レベルの差がありすぎるせいとおもわれる。
強いヤツの石を喰ったら、サクサクレベルアップするというわけではないらしい。
それどころか無理をして吸収をしたら御しきれずにバンっ! なんてことも……
そこでペロペロと舐めることにした。
アメちゃんを溶かすようにして、毎日少しずつ吸収する。
取り込んだ分をゆっくり馴らすことで体への負担を減らす。
いまのところ、この方法はうまくいっている。
ただしビジュアルは最悪だけどね。
うっかりレロレロしているところを竹女官のタマキに見られた時の、気まずさといったらなかった。そっと引き戸を閉められたあとの居たたまれなさときたら……もう。
祖父が座薬を入れている場面を目撃した時ぐらいの精神ダメージにて、以降は周囲に誰もいないことをしっかり確認してから、やるようにしている。
「さて、ちょうど誰も近くにいないみたいだし、ちゃちゃっと本日のノルマをこなしちゃうかな」
と、私が杯を置いて腰をあげかけた時のことであった。
天井の板の一枚がズレて、ひょっこり顔を出したのは竹忍者のコウリンである。
いきなりの登場に私はビクぅ。
そんな主人にはかまわずコウリンが伝えたのは……
「えっ、行き倒れを発見したですって」
ついに第一村人? と遭遇か!
しかしすでにムシの息にて、放っておいたらすぐにでも死んじゃいそうとのこと。
報告を受けて私はすぐに「保護して!」と命じた。
ようやく得た情報源、ここでむざむざと失ってなるものか。
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