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024 警鐘、みたび
しおりを挟む竹侍大将サクタの放った会心の一射がパンダクマの口腔内に突き立つ。
ぐらりと巨体が揺れた。仁王立ちしていたヤツの膝が折れて、ついには両手をもつく。
だからてっきり、そのまま倒れ伏すのかとおもいきや。
――ダンッ!
パンダクマは右の拳にて大地を殴り、体を支え持ちこたえる。
顔をあげた。
双眸がギラギラと。
屈辱的な態勢にてキッとねめつけるは、たったいま強弓を放ったサクタ。
にらみながらパンダクマは口を閉じ、ノドに刺さっていた矢を噛み砕き、ペッ。
吐き出すなり四つん這いのまま駆け出した。
怒りのままに猛然と竹の里へ向かっていく。
あわてて迎撃しようと竹武者らが弓を次々に放つ。幾本もの矢が命中するが、それでもパンダクマを止められない。
みるみる近づいてきたパンダクマは勢いのままに跳躍し、空堀を越えては頭から防御壁へと激突した。
刹那、ダンプカーで突っ込んでも大丈夫なはずの防御壁に激震が生じ、大音声にて一角が砕け散る。
強引に壁を突破された!
付近にいた竹武者も数体巻き込まれ、現場は騒然となった。
もうもうと垂れ込める土煙。
瓦礫の奥にて、のそりと動いたのは黒くて大きな影。
パンダクマが立ち上がろうとしている。
だが完全に立ち上がる前に、十二もの槍の穂先が影へと向けて一斉に突き込まれた。
槍部隊による包囲殲滅。
ズブ、ズブリ――肉に切っ先がめり込む。
手応えアリ。
だが、まだ浅い。剛毛と固い皮膚、みっちりと厚い皮下脂肪、筋肉の鎧が邪魔をする。
槍を持つ竹武者らはさらにググっと踏み込み、穂先をより深く突き入れようとする。
直後のことであった。
ブゥンと乱雑に振るわれたのはパンダクマの豪腕。
二本の腕がデンデン太鼓のようにぶん回されたとおもったら、刺さっていた槍がすべて折れてしまい、穂先も抜けてしまう。囲んでいた竹武者らは吹き飛ばされたり、殴られ粉砕されたり、なかには斬られている者までいた。
やったのはクマの手からジャキンとのびた凶爪である。
強化された竹で造られた鉄並みの硬度を誇る甲冑や盾を、ヤツはたやすく切り裂いてしまう。
仲間たちがやられたことに憤り、すぐさま反撃する竹武者もいたが、そのことごとくが返り討ちにされてしまい、被害は増える一方にて。
このままでは戦線が崩壊し、自陣が総崩れとなりかねない。
窮地を前にして竹侍大将のサクタがふたたび動く。
ピューイとの口笛を吹くなり、彼方より一頭の竹ウマがパカラパカラと駆け寄ってくる。
サクタはそれにひらりと飛び移りまたがった。小脇にしているのは自慢の愛槍にて。
横腹をカカトで蹴れば、竹ウマはより力強く四肢を動かし、大地を踏みしめ、グンと速度を増していく。
騎馬武者となったサクタは仲間たちをいったんさがらせ、単身パンダクマへと立ち向かっていく。
〇
パンダクマとの攻防の一部始終を、私は近くにいた竹武者の目を通じて観ていた。
まさか里への侵入を許すとはおもわなかった。
敵の強さは想定以上にて予断を許さない。
が、まったく勝機がないわけじゃない。
侵入されたということは、裏を返せばヤツは私のテリトリー深くに足を踏み入れたということ。
ここは竹林にて、私の腹の中のようなもの。
やりようはいくらでもあるはず……
なんぞと、私が考えていた時のことである。
カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!
またしても警鐘が鳴り響く。
聞こえたのは現在交戦中の場所とは反対の方角。
「次から次へと、いったい何なの?」
すかさず現場近くにいた竹ヘビと同期して、確認した私は「えっ……」
驚きのあまり、しばし思考が止まってしまった。
なぜなら、そこにもパンダクマがいたから。
サクタと闘っているのとは別個体だ。
背丈はあちらのよりもちょっと大きいが、体形はこちらの方がややほっそりしている。
なにより特徴的であったのが、右の目が潰れていること。
新たに出現したパンダクマは隻眼であった。
「よもやの二体目が出現!」
しかもたんにあらわれたんじゃない。
あちらの混乱に乗じるかのようにして、こそっと。
堀を越え、壁をよじ登っては、静々と侵入してきやがった。
やろうとおもえばイッキにやれるのに、である。
それすなわち二体目がかなり小賢しいタイプだということの証左であった。
「くそっ、完全に読みちがえた。まさかあんなバケモノが二体もいて、しかも仲良くつるんでいただなんて」
竹武者たちの大半があちらにかかりきりにて。
だから竹忍者たちと竹僧兵らを二体目のもとへ急行させる。
私の守りが手薄となるのはしょうがない。
「無理はしないで、足止めだけでいいわ。一体目の方が片付いたら、すぐに応援を寄越すから、それまで時間稼ぎをお願いね」
竹忍者たちは身軽にて様々な忍具を使いこなす。相棒の竹忍犬たちもいる。
竹僧兵らは私の警護役だけあって、いざという時には肉の壁となれるように、頑丈に造られており腕っぷしも強い。
時間を稼ぐだけでいいとは言ったけど、あわよくば首級をあげてくれるかも。
な~んて、私もちょっと期待していたんだけど。
そんな淡い希望を根こそぎ吹っ飛ばすような、特大の悪夢が竹の里へ襲来する。
カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!
無情なる響き。
三度、絶望を告げる警鐘が鳴る。
あらわれたのは三体目のパンダクマ。
これまでのよりもさらに大きい。
コイツに比べたら先の二体なんてまるで子どもだ。体つきが全然ちがう。
親子? いや、同腹から産まれた兄弟か。
そういえば顔つきや立ち姿など、雰囲気がどことなく似ているかも。
威風堂々にて王者の風格すら漂う三体目にして最大のパンダクマ。
その広くたくましい背中には、お茶目なハート模様が浮かんでいた。
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