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277 地の底にて
しおりを挟む頭上にある砂の海とちがい、日中でもあまり気温があがらない地底世界。
かといって夜になっても、それほど下がりもしない。
漠然とした時間の経過は、薄光の強弱によって把握できる。とはいえわかるのはせいぜい、日の出と日の入りぐらいだけれども。
それでもあまり内部が暗く感じないのは、あちこちに点在している砂の滝から差し込む陽光と、これを受けてキラキラとかがやく黄金色の山のおかげ。
陽が暮れるとこれらもかがやきを失うので、その分だけ地下世界の光量は減る。そうしたら地上では夜になったという証。
ここは灼熱地獄ではないので、日中でも活動可能。
ただひさしく夜型の生活をしていたので、リズムをもどすのに少々手間取るかも。
「それにしても、ここって何なんだろうねえ」
キョロキョロしつつ、歩きながらクルセラがつぶやく。
「自然に出来た空洞……、とはとてもおもえんな」
足下の感触を確かめながら、そう口にしたのはシュプーゲル。
彼の言う通り、地面は平らにならされてある。まるで石畳の床みたいに。
とても自然の産物とは信じられない。
なによりこの場所を支えているであろう柱の存在が、シュプーゲルの意見を肯定していました。
太い……、いや、太いという表現そのものがバカバカしくなるほどの巨大な円柱。
一切のつなぎ目すらも見当たらない、どうやってこしらえたのかもまるで想像がつかない、そんなシロモノがほぼ等間隔にて整然と配置されており、天井を支えている。
「これまでボクはあちこちを旅してきて、いろんなふしぎなモノを見てきた。なかには正体不明のモノもたくさんあったよ。ここもまちがいなくそれら寄りの場所だとおもう」
天の国の御使いの勇者として、地の国を旅してきた水色オオカミ。
地の国は六人の女神さまたちのオモチャ箱。
真っ当なところもあれば、そうじゃないところも混在している。そのせいで生き物たちの種類も雑多。また同じケモノであっても、地域によってはあり様がまるでちがう。
だから深く考えるだけムダ。ここはそういう所なのだと受け入れるしかない。
「そっか、ルクが言うんならきっとそうなんだろうな。まぁ、わからないことは考えてもしょうがないしね」とクルセラ。
「あぁ、それよりも進路に際して、砂山の近くは極力避けるべきだとオレはおもう」とはシュプーゲル。彼によれば自分たち同様に砂の海から流砂にのまれて落ちてきた存在が、他にもいるかもということ。
砂の海に生息するのは砂甲虫(さこうちゅう)。砂の領域拡大にともなって爆発的に増えている連中につき、なかにはどんくさい個体がいてもおかしくない。
そしてここでは砂は上から落ちてくるものがほとんど。となれば砂の中の何かを食べていきている砂食生物たる彼らにとって、地下世界の砂山や滝のたもとは絶好のエサ場となる。縄張りにしている可能性が高い。それどころか熾烈な競争をくり広げているかも。
シュプーゲルの意見を受けて一行は、やや遠回りになりながらも、砂山を避けて慎重に進むことにしました。
しばらく進んだ先にて、ルクたちは彼の危惧が的中する光景を目の当たりにします。
砂山をめぐって対立している砂甲虫たち。
十匹以上もの巨大生物たちが、取っ組み合いのケンカをしている。
ムカデのような長いカラダを互いにからませ、まるでヒモをより合わせて綱にするみたいにし、ギチギチと相手を締めあげようとしていたり、首すじ付近にかみついてはノド笛を喰い千切ろうとしていたり、振り上げた尾の一撃をみまったり、甲殻で包まれたカラダ同士をガツンガツンとぶつけあったりと、とにかくはげしい戦いぶり。
砂の海とはちがい、ここではエサ場がかぎられる。
甘ちょろい考えでは生き残れない。だからこそ彼らも必死。
「うわー、おっかない。うっかり子育て中の巣に足を踏み入れても、あそこまでははげしくなかったよ」
「群れることが多い連中だが、ああなるってことは、やはり内情は苦しいのだろう」
「そうみたいだね。シュプーゲルの言葉に従って正解だったよ。もしもあのまま落ちた砂山付近でグズグズしていたら、ボクたちもこれに巻き込まれていたのかも」
大乱闘を想像し、おもわずブルルと身をふるわせた三頭。そのひょうしにカラダについた砂ぼこりが、散ってパラパラかすかに音を立てる。
彼らは暴れる砂甲虫たちを刺激しないように、そろりそろりとその場を離れました。
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