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012 ワイヤレス竹電式

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 弓を構えた竹武者がキリキリキリ……矢をつがえて弦を引き絞っている。
 弦音が鳴り――ひゅん!
 放たれた矢は狙いあやまたず。
 見事に角のあるウサギの首筋を貫いた。

 実戦形式での稼働実験はいまのところ順調である。
 自分で作っておいてなんだけど、竹武者サクタはかなり優秀だ。しかも動かすほどに動作がより滑らかになっていく。
 どうやら私の命令に従うだけではなくて、自分でもちゃんと学習しているようだ。
 開発初期の段階から「もしかしたら……」とはにらんでいたけれども、やはりそうであったか。

 一番最初に作った竹人形。
 あれが勝手にカタカタ動き出した時点で「ひょっとしたら自律可動式かも?」とは予測していたが、その通りであった。
 これはうれしい。
 ラジコンみたいにいちいちリモコン操作をしなければいけない場合、数を揃えての同時運用が難しくなる。でもこの様子ならば心配はなさそうだ。

『私の竹で、私が作ったモノは動く。そして学習し成長する』

 このことが確定した。
 他にもわかったことがある。
 それはエネルギー供給の仕組みについて。
 サクタにコードの類はない。ロボット掃除機みたいに充電ステーションもない。
 なのにずっと動き続けている。
 不思議だったのでよくよく観察してみたら、からくりが薄っすら視えてきた。

 形こそちがえどもこの子もまた竹にて、地下茎と繋がっていたのである。
 ただし、実際に根で結ばれているわけではない。
 地下茎からのびている、目には見えない、実態をともなわない不思議な糸状の何か。
 私の身からチロチロ溢れ出るソレを――仮にリグニンコードと呼ぶ。
 サクタはリグニンコードと接続することで、絶えずリグニンパワーを注入されているがゆえに、いつまでも走り回れていたのである。

 いわば竹林全体がスマートフォンのワイヤレス充電器みたいなもの。
 私はこれを『ワイヤレス竹電』と命名した。
 いちいちコンセントに繋がなくていいから便利である。もっとも有効範囲はあくまで竹林の中だけに限られるけれども。
 領域の外に出たとたんに充電が減っていく。動きもみるみる鈍くなってはじきに停止するから、そこだけは注意が必要だ。

 サクタの稼働実験と平行して、私は人型以外のタイプでも検証してみたところ……

 私の周囲を元気よく駆け回っているのは、竹で作った犬――竹イヌ。
 ハフハフ息を切らせてはしっぽをブンブン、はしゃいでいる姿がちょっとアホっぽい。お座りはできるけど、待ては苦手みたい。
 けど、作った以上はちゃんと最期まで面倒をみるよ。
 それがペットを飼うということなんだから。

 パカラ、パラカ、パカラ。

 蹄を鳴らしながら悠然と歩くのは、竹で作った馬――竹ウマ。
 膝がちょっとカクカクしているけれども、全体のフォルムは雄々しくてなかなかの出来映え。これはサクタの騎乗用にしよう。
 凛々しい騎馬竹武者……いいじゃない!

 シュルシュルと地面を這っているのは、竹で作った蛇――竹ヘビ。
 見た目はお土産物屋で売られている郷土玩具のアレにそっくり。長い体を左右にくねらせては、器用に動いている。円らな瞳がかわいい。

 動物型は問題なく動いた。
 おそらくは他の動物でも大丈夫だろう。
 いまの私の造形技術ではまだ巧く作れないけれども、ゆくゆくは猫とか鷹とかにもチャレンジしてみたい。

 次に竹筒に車輪をつけただけの簡単な車を作ってみた。
 完全にオモチャだ。
 しかしこれもいちおう動く。
 が、シャフトやステアリングなどを組み込んでいないので、たんに前後に行ったり来たりするばかり。
 やはり前輪がハンドルに連動して動くようにしてやらなければいけないようだ。
 車とミニ四駆の構造はだいたい頭に入っているので、追々開発していこうと思う。

 えっ、竹だけの女じゃなかったのかって?

 あ~、前にもチラっと触れたけど、うちってば兄と弟がいたからね。
 ほら、男の子ってば乗り物とかミニ四駆みたいなオモチャが好きでしょう。だから私の身の回りには、つねにこの手の情報が転がっていたんだよねえ。それで兄弟らに付き合っているうちに自然と詳しくなっていたという次第。

「……とまぁ、こんなもんかな。単体での運用はひとしきり試したから、そろそろ次の段階に進むか」

 とりあえずサクタで蓄えたノウハウを使って、竹武者をもう数体作る。
 ここからは複数体による運用について、あれこれ試してみようとおもう。
 実証実験はまだまだ続く。


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