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014 緋色の石
しおりを挟む昼間には太陽光を存分に浴び、二酸化炭素を吸い酸素を吐いては光合成に精を出す。
夜間には酸素を吸い二酸化炭素を吐く。
理科の授業で習う植物全般の一日の生活サイクル。
ひたすら同じことの繰り返しなのは、社会の歯車となった大人たちとさして変わらない。
「それでも温室効果ガスの排出量を減らすのに貢献している分だけ、人間サマよりもずっとマシじゃん」
と、お考えのそこのアナタ。
残念! その点に関しては「あれ? じつはそれほどでもないんじゃないの。どうやら竹は微妙らしいぞ」というのが、最新の研究でわかっている。
もっとも竹林の炭素の蓄積量と吸収量の算定については、まだまだ方法が確立されていないので正確なところはわからない。
あ・く・ま・で竹は成長スピードが早いが、枯れていく量も均衡していると仮定しての話にて。
「だったら大気中の二酸化炭素の総量は、たいして増減していないんじゃないのかなぁ」
という説である。
竹は百害あって一利なし。むしろ一帯の植生を蹂躙する――竹害が深刻なのでは?
まぁ、諸説ふんぷん、真相は『藪の中』ということで。
ちゃんちゃん、おあとがよろしいようで……
などという竹林漫談はいったん脇へとうっちゃっておき。
私の意識が宿っているタケノコの成長が滞っている。ちぃ~~とも背がのびない。
朝が来るたびに「あぁ、また皮にくるまれた一日が始まる」と嘆息し、夕焼けこやけな空を見上げては「あぁ、今日もまたむけなかったか」と愁傷する。夜陰の中でまんじりともせずに悶々と過ごし、そしてまた朝陽が昇る。
日に日に陣営が充実しているというのに、その中心にいる私がこの体たらく。
あまりにも情けない! 不甲斐なし!
さりとてスマートフォンもパソコンもインターネットもないこの世界において、一歩も動けぬ不肖タケノコの身では出来ることは限られている。
自分のことを含めて、わからないことが多すぎるのだ。
我、切実に求む、情報を。
「あ~あ、都合よく商隊とか通りがからないかなぁ。そしたらまとめてとっ捕まえて、全員脳みそグリグリして、洗いざらい知ってることを吐かせるのに」
が、こんな森の奥深くにやって来るのはヤバそうな畜生どもばかり。
しょうがないので自分のことは自分で調べるしかない。
そこであらためて私は自分の一日を見直してみたのだけれども……
「あらヤダ! 何よこれ? 私ってばクソつまんない一日を過ごしているじゃない」
合間合間に作業や狩りはしているけど、基本は先に述べた通りにて。
う~ん、ちょっとショック。
それでも己に何が足りていないのかを探るべく、なおも自分についてふり返ってみる。
するとその過程において、私はある違和感を覚えた。
それは狩った獲物の体液をチュウチュウ吸い、肉を地中に引きずり込んでは養分としていることについて。
竹林は図体が大きい分だけあって食欲も旺盛。
与えたはしから分解吸収してはモリモリ食べる。
おかげで私はいつもギンギンで、体の内にはリグニンパワーが満ち充ちている。
なのに地中に妙な反応が残っていることに気づいたのだ。
「んんん? もしかして食べ残しとか」
地下の土の状態によっては、分解の進行スピードに差がでる。
酸素が多ければ微生物たちも元気なので、わりとサクサク進む。
一方で酸素の含有量がいまひとつで、死水――流れの中の物体後方に形成される、静止状態の流体領域のこと――が充満しているような還元状態の土壌では、分解がなかなか進まずに、長いことお残ししがちとなる。
……おかしいな。
調べた限りでは土壌は還元状態なんぞではない。
私の管理下にある土地は水はけも風通しもいい、ホワイトな環境である。労働環境が劣悪で従業員の権利を無視しているクソなブラック企業とはちがうのだ。
「なのに、お残し?」
しかも似たような反応がそこかしこに、けっこう点在しているではないか。
ひとつひとつのサイズはさして大きくはない。べつにムシしたとて竹林全体の運営に問題はないけれども、あやふやのままで放置するのは元リケジョとしての矜持が許さない。
というわけで、ちょっこっと掘ってみた。
あぁ、もちろん竹工作兵たちに手伝ってもらったよ。
いやはや彼らってばスゴイんだ。
「え~と、ちょっと穴を掘りたいんだけど」
とお願いしたら、さっさと竹で丈夫なスコップやらツルハシをこさえては、地面をザクザクほじくり返してくれた。
いやん、うちの子たちってばマジ優秀!
で、土の中から発掘されたのが……
「石?」
そう石である。
ただし色がついている。
血が凝り固まったかのような毒々しい緋色だ。宝石のように人心を惑わし、ときめかせるような輝きではない。むしろジッと見つめていたら逆に魂が吸い取られそう。
大きさは小指の第一関節ぐらいにて、ゴツゴツと歪な形をしている。梅干しの種にちょっと似ているかも。
掘ったはしから、そんなのがゴロゴロと出てくるではないか。
もとからこの場所に埋まっていたのか?
いや、それならばもっとはやい段階で地下茎を通じて気がついていたはず。
さりとて私が作り出したモノでもない。
ということは……
「あっ! もしかして狩った獲物の体内にあったモノなのかしらん」
体の中にある石といえば、腎結石、胆石、胃石なんてものがあるけれど。
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