剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?四本目っ!海だ、水着だ、ポロリは……するほど中身がねえ!

月芝

文字の大きさ
上 下
1 / 39

001 南海の黒鬼

しおりを挟む
 
 霧けむる海原を西へと進む三隻の帆船。
 中型だが形状はまちまちにて、船足も微妙にそろっていない。
 これを後方から追尾するのは軍船一隻。
 がっしりした大型の船体。朱色地に黒で縁どられている。掲げられている旗に描かれてあるのは、サクランの六枚花の前で交差する槍と剣の紋章。
 近頃この界隈を荒らしまわっている海賊たちを討伐するために派遣された、神聖ユモ国の海軍の船である。

「くそっ、ちっともひき離せねえ。デカい図体のくせして、なんて足をしていやがる」

 一定の距離を維持しながらピタリとついてくる相手を、海賊団の船長がいまいましげにねめつける。
 すると帆の天辺にある見張り台から部下の声が降ってきた。

「前方に船影発見! あの旗印は……。いけねえ、ユモ国の連中だ」

 一隻が後方から追尾し、もう一隻がまわり込んでの挟撃。進路をはばまれ、絶妙な位置取りにて、自船の回頭もままならない。
 まんまとワナにはまり、海賊団の船長は「ちっ」と盛大に舌打ちするも、すぐに号令を発する。

「こうなったらしかたねえ。おめえら全員、腹をくくれ。白兵戦だ!
 青びょうたんどもに、海の男の恐ろしさを思い知らせてやれ!」

  ◇

 左舷より横づけされた軍船からの激しい弓撃。
 矢の雨にさらされた海賊たちは物陰にて身動きがとれない。
 そのうちに渡されたのは二本の桟橋。
 船同士が繋がったところで、盾を前面にかまえた集団が軍船より姿を見せ、隊列を組み桟橋を渡りはじめた。
 させじと海賊たちも蛮勇をふるうが、近寄るなり盾の隙間から突き出される槍の餌食となり、狙いすまして飛んでくる矢に貫かれ、次々と海中へ没することになる。
 やがて盾を持った集団が桟橋を渡り終えると、こんどは半円を描くように布陣して、橋頭保を確保。これにより兵士たちが続々と海賊船へ乗船を開始。
 この時点ですでに勝負ありなのだが、なおも海賊たちは激しくあらがう。
 なにせ捕まった海賊の末路は悲惨だからだ。縛り首か犯罪奴隷として鉱山で使い潰されるか。ゆえに死にもの狂いの抵抗を示す。
 海賊船の甲板が怒号と悲鳴、剣戟に満ちた。
 けれども勢いは次第に削がれていく。
 厳しい訓練を積んだ兵士と海賊とでは実力がちがう。単体ならばともかく、こと集団同士の戦いになれば、その差が如実にあらわれるのは自明の理。
 次々と討ちとられ、あるいは無力化され制圧されていく海賊たち。
 そんな中にあってひとり最後まで気を吐いていたのが、海賊団の船長。伊達に荒くれ者どもを従えているわけではなく、腕っぷしは相当。大きな二本の斧を自在にふるっては、群がる兵士たちを蹴散らす。

「おらおら、どうした、ユモ国の軍人はこの程度なのか? おまえたちを率いている提督さまはどうしたよ? ビビっちまって出てこれねえのか。きさまも海の男だったらいさぎよく出てきて、おれと闘え!」

 暴れながら大音声にて好き勝手をほざく海賊団の船長。
 すると彼を取り囲んでいた兵士の人垣が割れた。
 奥から姿をみせたのはひとりの青年。
 生臭い海風でべとつく黒い前髪。これをうっとうしそうにかきあげたのはホラン。皇(スメラギ)さまの指示で海賊退治の手伝いにきていた影矛の男。
 猛犬のように吠える船長と対峙したホラン。その髪と同じ色をした双眸は冷ややか。

「海賊風情から『いさぎよく』とか言われたくねえよ。それにうちの提督さまは腰痛持ちでヨボヨボの爺さんだ。だからかわりにオレが相手をしてやる」

 言うなりスタスタと自然な足どりで近寄ってきた青年に、海賊団の船長は少々面食らうも、容赦なく斧の横薙ぎを放つ。
 轟とうなりをあげたのは右の剛腕による一撃。
 首を刎ねんとする斧を、ひょいとかかんでかわしたホラン。同時に腰の鞘から閃く刃。刹那の交差にて斬り裂いたのは、海賊団の船長の右手首。
 皮膚や筋肉とともに血管が切断されて、あふれだす鮮血。
 血の噴水を避けるようにサッと横に動いたホラン。そのまま足を止めることなく相手の脇を抜ける。
 あまりの瞬剣にてわけがわからず理解が追いつかない海賊団の船長。だらりとかま首をもたげている自分の右手首をふしぎそうに眺めていた。そのせいでホランの姿を見失ってしまう。
 気づいたときには膝裏を蹴られて、ガクンと視界が大きく下がっていた。
 あわてて海賊団の船長がふり返ろうとするも、それはかなわない。
 背後からむんずと頭頂部の髪の毛をわし掴みにされて、首筋がひやり。鈍い輝きを放つ銀の剣身が、ぴたりと浅黒く焼けた肌にはりついていた。
 いつでもノドをかき切れる体勢となったところで、ホランが淡々と告げる。

「おとなしく降伏して協力すれば、これ以上痛い目にあわなくてすむが、どうする?」

 協力とは情報提供の打診。
 神聖ユモ国の聖都にあるピ湖を源流とするアマノ河。
 北から南へと国土を縦断するように流れるアマノ河の終着にあるのが、南海と呼ばれるこの海。
 近頃、南海を荒らしまわっている海賊は複数におよぶ。
 実力も規模もまちまちにて、それらがおもいおもいに活動しているものだから、取り締まる側はたいへん。あちらを叩けば、こちらが顔を出すといった状況にて、しらみつぶしにするにしても海はあまりに広すぎる。
 だから海賊どものたまり場なり、使っている秘密の航路や取引先、補給用の中継地点などを押さえようと考え、影矛であるホランはその情報を求めて奔走していた。
 しかしなかなか欲しい情報にはたどりつけない。
 遅々として進まない調査に焦りを感じていたおり、顔見知りの提督から「だったら連中をとっ捕まえて、直接しめあげればいい」と言われた。
「それもそうか」と考えたホランは船に乗り込む。
 だが海賊どもはおもいのほかに口が固い。
 これは仁義を通しているのではなく、報復を恐れてのこと。
 海賊たちは裏切り者には容赦しない。その復讐の刃は当人だけでなく、親類縁者にまでおよぶ。赤子どころか飼っているイヌすらをも許さないほどに苛烈なもの。
 よしんばまんまと逃げおおせたとて油断はならない。三代をまたいで子孫に祟ったなんて話もあるからだ。
 ゆえにホランは今回もあまり期待はしていなかった。
 けれどもここでうれしい誤算が生じる。

「わかった、わかったから! 知ってることは洗いざらいしゃべる。だから助けてくれ」

 なんと船長がホランの打診を受けたのだ。
 ものすごい勢いで失せていく己の血と、みるみる冷たくなっていくカラダに恐れを抱いたらしい。あとこの男には守るべき存在がないことも功を奏したようだ。
 これで海賊退治も進展を見せるにちがいあるまい。
 そうホランがよろこんだのもつかの間。
 彼の耳が拾ったのは「キュルキュル」という異音。
 さらに濃さを増しつつあった霧の奥より、風を切り裂きながら近づいてくる何か。
 それは放たれた矢に近い音ながらも、はるかに力強く、狂暴な気配を発している。
 うなじのあたりがチリリとしたホラン。反射的にその場から飛びのく。
 いきなり解放された海賊団の船長は戸惑いの表情を浮かべるも、直後にゴボリと血を吐いた。

「えっ」

 きょとんとする船長の胸元には銛が深々と突き刺さっていた。
 投擲による銛の一撃。
 前後してけたたましく鳴り響いたのは、自軍の船が発する警笛音。
 敵襲を告げるもの。
 どうやら濃い霧にまぎれて接近を許してしまったらしい。しかし仮にも警戒を厳にしている軍船の監視網をかいくぐるなんて。
 ホランが銛で串刺しにされた男にいちべつをくれてから、兵士らとともにいそいで自分たちの船へ戻ろうとしたとき、そいつはあらわれた。

 海賊船の右舷すぐ近く。
 霧の向こうからぬぅっと顔を出したのは巨大な黒い鬼の顔。
 それが鉄でできた大型船であり、ツノに見えたのは船首の突起だと気づいたとき、ホランは強い衝撃にみまわれる。
 突っ込んできた黒鬼が海賊船へと真横からぶち当たったのだ。
 船縁が小枝のようにひしゃげて折れた。甲板が大きく波打つ。帆柱が根元から倒れる。船体横に大きな穴があき、竜骨までもが砕けてしまう。
 海賊船を真っ二つに喰い破った黒鬼。止まることなく勢いのままに突き進んでは、反対側にいた軍船へと襲いかかる。
 その光景をホランが目撃していたのは、ほんのわずかのこと。
 なぜなら黒鬼の突撃によって、彼の身は破壊された海賊船より大きく投げ出されていたから。
 ホランは宙を舞ったのち、海面に叩きつけられて意識を失う。
 またたく間に波に呑まれた影矛の青年。その姿が暗い水底へと没してゆく。

 このときの戦いにて神聖ユモ国の海軍は一隻の軍船を沈められ、もう一隻も大破するもかろうじて港へとたどりつくというあり様にて、多くの兵を失うことになる。
 以降、南海は気まぐれに出現する黒鬼によって蹂躙され、制海権が大きく変動することになった。


しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。 いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑! 誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、 ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。 で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。 愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。 騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。 辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、 ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第二部、ここに開幕! 故国を飛び出し、舞台は北の国へと。 新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。 国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。 ますます広がりをみせる世界。 その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか? 迷走するチヨコの明日はどっちだ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。 第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。 のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。 新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。 迷走するチヨコの明日はどっちだ! 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第三部、ここに開幕! お次の舞台は、西の隣国。 平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。 それはとても小さい波紋。 けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。 人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。 天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。 旅路の果てに彼女は何を得るのか。 ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

にゃんとワンダフルDAYS

月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。 小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。 頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって…… ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。 で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた! 「にゃんにゃこれーっ!」 パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」 この異常事態を平然と受け入れていた。 ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。 明かさられる一族の秘密。 御所さまなる存在。 猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。 ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も! でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。 白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。 ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。 和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。 メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!? 少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。

下出部町内漫遊記

月芝
児童書・童話
小学校の卒業式の前日に交通事故にあった鈴山海夕。 ケガはなかったものの、念のために検査入院をすることになるも、まさかのマシントラブルにて延長が確定してしまう。 「せめて卒業式には行かせて」と懇願するも、ダメだった。 そのせいで卒業式とお別れの会に参加できなかった。 あんなに練習したのに……。 意気消沈にて三日遅れで、学校に卒業証書を貰いに行ったら、そこでトンデモナイ事態に見舞われてしまう。 迷宮と化した校内に閉じ込められちゃった! あらわれた座敷童みたいな女の子から、いきなり勝負を挑まれ困惑する海夕。 じつは地元にある咲耶神社の神座を巡り、祭神と七葉と名乗る七体の妖たちとの争いが勃発。 それに海夕は巻き込まれてしまったのだ。 ただのとばっちりかとおもいきや、さにあらず。 ばっちり因果関係があったもので、海夕は七番勝負に臨むことになっちゃったもので、さぁたいへん! 七変化する町を駆け回っては、摩訶不思議な大冒険を繰り広げる。 奇妙奇天烈なご町内漫遊記、ここに開幕です。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

処理中です...