竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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007 皮かむり

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 おかしい……ヘンだ。

 えっ、何がおかしいのかって?
 それは私の成長速度である。
 いや、より正しくは私の意識が宿っているタケノコの育ち具合にて。
 体である竹林の方はスクスク育っているというのに、こちらはさっぱり。
 日に30センチは成長するはずが、この身になってからかれこれ三週間が経過するというのに、ちょびっとしかのびていない。
 竹林内であれば自在にひょこひょこ竹を生やせるというのに、どうにも上手くいかない。
 これではいつまでたってもほっかむり、皮がむけない未熟者のまま。
 おっと、誤解しないでよ。けっして下ネタなんかじゃないんだからね。

 植物がうまく育たない原因は、おもに二つ。
 環境要因と栽培方法だ。
 成長を阻害する気候や害虫に病気などの外的なことを環境要因という。
 栽培方法についてはそのまんまである。

 では現在の私を取り巻く状況を見てみよう。
 足下の土壌については……
 ほどほどの水はけ、ほどほどの水もち、バランスは良好である。
 腐葉土は自身の落ち葉にてまかない、堆肥については獲物を地中に引きずり込んでは分解吸収しているので、これまたそれなりに充実している。ただ獣の肉ばかりが続いているので、そろそろお魚が恋しいところ。

 まぁ、それはさておき。
 竹を育てる土壌としては、なかなかのものであろう。
 でも全体としてはまだまだ足りていない。だから今後は竹粉を用いた堆肥作りにも着手するつもりだ。なにせ竹粉は乳酸菌が多く含まれており、環境に優しいエコ産物だからね。土壌改良に最適なのである。

 日当たりについては問題なし。
 この一帯はすでに独占状態にて、私のテリトリー。
 なにせ竹ときたら繁殖力が半端ないからね。縦にも横にもよくのびるから、たちまち周辺を侵蝕しては席捲する。お陽さまの光も地中の水分や栄養もごっそり奪うものだから、他の植物たちはたちまち干上がってしまい、蹂躙され駆逐されるばかりなのだ。

「アーッハッハッハッ、圧倒的ではないか、我が陣営は」

 えっ、そんなことをして良心が傷まないのかですって?

 フッ、甘い。
 黒糖をしこたまぶち込んだ、おしるこばりに甘々だ。
 これはマンションとかの日照権なんぞとは別次元の話。
 食うか食われるかの生存競争である。
 弱肉強食、勝者はすべてを手に入れ、敗者はすべてを奪われ死あるのみ。
 仏心なんぞを出したら、たちまち喉元に喰らいつかれて噛み千切られるのがオチだ。『情けは人のためならず』が成立するのは、あくまで人の世の中だけである。
 竹の身の上となった私の知ったこっちゃない。
 というわけで誰に気兼ねすることなく、存分に枝葉を広げては光合成に勤しんでいる。

 でも不満がまったくないわけではない。
 じつはこの地域、雨がちょっと少ないかも。
 本音をいえば株元にはもっと潤いが欲しいところ。
 乾燥はお肌の大敵、それは人も竹も変わらないのだ。

 栽培方法に関してはやれることはあまりない。
 せいぜい剪定ぐらいなのだが間引くのは簡単だ。

「ムムム……そこの枝、邪魔だからいらない」

 念じるだけでポロリと落ちるので楽ちんである。
 ちょっと味気ないけど。

 ……とまぁ、こんな感じで自分でぱっと思いつくこと、やれることはやっている。
 なのにタケノコは皮をかぶったまま。
 このままでは立派な大人になれない。
 それどころか病気を誘発したり、黒ずんで腐ったりすることもある。
 根元からもげたりしちゃったら、竹好きの沽券に関わる。

「もしもそんなことになれば、とんだ赤っ恥だ。とてもじゃないけれど、じいちゃんに顔向けできない」

 あ~、まるで天国にいるみたいに言ったけど、うちのじいちゃん現役でピンピンしているから。あれは余裕で百二十まで生きるね、うん。おそらくは竹林からのマイナスイオンとリグニンパワーの恩恵にちがいあるまい、と私はにらんでいる。
 なんにせよ我が身のことである。
 やはり異世界のハイパーでウルトラかつスーパーな竹だけあって、ふつうの育て方では足りないのかもしれない。
 だが、いまの私にはそれを知る術がない。

「切実に情報が欲しい。だれか竹刈りにこないかなぁ~。
 というか、いまさらだけど、この世界って人間いるのかしらん?」

 う~ん。


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