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027 タケノオオミズチ
しおりを挟む「ハァ……ハァ……や、やったかな?」
あー、その台詞フラグだからーっ!
という心の声は聞こえていたけれど、私はどうしてもつぶやかずにはいられない。
でもって案の上というかなんというか。
様子をうかがっていると、不意に私の前に飛び出したのは、唯一手元に残ってくれていた警護役の竹僧兵だ。
ばっと両腕を広げ私を庇うようにして立ったとおもったら、いきなりその身を貫いたのは破城槌であった。
ハートの仕業だ。ヤツが自分とおしくらまんじゅうをしているうちの一台を、こちらへと目がけてぶん投げたのである。
そのことをいち早く察して竹僧兵が我が身を呈して守ってくれたのだ。
もしも彼がいなかったら直撃を受けて、竹女童の私はたやすく粉砕されていたことであろう。
もの凄い衝撃だったはずだ。
性能や体格差からして、防ぎ切れずに上体が千切れ飛んでいてもおかしくはない。
けれども竹僧兵は踏みとどまった。なぜならすぐうしろには守るべき主人がいたから。
意地でこらえ己の職務をまっとうした彼は、武蔵坊弁慶さながらに立ち往生を遂げた。
その壮絶な最期に私は言葉も出ない。
だが悲しんでいる暇なんてなかった。
ここからは自分のターンだとばかりに、ハートが攻勢に打って出たからである。
ちくちく地獄により顕現した竹槍の林が、ただのひと薙ぎにてまとめてへし折られた。
破城槌らが投げられ、蹴られては方々へと飛んでいく。
身に食い込んでいたバリスタの矢をムンズと掴んでは引き抜き、それを振り回しては叩いたり、投擲したり。
ハートを中心にして破壊の嵐が吹き荒れた。
建屋が、竹人形たちが、次々に壊されていく。
みんなと築き上げてきたモノが蹂躙され、無惨に踏みにじられていく。
その光景を目の当たりにて、私はブチギレた!
「おんどりゃーっ、うちの子らに何してけつかんねん! 上等だぁ、コラ! そっちがそのつもりなら、こっちにだって考えがあるぞ! もう泣いてあやまったって許してやんないからなーっ!」
たぶん前世と今世を通じても、これほどまでにブチギレたことはかつてなかったことであろう。
私はオカッパ頭をメラメラと逆立てては怒髪天を衝く。
これだけは使うまいと密かに誓っていた技の解禁する。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
不気味な地鳴りがしたとおもったら、それがどんどんと大きくなっていき、やがて立っていられないほどの揺れとなったところで――
ドッカーン!
地面が盛大に爆ぜて、地中よりあらわれたのは一匹の大蛇。
全長80メートルちょい、胴回りが7メートルほど、総重量は3トン越えにて、頭部だけでも軽トラックほどもある巨体は、もちろん竹製である。
マダケ、モウソウチク、ハチク、キッコウチク、ゾウタケ、ホテイチク、メダケ、トウチク、クマザサ、ナリヒラダケ、ホウオウチク、リュウキュウチク、チゴササ、インヨウチクなどなど。
600種とも1200種とも云われている竹たち。
大小さまざまな大量の竹たちを編み込み、からませ、一本一本をまるで筋肉の繊維のように組み合わせることで自在に動けるようにした竹ヘビの親玉。
えっ、こんなスゴイのがあるのに、どうして最初から使用しなかったのかって?
それはあんまりにも暴れ過ぎて、守るべき竹の里そのものがくちゃくちゃになってしまうからだよ。
しかしことここに至ってはしようがない。
私は投入を決断した。
「決戦兵器タケノオオミズチに命ずる。我らが里に仇なす者らを駆逐せよ」
私の号令により、かま首をもたげていた竹の大蛇が動き出す。
長い蛇体をうねうねさせては、地面を素早く滑るようにして動き、突っ込んでいっては「ア~ン」
大口を開けて、ハートをひと呑みにせんとする。
そのノドの奥からはギュイ~ンという不気味な音が漏れ聞こえていた。
タケノオオミズチの体内はギザギザした大根おろし器のようになっており、これが螺旋状にギュルギュル回転しては渦を巻いている。ようは調理用のミキサーのえぐい版にて。
いかに頑強なパンダクマとて、これに巻き込まれたらゴリゴリ削られてきっと無事ではすまないだろう。
「いっけぇえぇぇぇぇーっ!」
タケノオオミズチがハートへと襲いかかった。
自分よりももっと大きな相手に対して、ハートがとっさに手にしたのは自分が押し破った大門の扉である。近くに倒れていたそれを盾として呑み込まれるのを防ごうとする。
これにより丸呑みだけはどうにかしのぐも、タケノオオミズチの突進は防ぎ切れず。
押されるままにハートは半壊していた大門へと背中から激突し、さらにはそのまま上空へと持ち上げられては、そばの防御壁へと叩きつけられるのを繰り返すこと、四度。
長い身をうねらせ暴れるタケノオオミズチは、口にくわえた獲物を噛み砕かんとするも、させじとハートが自身をつっかえ棒として「ぎぎぎ」と懸命にこらえている。
猛る両雄は変則的に組み合ったまま、大門一帯を破壊していく……
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