竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

文字の大きさ
上 下
23 / 209

023 一射絶命

しおりを挟む
 
 パンダクマが竹の里を強襲!

 序盤は空堀を挟んでの遠距離攻撃の応酬となった。
 こちらは防御壁に設置したバリスタおよび、竹武者の弓部隊による斉射にて迎え討つ。
 対するパンダクマは巨岩の投擲にて、無差別爆撃のような攻撃を仕掛けてきた。
 けっこうな数の岩を用意していたことからして、今回の襲撃は思いつきや気まぐれで始めたことではないことは明白であった。

 にしてもすさまじい膂力である。
 腕っぷし自慢なのは知っていたが、よもや何トンもありそうな石の塊をボールのように投げるとはおもわなかった。
 質量をともなう岩はそれ自体が凶器であり、たやすく屋根をぶち抜き建屋を粉砕してしまう。
 だが、そんな攻撃は長くは続けられない。
 あっ、ほら、止んだ。
 弾切れだ。
 いかにパンダクマとて、あれほどの岩を山のように用意することは不可能にて。

 投げる岩が無くなり、他に何かないかとキョロキョロ探すパンダクマ。
 そこへバリスタの極太の矢が幾本も突き立つ。

「がぁあぁぁぁぁぁ」

 パンダクマが怒っては仁王立ちにて猛り吠える。
 だが見上げた先にて、黒い点々が集まっていたもので「ぐる?」
 何かとおもって見ていたら、点々がどんどんと近づいてくるではないか。
 やがてそれが自分へと降り注ごうとしている大量の矢だと気づいたときには、すでに手後れ。ドドドドと降り注ぐ矢の豪雨にその身をさらすことになった。

 直接狙わずに、あえて空へと向けて斜めに放つことで、目標へと矢の雨を降らせる弓部隊の攻撃だ。
 正面のバリスタにばかり気をとられていたら、死角となる頭上から矢が落ちてくる。高所から降ることで加速し、かつ重力をも得た矢は見た目以上の破壊力にて、それが数がまとまっていればなおのこと。大量の鏃は容赦なく獲物をズタズタにする。
 だがしかし――

 モゾモゾと針山が動いた。
 その場でしゃがみ込んでは丸まっていたパンダクマがのそりと立ち上がる。

「むぅん」

 鼻息を荒く吐いたひょうしに、全身に刺さっていた無数の矢がボロボロと抜け落ちていく。バリスタの矢もまたしかり。
 どうやらこれだけの集中攻撃をもってしても、パンダクマの毛皮と肉の表層にまでしか届いていなかったらしい。
 ならばと前線に立ったのは竹侍大将のサクタであった。

 偉丈夫が手にしているのは一張の和弓である。
 全長が4メートル近くもあって、並みの竹武者たちでは四体がかりでも弦を引けないほどの強弓である。威力については言わずもがな。
 そんなシロモノをサクタは平然と扱う。

 体の左横の延長線上に的が来るようにして立ち、両足の爪先を外八文字に踏み開く。幅は肩幅よりもやや広め。
 次いで腰をすえては両肩を沈め、背筋をピンとのばし、重心を腰の中央に置く。
 こうして上体と下半身をどっしり安定させてから、いよいよ弓を構える。矢を番え、弦をギリギリと引き絞る。
 弦を引き絞ったままで、矢を頬のすぐ下あたりに添えては狙いを定める。
 だがまだ射ない。
 射るべきときは矢が自然と教えてくれる。
 だからサクタは、ただその刻が到来するのをじっと待つ。

 戦場にびゅるりと風が吹く。
 竹林の梢が震えてさえずり、枯れ葉が舞った。
 そのうちの一枚がパンダクマの顔にまとわりついたもので、ヤツはそれを邪険に払おうとする。

「へっくちゅん、へっくちゅん」

 デカい図体に似合わずかわいいくしゃみをしたのはパンダクマだ。落ち葉が鼻先をかすめたひょうしにムズかゆくなったらしい。
 くしゃみは体がホコリや花粉、ウイルスなどの異物が侵入するのを防ぐための生理現象である。よってよほど気をつけていないと、ところかまわずうっかりしてしまう。
 二度、くしゃみをしたパンダクマが鼻をすすり顔をあげたところで。

 ストン――

 半開きだった自分の口から一本の矢が生えていたものだから、きょとんと立ち尽くす。


しおりを挟む
感想 185

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私のアレに値が付いた!?

ネコヅキ
ファンタジー
 もしも、金のタマゴを産み落としたなら――  鮎沢佳奈は二十歳の大学生。ある日突然死んでしまった彼女は、神様の代行者を名乗る青年に異世界へと転生。という形で異世界への移住を提案され、移住を快諾した佳奈は喫茶店の看板娘である人物に助けてもらって新たな生活を始めた。  しかしその一週間後。借りたアパートの一室で、白磁の器を揺るがす事件が勃発する。振り返って見てみれば器の中で灰色の物体が鎮座し、その物体の正体を知るべく質屋に持ち込んだ事から彼女の順風満帆の歯車が狂い始める。  自身を金のタマゴを産むガチョウになぞらえ、絶対に知られてはならない秘密を一人抱え込む佳奈の運命はいかに―― ・産むのはタマゴではありません! お食事中の方はご注意下さいませ。 ・小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 ・小説家になろう様にて三十七万PVを突破。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

処理中です...