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023 一射絶命
しおりを挟むパンダクマが竹の里を強襲!
序盤は空堀を挟んでの遠距離攻撃の応酬となった。
こちらは防御壁に設置したバリスタおよび、竹武者の弓部隊による斉射にて迎え討つ。
対するパンダクマは巨岩の投擲にて、無差別爆撃のような攻撃を仕掛けてきた。
けっこうな数の岩を用意していたことからして、今回の襲撃は思いつきや気まぐれで始めたことではないことは明白であった。
にしてもすさまじい膂力である。
腕っぷし自慢なのは知っていたが、よもや何トンもありそうな石の塊をボールのように投げるとはおもわなかった。
質量をともなう岩はそれ自体が凶器であり、たやすく屋根をぶち抜き建屋を粉砕してしまう。
だが、そんな攻撃は長くは続けられない。
あっ、ほら、止んだ。
弾切れだ。
いかにパンダクマとて、あれほどの岩を山のように用意することは不可能にて。
投げる岩が無くなり、他に何かないかとキョロキョロ探すパンダクマ。
そこへバリスタの極太の矢が幾本も突き立つ。
「がぁあぁぁぁぁぁ」
パンダクマが怒っては仁王立ちにて猛り吠える。
だが見上げた先にて、黒い点々が集まっていたもので「ぐる?」
何かとおもって見ていたら、点々がどんどんと近づいてくるではないか。
やがてそれが自分へと降り注ごうとしている大量の矢だと気づいたときには、すでに手後れ。ドドドドと降り注ぐ矢の豪雨にその身をさらすことになった。
直接狙わずに、あえて空へと向けて斜めに放つことで、目標へと矢の雨を降らせる弓部隊の攻撃だ。
正面のバリスタにばかり気をとられていたら、死角となる頭上から矢が落ちてくる。高所から降ることで加速し、かつ重力をも得た矢は見た目以上の破壊力にて、それが数がまとまっていればなおのこと。大量の鏃は容赦なく獲物をズタズタにする。
だがしかし――
モゾモゾと針山が動いた。
その場でしゃがみ込んでは丸まっていたパンダクマがのそりと立ち上がる。
「むぅん」
鼻息を荒く吐いたひょうしに、全身に刺さっていた無数の矢がボロボロと抜け落ちていく。バリスタの矢もまたしかり。
どうやらこれだけの集中攻撃をもってしても、パンダクマの毛皮と肉の表層にまでしか届いていなかったらしい。
ならばと前線に立ったのは竹侍大将のサクタであった。
偉丈夫が手にしているのは一張の和弓である。
全長が4メートル近くもあって、並みの竹武者たちでは四体がかりでも弦を引けないほどの強弓である。威力については言わずもがな。
そんなシロモノをサクタは平然と扱う。
体の左横の延長線上に的が来るようにして立ち、両足の爪先を外八文字に踏み開く。幅は肩幅よりもやや広め。
次いで腰をすえては両肩を沈め、背筋をピンとのばし、重心を腰の中央に置く。
こうして上体と下半身をどっしり安定させてから、いよいよ弓を構える。矢を番え、弦をギリギリと引き絞る。
弦を引き絞ったままで、矢を頬のすぐ下あたりに添えては狙いを定める。
だがまだ射ない。
射るべきときは矢が自然と教えてくれる。
だからサクタは、ただその刻が到来するのをじっと待つ。
戦場にびゅるりと風が吹く。
竹林の梢が震えてさえずり、枯れ葉が舞った。
そのうちの一枚がパンダクマの顔にまとわりついたもので、ヤツはそれを邪険に払おうとする。
「へっくちゅん、へっくちゅん」
デカい図体に似合わずかわいいくしゃみをしたのはパンダクマだ。落ち葉が鼻先をかすめたひょうしにムズかゆくなったらしい。
くしゃみは体がホコリや花粉、ウイルスなどの異物が侵入するのを防ぐための生理現象である。よってよほど気をつけていないと、ところかまわずうっかりしてしまう。
二度、くしゃみをしたパンダクマが鼻をすすり顔をあげたところで。
ストン――
半開きだった自分の口から一本の矢が生えていたものだから、きょとんと立ち尽くす。
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