竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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035 限りなく不死に近い何か

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 ただいま地下三階は研究施設とおぼしき区画を探索中。

 研究内容の是非はともかくとして、ここもまたお宝の山である。
 なぜならリサイクルできそうなモノがたくさんあるから。
 機材のスクラップ、割れたガラス類は鋳つぶすなり溶かすなりすれば、再利用が可能だ。配管やコードからは銅などが回収できるはず。
 また保存状態がよい研究資料や書物がけっこう残っていたのはありがたい。

 異世界転生特典のチートですらすら読め……たりなんぞはしないから、内容はさっぱりだけれども文字は文字である。
 待望の情報だ!
 少しずつでも解読していくことで、この世界への理解が深まればしめたもの。

「あとで回収班を寄越すか。もしくはここを継続して倉庫がわりに使ってもいいけど。あるいはいっそのこと庵を引き払ってここに住むべきか。でもここって事故物件みたいなもんだしなぁ。それに……」

 自分で言い出しておいて何だが、あんまり気乗りしない。
 この施設そのものが無機質にてカチカチ、私の好みじゃないこともさることながら、この場所そのものがイヤなのだ。どうにも居心地が悪いというか、ちょいちょいピリピリした不快感を覚える。
 相性が悪いというか、生理的に受けつけないというか。
 とにかく落ちつかないのだ。イライラとまでは言わないけれども、ノドの奥が痒くなるような、ぞわりと神経を逆撫でされているような……
 そう感じさせる何かがここにはある。
 でも、その正体がわからない。それがまた癇に障る。

 廊下を進みながら私が「う~ん? んんん?」と腕組みにて考え込んでいたら、不意に背後からひょいと体を持ち上げられた。
 竹忍者コウリンの仕業だ。コウリンは私を抱えたままで、大きく飛び退る。
 それと入れ替わるようにして飛び出したのは、竹侍大将サクタと竹女武者マサゴだ。
 サクタが先行し、すぐあとにマサゴが続く。
 二体が向かったのは通路の奥――

 直後に廊下に響いたのは絶叫。
 サクタの槍とマサゴの剣にて、暗がりに潜んでいた何者かがすみやかに退治されたようだ。
 にしても、ざらざらした砂嵐みたいにて、とても耳障りな声であった。
 そしてその姿もまた奇態にて……

「うげぇ、なによコレ? 気持ち悪い」

 四肢を切断され、槍にて昆虫の標本みたいに壁へと縫い留められていたのは、大きなヤモリみたいな生き物。
 ただし、全身が干しブドウのようにしわしわにて、頭部のみがつるんとしたゆで卵のよう。目や鼻はなくてのっぺらぼうなのかとおもいきや、いきなり頭部がパカンと割れては大きな口があらわれパカパカと。ギザギザした鋭い歯を持っており、その形状からしてマサゴが逃がした獲物のデカトカゲを横取りして食べたのはコイツなのだろう。
 斬られた手足の断面からは緑色の体液が垂れているものの、量はさほどでもない。はやくも出血が止まりかけている。

「フム。さっき見つけたドロリとした液体と酷似しているね」

 驚くべきは、こんな状態になってもまだピチピチと元気なこと。
 それどころか斬られた手足がはや再生しかけているではないか。
 こんなのが成果のひとつだとすれば、ここはやはりろくでもない研究施設にて。
 まぁ、それはさておき。

「マサゴ、ちょっと悪いんだけど、こいつを斬りつけてくれないかな」

 私が知りたかったのは、このヤモリのミイラみたいな生物の耐久性である。
 槍にて胸の辺りを貫かれて、手足を斬られてもなお生きている時点で尋常じゃない。
 竹女武者はうなづくと腰の大小を抜いた。

 ザシュ、ザシュ、ザシュ、ブスリ、ザシュ……

 時おり刺すのを混ぜながら斬りつけること、じつに二十七回。
 首を刎ねようが胴体を輪切りにされようが、ピチピチピチピチ。
 ついには十センチ辺の細切れにされるまで対象は生きていた。
 驚愕だ! しぶというんぬんの域をはるかに超えている。

 ――限りなく不死に近い何か。

 息絶えたとたんに骸がみるみるしぼんでいき、ついには砂状となってボロボロと崩れてしまった。
 さらに私を困惑させたのが、どれだけ探しても例の緋色の石を発見できなかったことである。
 転生後、出会った連中はみな大なり小なり持っていた。
 それがない。この異常な再生能力や耐久性といい、もしかして……

「ここで研究していたのって不老不死とかだったりして」

 それこそSFの世界である。バカげた考えだけれども、あながち的外れというわけでもなさそうなところが困る。
 なぜなら、私がずっとこの場所に感じていた不快さ、その正体が『生命としての忌避感』だとすればストンと納得できるからだ。
 あってしかるべき命に対するリスペクト……それがここにはない。
 どおりで居心地が悪いわけだ。大地と共に生きる竹生命体の私とは相容れないのだから。

 にしても人知れず怪しげな研究をしていた施設の廃墟か。
 その最深部には……な~んてね。

「うわ~、どうかお約束な展開になりませんように」

 私はナムナム祈りつつ、一行は先へと進む。


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