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018 探索
しおりを挟むわたしたちが侵入したのは、城の隅っこにある倉庫らしき場所。
ずいぶんとホコリが積もっており、少しばかり空気もよどんでいる。長らく人が立ち入っていない模様。
開けた穴はその辺に転がっていたゴミだか資材だかで隠す。
それからふたたび金づちで床をコンコン。
ツツミの空間把握能力にて付近の状況や構造をざっと把握。その情報をもとに、ここから先はホラン主導にて探索を開始する。
影矛として各地へ赴いているホランは、この手の潜入任務も数多くこなしているのか、慣れた様子にてサクサク進む。
わたしはややへっぴり腰にてこれに続く。
……にしても城の中は快適にはほど遠い環境である。
けっして低いわけじゃないのに廊下の天井が近く感じる。
閉塞された空間のせいか、とにかく圧迫感がすごい。歩いているだけで息苦しい。
ちらちら明滅する照明は薄暗く陰気。全体的にジメっとしており、なんていうか、鉄分多め?
そこら中の壁や床が鉄板などで補強されており、天井には太い配管が何本も並列して走っている。
絶えずかすかな震動があって、どこか遠くに「ごぉうんごぉうん」と怪音が聞こえている。
「アレは何だろう? パオプ国でみた地熱を利用する管に似ているけど」
「わからん。だがうち一本は、おそらく空気を循環させるためのモノだろう」
天井を見上げつぶやくわたしに、ホランがふり返ることなくそう答えた。
防衛上の理由からか、ここは密閉率がかなり高め。ゆえに適度に風をまわしてやらないと、たちまち建物内の空気がよどんでしまう。ヘタをすると人間がぶっ倒れてしまうんだとか。
「へー」とわたしが感心していたら、先を歩いていたホランがふいに立ち止まる。
ホランは床近くの壁に埋め込まれた石碑を指差す。
大きな建物の着工時に記念として設置される定礎にて、そこには「城塞島カイリュウ」と刻まれてある。
その名前を見てわたしは「くっ、ちょっとかっこいい」とか思った。
しかしホランの表情は硬い。理由は定礎の文字にある。ホランやわたしに読めるということは、城塞島カイリュウの建造にこちらの大陸の人間が深く関わっている可能性が、ぐっと高まったことを意味していたから。
◇
警戒しつつ進んでは立ち止まる。
その都度、わたしがツツミの空間把握能力を用いて情報収集。
これをもとにホランが先導し、探索を続けるをくり返す。
じきに巡回中とおぼしき軍服姿を見かけるようになった。
だが物陰に潜んでいたら、すぐにどこぞへと失せた。
どうやら絶海の孤島ゆえに、敵が潜入してくるとは露ほどもおもっていないらしい。それが如実にあらわれている職務怠慢ぶり。
隙だらけなので「とっつかまえて口を割らせよう」とわたしが意気込むも、ホランは首をふる。
「それは最終手段だ。いまはまだ慎重に行動したほうがいい」
いかにタルんでいようとも軍隊は軍隊。
厳格な規律にて行動が管理されており、異変が起きて運用がとどこおれば、たちまち気づかれてきっと騒ぎになる。
閉じられた空間内で、人海戦術をとられてはたまらない。さらわれたみんなを奪還するどころではなくなってしまう。それどころか人質にとられて完全に詰みとなる。
ならば敵にまだ侵入を悟られていない立場を活かすべき。
もっともなホランの意見にわたしはコクコクうなづいた。
◇
大あくびをし、気だるそうな態度で見張りをしている兵士たち。
彼らの目を盗んでは、こそこそ先へと進む。
ときに陰へと潜み一体化してやり過ごし、ときにシュタタと駆け、ときに差し足忍び足……。
いまのところ探索は順調。
でも城塞島カイリュウの内部はアリの巣状態につき、進捗具合はいまいち。
虜囚となった人たちが収容されているとおぼしき場所はまだ見当たらない。おそらくはこことは別の区画にあるのだろう。
おおまかな位置だけでもわからないかと、ミヤビの気配察知能力を試してみたんだけれども、ダメだった。
内部構造が乱雑すぎる。施設内をけっこうな人数がうろついており、加えて城に用いられている建材や周辺海域に満ちる銀砂混じりの霧が邪魔をして、うまく探れないという。
時間の経過とともに焦れるわたしとは裏腹に、ホランは冷静な態度を崩さない。
内心ではさらわれたネクタルの身を案じ、わたし以上にイラ立っているはずなのに。
たいした自制心である。わたしの中でホランの評価がちょっぴりあがった。
◇
どれだけの角を曲がっただろう。
何度、階段を上り下りしただろう。
途中でいくつも枝分かれしている薄暗い廊下。
窓がないから外の様子がわからない。時間感覚もかなり怪しくなってきた。
数多ある小部屋たち。適当なのを選んで室内を漁るも成果はなし。
城塞島の構造が記された地図でもないかと期待したのだけれども、ちぇ。
ここに住んでいる連中は、よくも迷わないものである。
「なんて不親切な。来客用に案内図の一枚でも壁に貼っておけっての」
いかに辺境育ちの健脚とはいえ慣れぬ環境下、わたしもいい加減に足がだるくなってきた。
そうそう。健脚といえば、たしかホランの才芽は「三脚」だったか。
三脚の才芽は、まるで第三の足があるかのごとく長時間、駆け続けられるというチカラ。さすがにウマほど速くは走れないけれども、騎竜よりかは長い距離を走り続けられるという。
以前にクンルン国を旅しているときに、ホランの先輩にあたるケイテンさんから教えてもらった。
だからなのだろう。こんなに神経を使う状況にもかかわらず、ホランの足どりが乱れることがないのは。
にしても、まいったね。
いちおう迷わないようにと、印をつけながら進んでいるが、これではみんなを助け出しても、追手をかわしつつうまく逃げ切れるかどうか……。
フム。いざともなればチカラ技の行使も視野に入れておいたほうがいいのかもしれない。
なんぞと考えつつ、ホランの背中についていくと、いつの間にやらたどり着いたのは、ずいぶんとひらけた場所。
大きな風車がいくつもグルグル回って、風が轟々と唸っている。ずっと聞こえていた怪音の正体はコレか。
城塞島カイリュウの空調設備。
ここから大量の外気をとり込んでは、せっせと内部へ送っている模様。
「巨大な建造物を探るのならば、内部の空気の流れを把握するのが一番てっとり早いんだよ」とホラン。
特に設備の整った軍事施設の場合、重要な区画ほど他所より空調に気を使っているもの。
とどのつまり、ここからのびている配管の中から造りや大きさが上等なモノをたどれば、自然とそれなりのところに案内されるということ。
えらい人がいればボコって情報を聞き出すなり、人質にすればいい。
重要な設備ならば派手にぶっ壊して、攪乱工作に。
どうやらホランは最初からこの場所を目指していたらしいと、わたしはいま知った。
もう、そういうことは先に言ってよね!
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