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021 竹の里
しおりを挟む竹の里が完成した。
イエ~イ♪
ドンドンぱふぱふ~♪
半径200メートルちょっとの円形。
設計段階よりちょこっと増えたのは外縁部にめぐらせた空堀の分だ。幅が10メートル、深さが5メートルもある。竹工作兵たちががんばってくれた。
ところで、ねえ知ってる?
究極の立身出世を成し遂げた、あの豊臣秀吉が建てた大阪城の掘の最大幅は75メートルもあったというのだから驚きだよね、しかも水掘だよ。いったりどれほどの労力とお金を注ぎ込んだのやら。
現代でも一部が残っており、巨大ネズミのヌートリアや大型魚のアリゲーターガーが泳いでいるそうな。
いやはや天下人はスケールがちがう、たいしたものだ。時の権力者ってばマジぱねぇ。
私もおおいにリスペクトせねば……
空堀を見下ろすようにしてそびえ立つのは防御壁である。
里を守る壁にはゾウタケを用いた。
ゾウタケは元の世界において最大級の竹だ。それこそゾウさんの足ほどもあってぶっといの。こいつは日本の竹みたいに地下茎では繋がっておらず、株立ちし一ヶ所で叢生(その場で群がりしげること)しながら繁殖する自立心旺盛なスゴイヤツ。
育てば背が30メートルほどにもなるが、それらを途中でぐにゃりと曲げては、他のヤツと絡めて編み込むことで作った竹の生垣に、こねた土で厚化粧を施し丹念に塗り固めて強化することで、防壁は高さ10メートル、厚さ2メートルを誇る威容となった。掘の底から見上げれば四階建てのビルに相当し、まさに絶壁にて。
これならばたとえダンプカーが猛スピードで突っ込んでこようとも破れはすまい。
なお防御壁の上は歩けるようになっており、外敵に対処するための竹バリスタを等間隔で配備してある。
バリスタとは据え置き式の大型弩弓のこと。
設置してあるのは、大きな竹やりを矢のように飛ばす単発タイプと、通常サイズの竹やりをダダダと連続で放つ連弩弓タイプの二種類。
これで堀を渡って近づく者あらば、たちまちズドン。
または空からの侵入者もズドンだ。
外部との唯一の出入り口となる大門は、武家屋敷の長屋門をベースに設計しており、付属の建屋は竹武者たちの屯所と武器庫も兼ねている。
門の両脇には物見櫓も設けており、招かれざる客がくればたちまち矢を射かけて撃退できるようにしてある。
さらに吊り橋を設けた。
橋は常時あげており、必要な時にのみおろす。
これによりなんぴとたりとも私の許可なく里には立ち入れない。
里の中央は広場となっており、ぐるりと囲むようにして各種工房に資材置き場、解体場、家屋、二階建ての館が並んでいる。
館はもちろん、私こと竹姫さま(小)の邸宅にて。
みんなの家はふつうの竹の庵や長屋だけれども、私のところだけは規模が段違いにて、平安貴族の屋敷ばりに立派である。
長い廊下に、広い広間があって、百人入ってもぜんぜん大丈夫! な寝殿造り。
信じられなことに、これらをすべて竹でこさえたのだから、たいしたものであろう。
竹工作兵たちの技術向上が留まることを知らない。
「ハーッハッハッ、わらわは満足であ~る」
他にも里の敷地内には鐘楼やら井戸など、必要なモノはひとしきり揃っており、その気になれば何年でも籠城できるだろう。
「うん、もはや里というよりも城塞だな! すごいけど、どうしてこうなった?」
ある程度、現場の裁量に任せていたら、気づいたらこんなことになっていた。
どうやら麾下の竹人形たちは、見えない根っこによって繋がっているせいか、母体となっている私の記憶のライブラリーにちょいちょいアクセスをしているようだ。
でなければ、いきなり武家屋敷や竹筋コンクリートにバリスタとか、絶対に出てこないからね。
驚嘆すべきは竹人形たちである。
疲れ知らずにて、愚痴ひとつ零さず、昼夜を問わずせっせと働いては、これだけの規模のシロモノを着工からわずか十日ほどで仕上げてしまったのだから。
もしも止めなかったら、勢いのままに城とか建てていたかもしれない。
「う~ん、じつはとんでもないモノを産み出してしまったのではなかろうか」
そんな竹人形たちを従えている私ってば、かなりスゴクない?
あぁ、いまさらながらに自分の才能がちょっと怖くなってきたよ。
彼らをうまく運用すれば本当に天下を獲れちゃうかもしれない。
……な~んてね。
たぶんこの時の私は相当浮かれていたのだろう。
いや、はっきり言ってパラリラパラリラと調子に乗っていた。
心は乙女だけど、とんだかんちがい野郎にて。
まったくもって思い上がりもはなはだしい。
好事魔多しとはよく云ったもの。
それを痛感させられる凶事に私が見舞われるのは、竹の里が完成してからわずか三日後のことであった……
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