上 下
12 / 39

012 鬼退治

しおりを挟む
 
 まずはヨスさんらが漁をしていたという場所へ。
 舟の残骸が散乱していたから、襲撃現場はすぐにわかった。
 念のために周辺をひとまわりするも、人影はなし。死体が浮いてないことに、わたしはちょっとホッとする。ヨスさん以外は全員が黒鬼とかいう海賊船に捕まってしまったみたい。

「海の民を襲ったってことは、お金目当てじゃないよね。とすれば、目的は人そのものか」

 神聖ヨモ国をはじめとする近隣諸国では、人身売買と奴隷制度は禁止されている。
 とはいえ、なにごとにも抜け道があるもの。
 罪を犯した者が犯罪奴隷として鉱山とかで働かされることはあるし、借金のかたに労働力として奴隷に近いあつかいを受けている人たちもいる。
 悪党ほどよく知恵がまわるもの。法や制度の隙間を小狡くついてくる。
 そしてところかわればなんとやら。ひょっとしたらわたしが知らないだけで、公然と人身売買や奴隷の存在を認めている国があるのかもしれない。

「ねえ、ミヤビ、みんなの気配を追える?」
「ちょっとお待ちください、チヨコ母さま。
 ………………かすかにですが南西に反応アリ、ですわ。
 かなりの速度で移動しているようですが、それにしても、これは」
「どうかしたの」
「反応がおかしいのです。気配が希薄、というよりも、妙に存在がぼやけているというか、薄めた墨汁みたいで、どうにもはっきりしません」

 ミヤビは遠ざかる黒鬼に、通常とはちがう反応を感じて首をかしげている。
 とはいえ追うべき相手の場所がわかった以上は、まごまごしている暇はない。
 わたしたちはさっそく南西を目指し、飛んだ。

  ◇

 反応を追尾し、南西へと飛ぶほどに霧が濃くなってゆく。
 白いモヤが、灰色へと変わり、ついには銀砂をバラまいたような色味を帯びてきた。
 いくら海のことにはうといわたしでも「さすがにこれはただの霧じゃない」と気がついたとき。
 進路上にて轟音が鳴り響く。
 突如として前方の霧に大きな風穴があいた。
 ものスゴイ勢いで飛んできたのは、黒い塊の何か!
 巨人の親指の先をちょんぎったような形をしている?
 ミヤビが右に急旋回して、これをかわす。
 わたしたちの脇を通り過ぎていった黒い物体は、後方へと抜けたとおもったら、唐突に閃光を放ち爆発。
 爆風にあおられて、おおきくかたむいたミヤビが叫ぶ。

「チヨコ母さま、しっかりつかまって!」

 言われるままに、はりつくような姿勢となったところで、「ヒュン」という風切り音とともに「カカカカカン」と激しい音がっ。
 まるで大量に降ってきた雹(ひょう)が屋根に当たったときのような音。
 正体不明の黒い物体が爆発して、内部にあった大量の小さな粒々が四散。襲いかかってきたそれらが剣身を打つ。
 ミヤビがとっさに己が身を盾としてくれたから助かったものの、わたしはゾッ。
 もしも対応が遅れていたら、いまごろわたしのカラダはズタボロにされていたのにちがいあるまい。
 しかし真に驚愕するのはこれからであった。
 前方より次々と飛来する黒い何か。
 機動力に優れるミヤビは巧みにかわし続けるも、それにしたって狙いが正確すぎる。

「霧で視界がほとんど利かないはずなのに、どうしてこっちの居場所がわかるのっ!」
「わかりません。なにやらこの霧にからくりがありそうなのですが。こうも攻撃を続けられては、おちおち解析している余裕がありません、ですわ」

 一方的な攻撃にさらされて、ひたすら飛んで逃げ続けるわたしたち。
 それでもどうにか隙をついて接近しようとしたところで、さらなる奇怪な現象を目の当たりにすることになる。
 飛んでくる黒い何かへと臆することなく突っ込み、かわしつつ距離を詰めて接敵。
 ようやく霧の奥に大きな船体が見えた!
 懐に入ってしまえばこっちのもの。
 とおもったら、黒鬼がいきなり横へスイと移動したもんだから、びっくり仰天!
 船は基本的に前後にしか動けないはず。なのに黒鬼は船首をこちらに固定したまま、海面を滑るようにしてカニみたいに横移動をしていやがる。しかも巨体にもかかわらず、かなりの高速でっ!
 広げた扇のふちをなぞるような、ありえない軌道を描く巨船。
 正面から勢いのままに突っ込んだわたしたちは、黒鬼に無防備な側面をさらす格好となってしまう。
 この位置はマズイ。白銀の大剣がすぐに旋回をはじめるも、その進路上の海面から突如としていくつもの水柱があがった。
 次々とあがる水柱を右へ左へ、避けながら進むことを余儀なくされたミヤビ。自慢の機動力が大幅に低下。
 こちらの動きがもっとも鈍くなるのを見計らっていたかのように、いっそう巨大な水柱があがる。
 前方の視界がすべて海水の幕におおわれてしまった。
 急なことでかわすこともできなかったわたしたちは、そのまま海水の幕へと突っ込むことに。
 幕の厚さはさほどでもなく、わたしが少し息を止めているうちに通り過ぎる程度。
 けれども直後に待っていたのは、まばゆいばかりの閃光と宙いっぱいに広げられた網。
 どうやらあの爆発する黒いやつには、いろんな種類があったらしい。不覚……。
 多彩な武器と海という戦場を巧みに用いた戦術。
 こちらの完敗であった。

  ◇

 網にからめとられて海中へと没したわたしとミヤビ。
 モタモタしていたら黒鬼に喰われちゃう。
 すぐさま脱出をはかろうとするも、それはかなわない。
 海の下には急な潮流の層があって、これに巻き込まれてしまったからだ。
 ものすごいチカラでぐんぐん引っ張られる。
 もう何が何やら。
 あーれー、目がまーわーるー。
 でもって、海底の大渦の中心にいたのは、どデカいイソギンチャクの禍獣。山と見まがう超巨体、ちょっとした宮殿ぐらいはあるかも。
 この潮の流れは禍獣が獲物を捕食するために発生させていたもの。
 気づいたときには、パクンとひと呑みにされちゃってた!
 剣の母チヨコの冒険、これにて終?


しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。 第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。 のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。 新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。 迷走するチヨコの明日はどっちだ! 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第三部、ここに開幕! お次の舞台は、西の隣国。 平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。 それはとても小さい波紋。 けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。 人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。 天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。 旅路の果てに彼女は何を得るのか。 ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。 いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑! 誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、 ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。 で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。 愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。 騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。 辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、 ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第二部、ここに開幕! 故国を飛び出し、舞台は北の国へと。 新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。 国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。 ますます広がりをみせる世界。 その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか? 迷走するチヨコの明日はどっちだ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

にゃんとワンダフルDAYS

月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。 小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。 頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって…… ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。 で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた! 「にゃんにゃこれーっ!」 パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」 この異常事態を平然と受け入れていた。 ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。 明かさられる一族の秘密。 御所さまなる存在。 猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。 ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も! でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。 白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。 ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。 和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。 メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!? 少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

絡まるソースのような

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
 幼馴染の奏太が貧血で倒れたことをキッカケに、彩夏がバァヤ(おばあちゃん)として奏太の夕ご飯を家で作ってあげることに。  彩夏は奏太に対してバァヤ目線で、会話をしていく。  奏太は彩夏のことが恋愛として好き。  しかし彩夏は奏太のことが実は恋愛として好きだということに気付いていない。  そんな彩夏と奏太が料理で交流していき、彩夏が恋愛に気付いていくストーリー。

処理中です...