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015 ヴィランの主張

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 竹林の下からかき集めた緋色の石。
 その数は百と七つ。
 大きさはまちまだがどれも小粒にて、竹で造った三方の台に山と積まれている。
 ちなみに三方とは神社とかお寺でお供え物を載せるのに使っているアレのことね。折敷おしきと呼ばれる盆の下に直方体状の台(胴)がついた形をしており、ふつうは素木しらきによる木製なんだけど、そこは私の特製ということで竹で再現してみました。
 フフン、うちの竹工作兵たちの手にかかれば朝飯前にて。

 にしても、おしいな!
 あとひとつでちょうど煩悩の数だったのに……
 いや? 足りなくてもしょせん煩悩は煩悩だから、どのみちいっしょか。
 ところで、どうして煩悩の数が108なのか知ってるかい?
 諸説あるけど、私が気に入っているのは『四苦八苦』からの説だ。

 四苦で4×9=36
 八苦で8×9=72

 ふたつ合わせて108になる。
 真偽はともかくとして、思いついた人のセンスがバツグンに素晴らしいとおもわない?

 おっと、話がいささか横道にそれてしまった。私の悪いクセ、テヘペロ。
 とにもかくにも石である。
 石は石であるがゆえに土壌で分解されないのは当然だし、竹林が吸収できなくてもなんら不思議ではない。
 でもね……ヴィラン(悪役のこと)にはヴィランなりの存在理由がある。
 それが自然界というもの。

 例えば蚊とか油虫ってみんなイヤだよね?
 好き好き愛しているって人の方が圧倒的に少ないはず。
 でもそんな彼らとて宇宙船地球号の乗組員にて、生態系を支える大切な仲間なのだ。
 もしも絶滅していなくなったら、けっこうシャレにならない影響が出る。
 との説もある。

 ちなみに蚊の主な役割は、他の生物のエサになったり、伝染病を蔓延させてはヒトの数を減らしたり。地球からしたら人間なんて性質の悪いがん細胞みたいなものだから、よって蚊はキラーT細胞みたいなもの。

 油虫の方は『分解者』の二つ名を持っており、生態系の物質循環をがんばってくれている。
 まさに縁の下の力持ち。ぶっちゃけ人間がいなくなっても、たぶん地球は困らないけれども、彼らがいなくなったら生きていけないだろう。
 なのに人間たちからは蛇蝎のごとく嫌われているのだから「おまえらが言うな!」で、なんだかなあ~である。

 おっと、いかんいかん。またもや話が横道にそれてしまった。
 ようは私が何を言いたかったのかというと『この赤い石、本当にただの石か?』ということである。

 前に住んでいた世界の動物ならば、ただの石で片付けてよかっただろう。
 けどこちらの世界には、バケモノみたいな強さを持つパンダクマや炎のデカトラ、不気味な首長ばあさんなどが跳梁跋扈している。
 かくいう私とて似たようなものだ。
 タケノコが意思を持っては竹林そのものを支配し操っているだけでなく、オートマタな竹人形をせっせとこさえたりしているんだもの。

 モンスター、怪獣、妖怪、魔物、妖魔、バケモノ、魑魅、妖異、怪異……

 呼び方はともかくとして。
 この見た目で「じつは竹林の妖精だよ~、みんなよろしくね、キュルルン♪」とかは、さすがにムリがある。
 乙女としてはあんまり認めたくないけれど、魔物とかが一番しっくりくる。
 これまでに私が遭遇した他の連中だってそうだ。
 どいつもこいつもまともじゃない。

「そんなヤツらの腹の中にあった緋色の石。ゲームとかだと体内で精製される結晶体で、武器の強化や合成アイテムの素材とか、魔法が習得できたり、あとは吸収してレベルアップとかするんだけど。
 でもまさか……ねえ?」

 竹女官に三方ごと持ってもらい、タケノコに近づけてはしげしげと眺めてみる。
 かえすがえす観察してみる。
 けれども石はやはり石であった。

「尿路結石とかいうオチだったらイヤだなぁ~」

 なんぞと私が嘆息していたら、不意にびゅるりと突風が吹いた。

 ザワザワザワ……

 一斉に梢が震えて、竹林全体が騒がしくなる。
 竹皮の衣の袖が風にあおられて、竹女官もちょっと身じろぎ。
 そして「あっ」
 動いたひょうしに三方にのっていた石の山、そのうちのひとつがコロコロコロリン。
 転がり落ちては台から飛び出し、スキージャンプのように私の方へと飛んできた。
 こちとら不肖タケノコの身にてろくに動けないもので、それをまともにコツンと受けた。
 刹那、奇妙な現象が起こる。
 タケノコに当たった緋色の石が、まるで私の中へと吸い込まれるようにして、スッと消えてしまったもので「はぁあぁ~~~~ん!?」

 直後に、カッ!

 とまではいかないけれども、私はたしかに火照りを感じた。
 竹の身に血なんぞ通っていないのにもかかわらずにだ。

「な、なんだこれ? ムズムズとヘンな感じがする……ハッ、もしや!」

 私はある仮説を思いつき、いまいちど再現実験をしてみることにした。
 すると二個目の石もやはり消えてしまい、先ほどと同じような感覚が生じたもので、私はにへら。


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