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006 竹の実、干し肉、食あたり
しおりを挟む「やはりダメみたいね。さすがにこれじゃあ厳しいか……」
手付かずのまま放置されている小麦っぽい粒々を前にして、私は「う~ん」
狩猟ライフがままならぬ。早々に問題が発覚した。
原因は獲物を誘き寄せるためのエサだ。
これがたいそう不評にて。
いろいろ使い道があって万能っぽい竹にも欠点はある。
それはロクな実をつけないこと。
かんちがいをしている方もおられるようだが、タケノコはあくまで竹の若芽であって実ではない。
いちおう竹の実と呼ばれるモノはある。
見た目こそは小麦に似ており竹米ともいう。デンプン質に富んでおり、いにしえより粉にしては救荒食とされてきた歴史を持つ。
が、これがまぁクソまずいのなんのって。
それでもダメ元で試してみようと、撒き餌に使ってみたのだが結果はご覧の通りであった。畜生ども、総スカンである。
「せめて稗か粟なみに食べられたらよかったんだけどねえ。ところでこっちの世界にもお米ってあるのかしらん?」
さすがにササニシキとかコシヒカリみたいな完成された米はなくとも、野生の原種に近いものならば探せばありそうな気がする。なにせ竹が生えているぐらいだし。あったらいいな。
「あー、想像したら無性にご飯が食べたくなってきちゃった。大盛りつゆだく、卵つきの牛丼をかっ喰らいたい。紅ショウガもたっぷり添えて。じゅるり。
はぁ~、もったいないけど、こうなったらしょうがない。アレを使うか、ちぇ」
撒き餌の候補としては、じつはもうひとつ考えていた。
それは干し肉である。
いざというときのためにとコツコツ作り置きしておいたのだが、それをいくらか放出することにしよう。本当はイヤだけど背に腹は変えられない。
その代わりもしも獲物が狩れたら、今度からは内臓の一部とかを撒き餌に回すことにしよう。
〇
結果を述べれば、私のお手製干し肉は大好評であった。
調味料こそは添加していないものの、ぎゅっと旨味が濃縮されているからね。
枝葉の先から吊るしておけば、その下へと飢えたオオカミみたいな獣がニオイに釣られてふらふらと近寄ってくる。
でもざんねん、そこには落とし穴がある。上ばかり見ていたら、たちまちドボンだ。底に設置されてある竹槍の餌食に。
かとおもえばヒュンヒュンと風を切り、猛スピードで飛んでくる者がいる。
タカのような鳥影だ。竹林内をものともせずに高速飛行する技術はたいしたもの。いっきに干し肉めがけて接近してくる。このまま掻っ攫うつもりなのだろう。
だがやっぱりざんねん、あと少しで干し肉をカギ爪で引っ掴めるというタイミングで、バサバサッ! 目の前に跳ね上がってきたのは竹の枝葉である。鞭のようにしなっては「えいっ」とカウンターブロック。
ラリアットされたタカは「ぐえ」とうめき目を回し墜落。そのまま落とし穴へと呑み込まれていった。
そうしたら今度は自分の番だとばかりに挑戦してきたのが、サルみたいな獣である。
どうしてわざわざ『みたいな』とつけたのかといえば、腕が四本もあったから。器用に動く長いしっぽも合わせたら、実質五本腕であろう。
サルもどきはそれらを巧みに使っては、竹から竹へとぴょんぴょん飛び移り、干し肉へと近づいていく。
その動きのなんと素早いこと。まるで忍者のようにて、こちらが竹を操って妨害しようとしても、それを軽く上回ってくる。
しかもこれでつねに周囲への警戒も怠らないのだからおそれいる。
よもや空中にいるところを狙った、矢や槍の投擲をことごとくかわされるとは思わなかった。
「ムムム、こやつ……かなりデキる!」
あんまりにも華麗な身のこなしゆえに、私も参ったと潔く干し肉を進呈しようかと思いかけたほどである。
でも、しょせんは畜生であった。元リケジョの頭脳にはかなわない。
ヤツが「キャッキャッ」と喜色を浮かべて干し肉へと手をのばしたところで、プツン。
私は竹縄を切った。
当然ながら吊るされていた干し肉は落ちていく。
あとほんの少しで手に入るところだったのに……これは悔しい。
だからヤツがそれを掴み取ろうと追いかけたところを、私は存分にしならせた竹にて「喝っ!」と叩いてやった。色即是空、煩悩退散。
落下中の干し肉を拾おうと無理な姿勢をとっていたために、背中の方がついおろそかになっていたところへの不意打ち。
サルは落とし穴の底へと消えていき「ぎゃっ!」
ちなみに干し肉はギリギリのところで、笹をゴルフみたいにフルスイングして回収に成功する。
「ふぅ、危ない危ない。もっともいまの体だったら三秒ルールとか、気にしなくていいんだろうけど」
三秒以内ならば大丈夫という都市伝説。
じつはとっくに否定されている。
サルモネラ菌を使ってちゃんと実験した変態がいるのだ。
それによれば科学的には一秒でもアウト。とくに水分の多い食べ物はより汚染されやすいらしい。
食中毒予防は菌を「つけない」「増やさない」「やっつける」という3原則を守ることが大事。せいぜい気をつけなはれや。
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