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039 混ぜるな危険
しおりを挟む竹忍者コウリンの体は特殊な造りになっておりギミック満載、歩く武器庫といっても過言ではない。なかには、ちょっとシャレにならないモノもある。
だから私は彼に使用制限を設けた。
レベル1は通常の忍具にて、これは好きに使ってよし。
レベル2はより過激な忍具にて、対象のみならず周囲にも被害を及ぼしかねないので、許可が必要となっている。
レベル3にいたっては敵勢けでなく自分や味方をも巻き込みかねないので、よほどのことがないかぎりは使用を認めない所存である。
我が子たちを貪り喰らうことで、変貌を遂げつつキマイラのミイラ。
藪をつついて蛇を出すこともある。
半端にちょっかいをかけるのは危険と判断した私は、レベル2の許可を出す。
これを受けてコウリンが取り出したのが二本の竹筒であった。
右手に握られている筒の中には、竹酢液から酸性の成分だけをさらに抽出、濃縮し、極限にまで濃度を高めた液体が詰まっている。
左手に握られている筒の中には、黄緑色の刺激臭を持つ液体が入っている。これは竹から抽出した塩素をこれまたギュギュッと濃縮したもの。もともと竹は塩素濃度が高かったりするのだ。
どちらも私が手を加えることによって劇物レベルにまで高めてある。
では、ここで問題です。
危ない酸性のブツと危ない塩素系のブツ。
ふたつを混ぜたらどうなるでしょうか?
答えは『とっても有害な塩素ガスが発生する』です。
良い子は絶対にマネしないようにね。竹姫ちゃん(中)との約束だよ。
キュッ、ポン。
栓を抜いた二本の竹筒を、コウリンがキマイラなミイラの足下へと投げつける。
とたんに中身がぶちまけられて、混ぜるな危険の現象が起きては、激烈は刺激臭をともなう黄緑色の煙が大量発生した。
そして始まる阿鼻叫喚の地獄絵図。
これを前にして、私は「うわー」
自分でけしかけておいて何だけどヒドイねこりゃあ、鬼畜外道の所業だよ。
ちなみに私たちはへっちゃらである。
なにせ竹人形なもので、呼吸とかしてないし。
「……とはいえ、コレで倒せるともおもえないんだよねえ。なにせ相手は『限りなく不死に近い何か』だし。となればもうひと押ししておきたいところ」
というわけで、ガスでのたうちまわっている連中を横目に、私たちはいったん半開きとなっている隔壁の向う側へと移動する。
で、壁の陰に入ったところで「コウリン、火遁の術」と命じた。
竹忍者の手の平からポロポロとあらわれたのは、いくつもの小さな玉。竹紙にてこさえた玉の中身はねちゃねちゃと粘性と燃焼性を高めた竹油が入っている。焙烙玉の小粒バージョン、だけどかわいい見た目に反してピリリとスパイシーな仕様になっている。
それらを豆まきのようにパッと景気よく撒き、コウリンはパチンと指を鳴らした。
刹那、指先にて火花が散り、放たれた玉に次々と引火してははじけていく。
それを最後まで見届けることなく、私たちはすぐさま首を引っ込めた。
隔壁の裏側へと張りつくようにして身を守る。
なぜなら現在、あちらに滞留している煙は支燃性ガスだから。
支燃性ガスとは、空気よりも燃焼を促進するガスのことである。
ようはよく燃えるということだ。
そんなモノが満ち充ちた空間に、火気を放り込めばどうなるのかなんて、いちいち語るまでもあるまい。
最深部にて起きた爆発と大炎上により、遺跡全体が揺れてビリビリと震えた。
吹き荒れる熱波と漂ってくるニオイに顔をしかめつつ、私たちは火勢がおさまるのを休憩がてら待つ。
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