15 / 91
015 ヴィランの主張
しおりを挟む竹林の下からかき集めた緋色の石。
その数は百と七つ。
大きさはまちまだがどれも小粒にて、竹で造った三方の台に山と積まれている。
ちなみに三方とは神社とかお寺でお供え物を載せるのに使っているアレのことね。折敷と呼ばれる盆の下に直方体状の台(胴)がついた形をしており、ふつうは素木による木製なんだけど、そこは私の特製ということで竹で再現してみました。
フフン、うちの竹工作兵たちの手にかかれば朝飯前にて。
にしても、おしいな!
あとひとつでちょうど煩悩の数だったのに……
いや? 足りなくてもしょせん煩悩は煩悩だから、どのみちいっしょか。
ところで、どうして煩悩の数が108なのか知ってるかい?
諸説あるけど、私が気に入っているのは『四苦八苦』からの説だ。
四苦で4×9=36
八苦で8×9=72
ふたつ合わせて108になる。
真偽はともかくとして、思いついた人のセンスがバツグンに素晴らしいとおもわない?
おっと、話がいささか横道にそれてしまった。私の悪いクセ、テヘペロ。
とにもかくにも石である。
石は石であるがゆえに土壌で分解されないのは当然だし、竹林が吸収できなくてもなんら不思議ではない。
でもね……ヴィラン(悪役のこと)にはヴィランなりの存在理由がある。
それが自然界というもの。
例えば蚊とか油虫ってみんなイヤだよね?
好き好き愛しているって人の方が圧倒的に少ないはず。
でもそんな彼らとて宇宙船地球号の乗組員にて、生態系を支える大切な仲間なのだ。
もしも絶滅していなくなったら、けっこうシャレにならない影響が出る。
との説もある。
ちなみに蚊の主な役割は、他の生物のエサになったり、伝染病を蔓延させてはヒトの数を減らしたり。地球からしたら人間なんて性質の悪いがん細胞みたいなものだから、よって蚊はキラーT細胞みたいなもの。
油虫の方は『分解者』の二つ名を持っており、生態系の物質循環をがんばってくれている。
まさに縁の下の力持ち。ぶっちゃけ人間がいなくなっても、たぶん地球は困らないけれども、彼らがいなくなったら生きていけないだろう。
なのに人間たちからは蛇蝎のごとく嫌われているのだから「おまえらが言うな!」で、なんだかなあ~である。
おっと、いかんいかん。またもや話が横道にそれてしまった。
ようは私が何を言いたかったのかというと『この赤い石、本当にただの石か?』ということである。
前に住んでいた世界の動物ならば、ただの石で片付けてよかっただろう。
けどこちらの世界には、バケモノみたいな強さを持つパンダクマや炎のデカトラ、不気味な首長ばあさんなどが跳梁跋扈している。
かくいう私とて似たようなものだ。
タケノコが意思を持っては竹林そのものを支配し操っているだけでなく、オートマタな竹人形をせっせとこさえたりしているんだもの。
モンスター、怪獣、妖怪、魔物、妖魔、バケモノ、魑魅、妖異、怪異……
呼び方はともかくとして。
この見た目で「じつは竹林の妖精だよ~、みんなよろしくね、キュルルン♪」とかは、さすがにムリがある。
乙女としてはあんまり認めたくないけれど、魔物とかが一番しっくりくる。
これまでに私が遭遇した他の連中だってそうだ。
どいつもこいつもまともじゃない。
「そんなヤツらの腹の中にあった緋色の石。ゲームとかだと体内で精製される結晶体で、武器の強化や合成アイテムの素材とか、魔法が習得できたり、あとは吸収してレベルアップとかするんだけど。
でもまさか……ねえ?」
竹女官に三方ごと持ってもらい、タケノコに近づけてはしげしげと眺めてみる。
かえすがえす観察してみる。
けれども石はやはり石であった。
「尿路結石とかいうオチだったらイヤだなぁ~」
なんぞと私が嘆息していたら、不意にびゅるりと突風が吹いた。
ザワザワザワ……
一斉に梢が震えて、竹林全体が騒がしくなる。
竹皮の衣の袖が風にあおられて、竹女官もちょっと身じろぎ。
そして「あっ」
動いたひょうしに三方にのっていた石の山、そのうちのひとつがコロコロコロリン。
転がり落ちては台から飛び出し、スキージャンプのように私の方へと飛んできた。
こちとら不肖タケノコの身にてろくに動けないもので、それをまともにコツンと受けた。
刹那、奇妙な現象が起こる。
タケノコに当たった緋色の石が、まるで私の中へと吸い込まれるようにして、スッと消えてしまったもので「はぁあぁ~~~~ん!?」
直後に、カッ!
とまではいかないけれども、私はたしかに火照りを感じた。
竹の身に血なんぞ通っていないのにもかかわらずにだ。
「な、なんだこれ? ムズムズとヘンな感じがする……ハッ、もしや!」
私はある仮説を思いつき、いまいちど再現実験をしてみることにした。
すると二個目の石もやはり消えてしまい、先ほどと同じような感覚が生じたもので、私はにへら。
10
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!
月芝
ファンタジー
来たる災厄に対抗すべく異世界に召喚された勇者たち。
その数、三十九人。
そこは剣と魔法とスチームパンクの世界にて、
ファンタジー、きたーっ!
と喜んだのも束の間、なんと勇者なのに魔法が使えないだと?
でも安心して下さい。
代わりといってはなんですが、転移特典にて星のチカラが宿ってる。
他にも恩恵で言語能力やら、身体強化などもついている。
そのチカラで魔法みたいなことが可能にて、チートで俺ツエーも夢じゃない。
はずなのだが、三十九番目の主人公だけ、とんだポンコツだった。
授かったのは「なんじゃコレ?」という、がっかりスキル。
試しに使ってみれば、手の中にあらわれたのはカリカリ梅にて、えぇーっ!
本来であれば強化されているはずの体力面では、現地の子どもにも劣る虚弱体質。
ただの高校生の男子にて、学校での成績は中の下ぐらい。
特別な知識も技能もありゃしない。
おまけに言語翻訳機能もバグっているから、会話はこなせるけれども、
文字の読み書きがまるでダメときたもんだ。
そのせいで星クズ判定にて即戦力外通告をされ、島流しの憂き目に……。
異世界Q&A
えっ、魔法の無詠唱?
そんなの当たり前じゃん。
っていうか、そもそも星の勇者たちはスキル以外は使えないし、残念!
えっ、唐揚げにポテトチップスにラーメンやカレーで食革命?
いやいや、ふつうに揚げ物類は昔からあるから。スイーツ類も充実している。
異世界の食文化を舐めんなよ。あと米もあるから心配するな。
えっ、アイデアグッズで一攫千金? 知識チート?
あー、それもちょっと厳しいかな。たいていの品は便利な魔道具があるから。
なにせギガラニカってば魔法とスチームパンクが融合した超高度文明だし。
えっ、ならばチートスキルで無双する?
それは……出来なくはない。けど、いきなりはちょっと無理かなぁ。
神さまからもらったチカラも鍛えないと育たないし、実践ではまるで役に立たないもの。
ゲームやアニメとは違うから。
というか、ぶっちゃけ浮かれて調子に乗っていたら、わりとすぐに死ぬよ。マジで。
それから死に戻りとか、復活の呪文なんてないから。
一発退場なので、そこんところよろしく。
「異世界の片隅で引き篭りたい少女。」の正統系譜。
こんなスキルで異世界転移はイヤだ!シリーズの第二弾。
ないない尽くしの異世界転移。
環境問題にも一石を投じる……かもしれない、笑撃の問題作。
星クズの勇者の明日はどっちだ。
わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。
月芝
ファンタジー
「てめぇらに、最低のファンタジーをお見舞いしてやるから、覚悟しな」
異世界ノットガルドを魔王の脅威から救うためにと送り込まれた若者たち。
その数八十名。
のはずが、フタを開けてみれば三千人ってどういうこと?
女神からの恩恵であるギフトと、世界の壁を越えた際に発現するスキル。
二つの異能を武器に全員が勇者として戦うことに。
しかし実際に行ってみたら、なにやら雲行きが……。
混迷する異世界の地に、諸事情につき一番最後に降り立った天野凛音。
残り物のギフトとしょぼいスキルが合わさる時、最凶ヒロインが爆誕する!
うっかりヤバい女を迎え入れてしまったノットガルドに、明日はあるのか。
「とりあえず殺る。そして漁る。だってモノに罪はないもの」
それが天野凛音のポリシー。
ないない尽くしの渇いた大地。
わりとヘビーな戦いの荒野をザクザク突き進む。
ハチャメチャ、むちゃくちゃ、ヒロイックファンタジー。
ここに開幕。
ワイ、TS魔法少女と都市マスターになる
あ・まん@田中子樹
ファンタジー
武士のような名前の士郎宗近(シロウ ムネチカ)は社畜ブラックの新人企業戦士だった。
入社3日目で、闇落ちメンブレして二重人格になった彼はブラック上司のとばっちりで電車に轢かれてまさかの異世界転移。それもなぜか二重人格のせいで2人に分離していた。
もう一人の人格シロは心が乙女だったせいか、かわいい白髪の女の子になっていた。
「尾田●一郎先生、ワイ、ラ●テル見つけたよ」
「いや、ここ異世界ですから!」
「ツッコミ欲しがりなん?」
「なぜ私ぃぃぃっ!」
ボケ担当クロとボケを華麗にスルーしまくるシロは召喚された都市の未来を任された。
ふたりの凸凹コンビが織りなす壮大な異世界冒険がついに幕が開く――かも?
寄宿生物カネコ!
月芝
ファンタジー
詳細は割愛するが、剣と魔法のファンタジーな世界に転生することになった男。
それにともなって神さまから転生特典の希望を訊かれたので、
「パンダかネコにでもなって、のんびりぐうたら過ごしたい」
と答えたら「あいにく、どっちもおらんなぁ」と言われてガックシ。
すると見かねた神さまがおっしゃった。
「ネコはおらん。が、ネコっぽいのならいるぞ。それでよければどう?」
その提案を受け入れ、ちゃちゃっと転生完了。
かくしてカネコという生命体に生まれ変わったのだけれども。
いざなってみたら「あれ?」
なんだかコレじゃない感が……
無駄にハイスペック、しかしやる気ゼロ。
働いたら負けだと思っている。というか働きたくない。
不労所得最高! 他人の金で喰うメシと飲む酒は最高にウマい。
他者にがっつり甘えて、おんぶにだっこの怠惰な生活を夢見る生物、それがカネコ。
だってしょうがないじゃない、そういう生き物なんだもの。
鳥が空を飛び、魚が泳ぐように、寄宿先を求めさすらうのがカネコという生き物の習性なのだ。
けっしてサボりたいわけじゃない、すべては本能ゆえに。
これは寄宿生物カネコに生まれ変わった男が、異世界にて居候先を求めて、
さすらったり、さすらわなかったりする物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる