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038 骨肉相食む
しおりを挟むサクタの槍が閃き次々と穴を穿てば、マサゴの二刀が舞い踊り相手を切り刻む。
そんな二体を援護しつつ、コウリンも手甲をつけた拳にて痛打を浴びせる。
いかに超回復により再生しようとも、治ったはしから壊されてはたまらない。キマイラなミイラは竹人形たちの連携に翻弄されるばかりにて。
戦闘開始直後こそは度肝を抜かれたけれども、キマイラなミイラの戦闘力そのものはさして高くはない。
いや、けっして弱くはないのだ。どこからどう見ても立派なバケモノである。
少なくともかつての私たちであれば苦戦していたことであろう。
でも、いまの私たちは以前よりも格段に成長している。
絶賛、パワーインフレ中!
そんな立場からすると、キマイラなミイラはつぎはぎだらけの身ゆえに攻撃方法こそは多彩だが、どれもこれも中途半端に感じられるのだ。
キマイラなミイラに比べてパンダクマたちはとてもシンプルな生き物であった。
生来から備わっていたであろう頑強さ以外のパラメーターを、すべてチカラに注ぎ込んだかのような肉弾戦特化型にて、まさに暴力の権化である。
そんなパンダクマ三兄弟との死闘を経た私たちにとって、キマイラなミイラは強敵だが脅威足り得ない。
頼りになる麾下たちの戦いぶりを横目に、私は左手でバンバン、ババン!
竹鉄砲をぶっ放しつつ、右手をもぞもぞさせては竹鉄砲から空になったガスカートリッジをはずすと、素早く予備のモノに付け替える。ついでに弾丸の補充もしておく。それが済んだら、今度は左右を入れ替えてと。
こうすれば間断なく射撃を続けられる。二丁撃ちならではの利点にて。
戦いのさなか、かけた時間は五秒とかかっちゃいない。
人間の手ではムズカシイ作業だが、竹姫ちゃん(中)のしなやかな三本指は竹ヘビをもっと細くしたような造りにて、関節の数が人体のモノよりも倍ほども多いがゆえに、なせる早業である。
「よし! 再装填完了っと。これでしばらくはもつでしょ。さっさとザコどもを掃討して私もボス戦に参加しなきゃ」
かつての守られるばかりであった、ひ弱な私はもういない。
十全に動けるボディと専用の飛び道具を得た竹姫ちゃん(中)は、ゲームの女キャラばりに前線にてガンガン無双しちゃうのだ。
そんな戦いの流れが変わったのは、キマイラなミイラが「阿阿阿……阿阿阿……」という不気味な鳴き声を発した直後であった。
黒板を爪で引っ掻いた時のような音にて、うなじのあたりがゾワゾワしちゃう。
私はたまらず首をすぼめる。
でもそんな反応を示していたのは仲間内では私だけ。
サクタたちはきょとんとしており「それが何か?」と不思議そうに小首を傾げている。
竹人形にとってはなんてことのない音。
とどのつまり、ゾワッと感じたのは私の気のせいということである。人間であった前世の記憶に引きずられたらしい。
鳴き声が聞こえたとたんにザコどもに変化が生じた。
それまではてんでバラバラに動いていたのに、急に反転したとおもったら、キマイラなミイラの方へと一斉に向かい始めたのである。
その光景は母親に呼ばれた子どもたちが「はーい」と返事をしては、元気よく駆け寄っていくかのよう。
想像するだに微笑ましいシーンだが、実態はもちろんちがう。
ワラワラと群がってくる我が子たち。
それを迎えたお母さんは、いきなりバクリ!
ライオンのお口で豪快にかぶりついては、ムシャコラムシャコラ。
ついでにしっぽのヘビも手当たり次第にパクリとくわえては、ゴクンと丸呑みしちゃう。
――おっふ、共食い。
いえね、じつは多いんだよ。共食いする生き物ってば。
オタマジャクシや多くの魚類だけでなく、ヒョウ、ライオン、トンケアンモンキーなんかもモリモリ食べちゃうの。
自然界における弱肉強食の掟ってば、じつはファミリーにも適応されるのだ。
いや、むしろもっとも近しい身内同士にこそ最初に突きつけられる。
卵は手軽に食べられる上、栄養も豊富だ。
死んでしまった子どもや、生き延びられそうにもない貧弱な子どもは、親兄弟にとって貴重なタンパク源。親が子を食べてしまう例は枚挙にいとまがなく、その逆もまたしかり。
親が子を喰らい、子が親を喰らい、血の繋がった兄弟姉妹が喰らい合う。
骨肉相食む。
血を分けた者同士が激しく争うのは、じつはごく自然なことなのだ。
自分と同じ種の動物を食べることは動物界では一般的なことであり、共食いという行為は生き残りや繁殖のための立派な適応戦略なのである。
だから遺産相続を巡って裁判沙汰とかになるのは、けっしておかしな話ではなくて、むしろ正常といえなくもない、かも?
次々に子どもたちをたいらげていくビッグマザー。
あんまりにもモリモリ食べるものだから、私たちがドン引きしていたら、マザーの身にじょじょに変化が生じ始めた。
カピカピのミイラだったのが、肉付きが良くなっていく。肌に潤いと艶も戻ってきた。
しぼんだ浮き輪が膨らむかのようにして、生気がみなぎっていく。
どうやらキマイラなミイラはサクタたちにやられたダメージを回復するだけでなく、我が子から栄養を補充して、より強固な肉体へと至ろうとしているようだ。
みるみるヤバそうな気配が高まっていくのを前にして。
「う~ん、これはまずいことになった」
私は思案する。
いまよりずっともっと発達していた古代文明が、手に負えなくなって封印処分をしていただけのことはある。
「やはりそう簡単にはいかないか……しょうがないね。コウリン、レベル2の忍具の使用を許可します。やっちゃって」
うなづいたコウリンが両腕をだらりとさげるなり、手首がパカンと開いて中から滑り出てきたのは二本の竹筒。
その中身は……
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