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006 チューワンの港
しおりを挟む神聖ユモ国を縦断するアマノ河。その河口近くにあるのがチューワンの港。
大型船が出入りできるように湾内は整備されており、たくさんの倉庫が並び、人と物の往来が盛んで活気あふれる内地への海の玄関口。
沖へと真っ直ぐに伸びた石積みの桟橋。
その先端に立ち、わたしはあんぐり。
だって太陽サンさん、いい天気の下を、どこまでもどこまでも青い海が続いているんだもの。
「デカっ! 広っ! あとなんだか生臭い! そしてちっとも人がいねえ!」
そうなのだ。
一大物流拠点にて、港には船がいっぱい停泊している。
なのに閑散としており、話を聞こうにも肝心の相手がいないのである。
いるのはやたらと攻撃的な海鳥ばかり。
あいつら、ミヤビに乗剣してわたしがチューワン港の上空に入ったとたん、よってたかってつついて来やがった。そればかりか楽しみにとっておいたチヨコ饅頭の最後の一個をかっさらいやがった。
あのトリ野郎め、こんど見つけたら羽をむしって焼き鳥にして喰ってやる。
「……とはいえ、これじゃあ沈んだ軍船の話が聞けないよ」
長いこと海を眺めていたせいで、チカチカする目をこすりつつ、わたしは桟橋からトボトボ戻る。
大通りを歩いてみるも商店は軒並み閉まっており、人影はなし。
港町全体がまるで火が消えてしまったかのよう。
「まいったね。みんなどこにいるんだろう」
わたしが困っていたら、帯革内にて白銀のスコップ姿で収まっているミヤビが教えてくれた。
「チヨコ母さま、あちらの方から大勢の人の気配がしますわ」
言われるままに向かったのは、とある建物の地下へと通じる階段。
なにやら退廃的な雰囲気にて、危険なニオイがぷんぷんする。しかし手掛かりを得ぬことには始まらないので、薄暗い階段を降りていく。
階段の先にあったのはどっしりした貫禄のある木の扉。
わたしは深呼吸をしたのちに、意を決してこれををあける。
「たのもう」
すると入った瞬間に、何者かにひょいと襟首をつかまれて、持ち上げられたとおもったら、そのまま扉の外にポイッと放り出された。
扉をくぐり、つまみ出されるまでの一連の動作があまりにも自然な流れすぎて、わたし自身がどうして扉の外にいるのか、しばし理解できなかったほどである。
だがここでひき下がるわけにはいかない。
そこで再突入を敢行するも、またもや同じ流れをたどる。
しかしわたしはあきらめない。辺境魂をメラメラ燃やす。
三度目はできるかぎり身を伏せて低空侵入をはかるも、失敗。
四度目は扉を開けてすぐには飛び込まずに、ずらすという一人時間差を行うが、やはり失敗。
五度目ははおっていた外套(がいとう)を囮につかっての分身の術を披露するが、これも見破られて失敗。
で、六度目の挑戦をしようとしていたら扉が勝手に開いた。
奥から姿を見せたのは腰に剣を差した無精ひげのおっさん。
おっさんは開口一番「いい加減にしやがれ!」
◇
わたしを怒鳴ったおっさんの正体は酒場の用心棒。
とかく海の男たちは気性が荒く、大酒飲みが多い。そんな連中がたむろする場所ゆえに、モメごとは日常茶飯事にて、そのために店側が用心棒を雇っているというわけ。
用心棒のおっさんが入り口脇にて店内を見張っていたら、扉を開けて入ってきたのは場違いなちんまい小娘。
だからおっさんは「ここはガキの来るところじゃねえ。とっととおうちに帰んな」と追い返していたらしい。
「とにかく今はまずい。連中、海賊騒ぎのせいで、仕事にあぶれてすっかり腐っていやがるからな。あんまり近づかない方がいいぞ」と用心棒のおっさん。
フム。なんだかんだと小娘の身を案じてくれている。
見た目は薄汚れたおっさんだが、どうやらいい人みたい。
ならばと、わたしはおっさん相手に情報収集を開始。
「海賊騒ぎって、例の軍船が沈められたこと?」
「そうだ。いまの海にはおっかない黒鬼がでるってんで、船主たちもすっかり腰がひけちまってな。まぁ、軍船を軽く沈めるような相手じゃあ、それもしようがない」
おっさんの話では、神聖ユモ国の海軍が取り締まりを強化してくれたおかげで、海賊騒ぎは順調に収束しつつあったそうな。
その状況を一変させたのが、話に登場した黒鬼と呼ばれる鉄の船の登場。
濃い霧の奥からあらわれては、軍船も海賊船も商船もおかまいなしに沈めるというからたまらない。
そのせいで航路は寸断されて、物と人の行き来もとどこおりがちとなり、港がこんなあり様になってしまった。
海の男たちは、陸の上ではすることがないので、日中から飲んだくれるばかり。
倉庫やお店も品物が入ってこないから商売にならない。
軍部はやられっ放しにてピリピリしている。
住人たちは港全体をおおう不穏な気配を敏感に察して、不要不急の外出をひかえている。
それゆえの閑散っぷりであったのだ。
「そんなわけだからお嬢ちゃんも、フラフラせずにおとなしく帰んな」
おっさんはそう告げると酒場の扉を閉じた。
◇
欲しい情報はあらかた手に入った。
話の中で軍船が沈んだという海域の場所も教えてもらえた。
が、あいにくとわたしは海のことにはとんとうとい。
あの見渡すかぎりどこまでも続く広大な大海原。
だいたいの見当だけでビューンとミヤビを飛ばして、はたして目的地へと無事に到達できるのであろうか?
まぁ、迷ってもアンの転移能力で港に戻ればいいだけなんだけどね。
とりあえず行くだけ行ってみるかな。
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