竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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004 七日後……

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 視界の隅にてシュタタタと横切ったのは小動物だ。
 形状からしてウサギであろう。かなりの俊敏さである。見事な逃げ足にてこれを捉えるのはチーターでもムズカシイはず。
 だがしかし、この私からは逃れられない。

 ザシュ!

 地中からの竹槍によるひと突き。
 串刺しにされては、ぷらんぷらん。ポタポタと血を垂らしウサちゃん絶命。

「フフン、どんなもんよ。っと、もったいない。栄養栄養っと」

 いただきますと心の中で手を合わせてから、私はチュウチュウ。
 まずは竹をストローがわりにして血液をいっき飲みにて吸い尽くす。ケフッ。
 でもって、すっかり萎々のミイラになったらそのまま地中深くへと引きずり込み、これまた分解吸収することで、余すことなく私の糧とする。
 しかし私は育ち盛り、これっぽっちでは全然足りないのだ。
 さりとてここは竹林の奥、なかなかおもうように獲物がやってきてくれない。
 だから私は空を見上げる。

「おっ、鳥めっけ」

 ちょうど鳥の群れが上空を通りがかっているではないか。
 そこで私は群れ目がけて「フッ!」
 鋭く息を吐くようにして射出したのは、やはり竹である。
 狙い通りに真っ直ぐ飛ぶようにと加工された特製の竹の矢だ。矢といっても大きさは槍ほどもあるけれど。

 地中の穴よりポンと射出された竹の矢が、空へと飛んでいっては、狙いあやまたずにブスリ。
 撃ち落された不運な一羽を、先ほどと同じような手順にてモグモグ食す。
 けっこう大きな鳥だったので、私もようやく腹がくちて人心地つく。

 やれやれである。
 さすがに七日も経てば、自分の中でいろいろと折り合いがつくというもの。
 私は理解した。
 どうやら自分はタケノコになっちゃったのではなくて、タケノコに生まれ変わったらしいということを。それもタダのタケノコじゃない。明確なる意思を持つハイパーなタケノコに、である。
 でもって、そんなスーパーなタケノコなんて地球上には存在しない。
 もしかしたら私が知らないだけで、じつは存在していた!
 なんて可能性は、七日前の夜にあらわれた禍客の存在によりすぐに否定された。
 さっき狩ったウサギもそうだ、頭には角がある。撃ち落した鳥は鳥類というよりもむしろプテラノドンとかの翼竜っぽいし。
 とどのつまり、ここは私がいた世界とは異なる生態系の世界だということ。
 フム、どうやら私は異世界転生とやらをしたらしい。
 そしてあの首長ばあさんとの邂逅を経て、己という存在をより深く正しく理解することができた。

 成す術なく食われるかとおもわれたが、フタを開けてみれば逆に相手を仕留めていた。
 やったのはもちろん私だ。どうやら窮地に陥ったことにより、無意識のうちに防衛本能が働いたらしい。
 あと私は自覚していないだけで、かなり動揺していたようだ。
 なぜなら基本というか根本的なことをすっかり忘れていたから。

『竹は地中で繋がっている』

 地下茎というのだが、これこそが竹の爆発的な成長と勢力の拡大を支えているカラクリである。
 竹が作り出した養分をせっせと地中へと送り、地下茎を通じてタケノコへと与えては育てているのだ。
 これは子どもを村全体で大切に育てているようなもの。
 つまり竹は、一にして全、全にして一であり、竹林全体でひとつの巨大な生命体と言えなくもないのである。
 いちおう分類上は植物とされているけれども、じつは唯一無二の存在にて、木でも草でもなかったりする。

 竹は竹であり、竹ゆえに竹あり。
 竹の上に竹はなく、竹の下にもまた竹はなし、唯我独尊。

「そりゃあどんだけウンウンがんばっても、ロクに動かないはずだよねえ。だってタケノコなんだもの」

 手や足がないから動けないのではない。
 この竹林全体こそが私であり、生えている青竹こそが手足みたいなもの。タケノコの部分はいわば監視カメラのようなもの。そんなタケノコにいくら「動け動け」とやったとて、そりゃあ精々身をよじるぐらいなのも納得である。

 私は己を知った。
 自分という存在を正しく認識し、生まれ変わったこの体を受け入れた。

 とはいえ意識はまだまだ目覚めたばかり。
 産まれたての赤子のようなものにて、このままでは危うい。
 そう判断した私はさっそく研究を開始する。私とてリケジョのはしくれ、こういうのは嫌いじゃない。いや、むしろ燃える。やってやろうではないか。
 研究テーマはずばり『いかにして立派な竹林になるか?』である。
 理想は高く、かつて祖父が育て上げたあのステキな竹林を目標とする。
 幸いにも時間ならばたっぷりある。
 トライ&エラー、どんと来いだ。
 かくして私は試行錯誤をひたすら繰り返しては、自分にできることをコツコツと増やしていった。
 その成果の一端が、先ほどの狩りと食事である。


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