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034 逆さピラミッド、探索中
しおりを挟む地下一階は迷路のよう。
闇の中を危険な何かが徘徊している。
曲がり角にさしかかるたびに私はドキドキ。
いささか不謹慎なれども、気分はまさに古きよきダンジョンRPGである。
通路沿いに扉が点在しているものの開かない。
取っ手もなく、扉を固定している蝶番も見当たらず。
どうやらスライドタイプの自動ドアのようだ。遺跡の動力が沈黙しているために閉じたまま。うんともせず。強引に破ってもいいが骨が折れそうなので後回しにして先へと進む。
あちこち見て歩くうちにホールのような空間に出た。
そこでエレベーターとおぼしきモノを発見するも、こちらもやはり停止している。
が、すぐわきに階段があって徒歩でも下へと行けるようになっていた。
ここまでざっと見て回った印象としては、「ふ~ん、なんだかマンションみたい」
私にとってはさして珍しくもない。
ただし、それは私に前世の記憶があるから。
この世界に生まれ育った者が目にすれば、またちがった風に映るだろう。
なんにせよ、ハラハラドキドキのアドベンチャー満載の古代遺跡というわけではなさそうだ。もっとずっと近代的な建造物である。
「トカゲを食ったヤツもいなかったし、とりあえず下へ行ってみようか」
一行は階段へと向かった。
〇
幾重にも折り返している階段を、おっちらおっちら降りていき地下二階へと。
基本的に造りは上階と同じっぽいけど、このフロアの扉は開いていた。
念のために竹忍者のコウリンを先行させて室内の様子を探らせてから、私たちも続く。
小学校のプールほどもある部屋には、コンテナらしきモノが積まれてあった。
「ふ~ん、物資用の倉庫かしらん」
コンテナのサイズはまちまち。
うち手近にあった長櫃ぐらいのモノを開けてみることにした。
錠前みたいなのがついていたので、ここはコウリンにお任せ。
竹忍者は手先が器用にて開錠作業もお手の物なのである。
ハリガネのような竹串片手にカギ穴を覗き込んでは格闘すること、わずか数秒でカチャリ、錠前はあっさりはずれた。
「はてさて、何がでるかな~」
舌なめずりにて御開帳してみれば………………石!?
「でもただの石じゃない。これは赤鉄鉱だ」
それもうちがチビチビ地中から拾い集めているのよりも、ずっともっと純度が高い上質なモノ。これほどの品質ともなれば、大規模な露天掘りでもしなければ手に入らない。
どうやらここは資材置き場であったようだ。
だとすれば他のコンテナにもいろいろ有益な素材が入っているかもしれない。
私が「ラッキー!」と小躍りすれば、お供たちもそろってヨイヨイと踊り喜ぶ。
地下二階はすべて倉庫となっており、どこもかしこもコンテナだらけ。
つまりはお宝の山ということ! ぶっちゃけこれはうれしい発見である。
でも……
「だとしたら……ここはただの集合住宅というわけじゃないってことになる、よね?」
その疑問に対する答えは次の階で判明する。
地下三階へと移動したところで待っていたのは、ごちゃごちゃした配管やら機材がある空間であった。
いかにも研究施設といった光景にて。
かつて大学院の研究室に在籍していた私にとっては懐かしい景色である反面「んんん?」と眉根を寄せずにはいられない。
なんというか……室内の様子がとってもいかがわしいのだ。
研究室といえば、よれよれの白衣を着たヤバそうな連中がブツブツつぶやきながらウロウロしては、いっつもヘンな薬品のニオイなんかを漂わせており、慣れない者からすれば一歩足を踏み入れるのにも躊躇してしまいそうな場所である。
ほら、体育会系の部室とかって、どれだけ掃除をしても染みついた汗と涙と青春と妄想汁のニオイはけっしてとれないでしょう? あれと同じ。
でもね、そのいかがわしさとも、いささか質が異なっているというか、方向性がちがうというか。
私は地下三階の様子をひと目するなり、すぐにピンときた。
「あっ、これ……ヤバい研究をしているところだ」
それでいろんなことを察した。
ここは何かうしろぐらいことを研究していた施設にて、悠久の刻を経るうちに埋もれたのではなくて、最初っから秘密を守るために深い森の奥は地下深くへと建造されたものであったのだ。
では、いったい何を研究していたのか?
何にせよ、きっとろくなもんじゃない。
だから、いったん探索を打ち切って引き揚げるべきかと思案する私の袖を、ちょいちょいと引っ張ったのは竹女武者のマサゴである。
「えっ、何? あっちで妙なものを見つけたって」
場所は右隣りの大部屋。
そこにはガラスの大きなタマゴみたいなのが、いくつも並んで置かれてあったのだけれども、どれもこれも割れており中は空っぽ。
でも、マサゴが指し示したところだけ緑色の液体が残っていた。
直接触れるのはなんとなくイヤだったから、近くに落ちていた棒きれにてツンツンしてみる。
ねちゃりドロリと粘性のある液体だ。
「はて? なんだかどっかで見たことがあるような、ないような……あぁ! アレだ。エイリアンの体液!」
とはいっても、もちろん本物ではない。
映画の話だ。
人間の体内にタマゴを植えつけては、「キシャー!」と腸(はらわた)をぶちまけて産まれてくる凶悪な地球外生命体。
記念すべきシリーズ一作目はSF映画史に燦然と輝くまごうことなき傑作であった。わ~、懐かしい。
「……じゃなくって! えっ、ここってば、もしかしてそっち系の研究所なの?」
もしもその考えが当たっていれば、ここはヤバい生物兵器を開発していた超激ヤバ施設ということになるわけで。
私は冷や汗たらり……
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