上 下
21 / 56

021 語り部一号

しおりを挟む
 
 パオプ国の首都ヨターリーへと到着した夜。
 王城内に用意された部屋にて、ひさしぶりに身内だけになったわたしたち。

「なんだか、えらいことになったなぁ……」

 地下神殿にある神坐(カミグラ)とかいう怪しい祭壇にて、地の神トホテと逢瀬することになり、わたしはしんみりグチグチ。
 だって肉体から魂が抜け出すとか、それってほぼ死んでるのと同じなんだもの。

「まったくですわ。チヨコ母さまに危ないマネをさせるだなんて!」

 ひさしぶりにスコップ姿から白銀の大剣姿となった、勇者のつるぎミヤビ。
 けっこうご立腹。「いっそ全員シメるか」なんて過激な発言までもが飛び出すほどに、プンプン怒っている。

「……大丈夫。いざとなったら華麗にトンズラ」

 これまたひさしぶりに折りたたみ式草刈り鎌姿から漆黒の大鎌姿となった、魔王のつるぎアン。
 いろんな制限があるものの、空間を切り裂き距離を無効化する転移のチカラを持つ彼女。
 チカラについては今のところ隠している。きっとバレてもロクなことにはならないと思うので。
 そんなアンなのだが、近頃彼女の中では「トンズラ」という言葉が流行している。
 響きが気に入ったのか、ことあるごとに「トンズラ、とんずら」と言っている。

「神がわざわざ呼び出すなんて、よっぽど? もしや世界滅亡の危機?」

 さらっとおそろしいことを口にしたのは、鉢植えの禍獣ワガハイ。

「縁起でもないことを言うのはヤメて! 重たすぎるから、せめて国家存亡ぐらいにしておいてっ!」

 わたしはゆらゆら揺れる黄色い花をキッとにらむ。
 ちなみにアンにいらぬ言葉を吹き込んでいる犯人は、コイツだ。

「それにしても神さまの用事かぁ。いったい何なんだろうねえ。……もしかして、ちっとも進まない剣の母のお仕事に対して、グチグチお小言とかだったらイヤだなぁ」

 わたしはとってもウツウツした気分になった。
 いろいろがんばったけれども、結果的に大きく後退しているのが現状だ。
 なにせ第一の天剣(アマノツルギ)すらも嫁がせられないうちに、第二の天剣が誕生しちゃったもので。
 単純にやるべきことが二倍になった。
 まぁ、うちの子たち(剣と鎌)はあまり手間がかからないから、実際の子育てに比べたらずっと楽なんだけどね。
 努力する方向が致命的にズレているような自覚はある。
 しかし押し寄せる状況があまりに強烈すぎて、小娘は翻弄されるばかりなのです。

「……わざわざ呼びつけといて、さすがにとって喰うことはないか。説教ぐらいですめば、もうけものと考えるとしよう」

 あーでもないこーでもない。みんなでやいやいした結果、悩むだけ損だという結論に達したところで、就寝。
 ここのところ寝袋生活が続いていたせいか、手足がのばせる広い寝台はなにやら落ちつかない。
 パオプ国滞在中に、ぜひとも寝袋を手に入れねばと考えつつ、夢の国へ。すぴー。

  ◇

 朝一で叩き起こされた。
 眠い目をこすり、寝ぼけまじりで見上げれば、そこには白髪の老婆の立ち姿。
 なんというか、背筋から立ち姿もろもろがシャンとしており気品がある。若い頃はさぞやモテたであろう。いや、現時点でもポポの里ならば、老爺どもを夢中にさせるだけの器量が残っている。
 時間の経過とともに散るばかりの花。
 その中にあって、この人は丹念に乾燥させて鮮度こそは落ちたものの、より深い色味と芳醇な香りを得たような花。
 もしもわたしが男の身で「おい、イケるのかい?」と問われれば、黙ってうなづき親指をビシッと立てることであろう。

「えーと、どこのだれさまで、いったい何のご用でしょうか?」

 わたしがたずねたら丁寧にお辞儀をされ、「ギテと申します。剣の母チヨコ殿のお世話役と指導をザフィア女王より託された者です。以後、お見知りおきを」と自己紹介。

 どうやら彼女がわたしの滞在中の世話を焼いてくれるらしい。
 ……うん?
 面倒をみてくれるのはありがたいけれども、指導とはなんぞや。

「神坐にての作法や、地の神トホテと交信される際の心得などです。なにせあそこはパオプ国にとっては大切な場所にて、王族をはじめとする十二支族の方々が神聖視している場所でもありますから。服装から所作まで、細かい取り決めがあり、覚えることは多岐におよびます」

 このギテさん。じつはパオプ国に二人いる語り部のうちの一人なんだって。
 確かに若いのと年寄りがいるって話は聞いていたけれども、礼儀作法がてんこ盛りとは聞いてない!
 女王さまのウソつき! 「ただじっと座っているだけでいい」とか言ってのに、ぜんぜん話がちがうじゃない!

「まずチヨコ殿には沐浴をしていただきます。それから本日より、心身を清めるために精進潔斎の生活となりますので」
「しょうじんけっさい?」
「肉や魚などを食さず、身を清め、心を穏やかに保つことです」
「なっ! せっかく遠い異国の地に来たというのに、ご当地の料理が食べられないの? 街角ぶらりの食べ歩きは? 揚げるとウマいというプクは? 具材をたっぷり挟んだ焼きたてのペチャは? ペチャにラクをたっぷり練り込んだ特別なペチャは?」
「プクは魚なのでダメです。小麦粉で焼いたペチャは問題ありませんが、具材は肉抜きの野菜のみとなります。あとラクは動物由来の乳製品なので、これも禁止ですね。というか当面の食事はかぎりなく白湯にちかいお粥になります」

 淡々と語るギテさん。
 牢屋に収監されている囚人たちだって、もう少しマシなものを食べてるよ!
 残酷な宣告を受けて、わたしは声にならない悲鳴をあげた。


しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。 第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。 のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。 新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。 迷走するチヨコの明日はどっちだ! 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第三部、ここに開幕! お次の舞台は、西の隣国。 平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。 それはとても小さい波紋。 けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。 人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。 天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。 旅路の果てに彼女は何を得るのか。 ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

おかたづけこびとのミサちゃん

みのる
児童書・童話
とあるお片付けの大好きなこびとさんのお話です。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

ヴァンパイアハーフにまもられて

クナリ
児童書・童話
中学二年の凛は、文芸部に所属している。 ある日、夜道を歩いていた凛は、この世ならぬ領域に踏み込んでしまい、化け物に襲われてしまう。 そこを助けてくれたのは、ツクヨミと名乗る少年だった。 ツクヨミに従うカラス、ツクヨミの「妹」だという幽霊、そして凛たちに危害を加えようとする敵の怪異たち。 ある日突然少女が非日常の世界に入り込んだ、ホラーファンタジーです。

処理中です...