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037 古代遺跡の戦い

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 キマイラなミイラがのそりと立ち上がった。
 ブルルと全身を震わせたひょうしにキラキラと飛び散った粒子は、壊れた体表の破片にて。

おん!」

 頭部のライオンが吠えるなり、不自然な大気の揺らぎを感じた。
 間髪入れずに飛んできたのは衝撃の塊である。明確なる殺意が込められており、それを敏感に察した私たちは散開してこれを躱す。
 衝撃の塊は背後の壁にぶち当たって、ゴーンと除夜の鐘のような音を響かせた。
 それを聞き流しながら、私は仲間たちに命じる。

「サクタとマサゴをそいつをやっつけて。コウリンはみなの援護を。私はこっちのザコどもの相手をするから!」

 バサリと羽織っていた竹皮マントを翻し、腰のホルスターからスチャッと抜いたのは二丁の竹鉄砲にて。
 これは竹姫ちゃん(中)専用のエアピストルにて、金属の弾丸を発射するハンドガンタイプの空気銃である。

 えっ、それってオモチャのエアガンじゃないのかって?

 チッチッチッ、ちがうんだなコレが。「空気銃? あれは女子どものオモチャだよ」なんぞと云われていたのは昔のことである。技術は日進月歩、現在では格段の進化を遂げており、おもわずプロの猟師をもうならせる侮れない性能を持つに至っているのだ。
 ましてや、うちのウンサイさんは超優秀なもので。

 あぁ、ウンサイさんっていうのは新たに産み出して名前を与えた竹工作兵のことね。ゆくゆくは黒鍬衆の頭を任せるつもりなんだけど、これがまたバリバリの頑固職人にて、私のワガママや無茶ぶりに嬉々として応じては、「ほれ、もっとだ。もっとムズカシイお題を寄越せ」と云わんばかり、ずーっと庵の地下工房にこもっては、せっせと発明と開発に勤しんでいる。
 なお名前の由来は竹工芸家にて初の人間国宝に認定された生野祥雲斎から拝借した。
 彼の超絶技巧により産み出された作品の数々はどれも素晴らしいが、個人的には日展特選・北斗賞を受賞した『炎』を推しておく。あれは一見の価値アリ。

 ウンサイさん特製のエアピストル、ガスカートリッジは竹筒内にガスを封入されたモノを使用している。生育途中にちょちょいと細工をすれば、鉈でパコンと刈り取って装着するだけでいいので作るのは簡単だった。
 弾丸用のマガジンはない。上部の投入口からジャラジャラと玉を入れる銀玉鉄砲方式を採用。これなら一度に大量の玉が投入できるし、補充や管理も楽なんで。あえてオモチャらしいギミックを残すというウンサイさんの遊び心だ。
 でもって、あとは目標へと銃口を向けて引き金をひけば、バンバン撃ちまくれるというシロモノである。

 丸い弾なので狙いはややブレるものの、この大きさで火縄銃ばりの飛距離とそれ以上の威力があるのだから護身用としては上出来であろう。
 もっともウンサイさんはちっとも満足していないそうで、ゆくゆくはより高度な銃火器類を作る気マンマンである。

 ……とまぁ、余談はさておき。
 私はさっそくバンバンぶっ放す。
 最初に狙ったのはついさっき孵化したばかりのタマゴから、いまにも「キシャーッ!」と飛び出しそうだった何か。
 殻ごとぶち抜き蜂の巣にする。
 ドロリとした黄緑色の体液をまき散らしピクピクしているのを見てみれば、カブトガニとサソリを足して二で割ったような姿をしていた。

「う~ん、お母さんとはあんまり似ていないね。お父さん似なのかしらん」

 私は首をかしげつつも、次々に襲いかってくるザコどもを手当たり次第にやっつけていく。
 その一方で対キマイラなミイラ戦も本格的に始まろうとしていた。

  〇

 ストン!

 ライオン顔の左目に突き刺さったのは竹忍者コウリンの放った竹クナイ。
 怒りと痛みで暴れるキマイラなミイラ、前足を振り上げては正面にいる竹侍大将サクタを踏み潰そうとする。
 サクタはこれをさっと避けては、すかさず自身の腰を中心にして槍を回転させ、遠心力のこもった長柄にて相手のスネを殴打する。
 たまらずつんのめって膝をついたキマイラなミイラ。
 そこへ襲いかかったは二振りの刃。
 竹女武者マサゴの二刀流である。
 素っ首を叩き落とす勢いにて、キマイラなミイラはあわてて横に転がることで首は守ったものの、かわりに片翼と尻尾のヘビを一刀両断されてしまう。
 だがしかし――

 斬られたはずのしっぽのヘビ部分。
 すぐに断面がぷくぷくと泡立ったとおもったら新しいのが生えてきた!
 ばかりか刎ね飛ばされたしっぽはしっぽで、勝手にうにょうにょ動き出す。
 翼も同様にてすぐに再生してしまい、千切れた分はコオモリみたいなのに変化してはバサバサと飛びまわる。竹クナイにやられたライオン顔の左目もいつのまにやらシレっと治っている。

 産まれたばかりのザコには、まだたいした再生能力が備わっていないけれども、お母さんの方はちがうらしい。
 とんでもない超回復!
 さすがはあのヤモリの親玉だけのことはある。
 これはひと筋縄ではいきそうにない。


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