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257 翡翠のオオカミ対黒まだらオオカミ
しおりを挟む黒まだらオオカミへと迫った九つの緑氷の剣。
うち五本はガロンが放った影の槍にて弾かれました。
ですがのこり四本は間隙をぬって、懐に飛び込む。
これを待ちかまえていたのは、ガロンの前面に展開されたまるい影の盾。
切っ先がふれたとたんに、飛んできた刃をすべてのみ込んでしまいました。
敵に向かい駆けていた翡翠(ひすい)のオオカミ。
周囲に殺気がふくれあがる。
いち早くこれをさっしたラナ、すかさず右へとその身をはねた。
直後に上空より出現した黒い穴から突き出た緑氷の切っ先が、さきほどまで彼女がいた場所を貫く。
穴のように見えたのはガロンの産み出した影。
空間を自在に行き来できる彼のチカラを用いた攻撃。
影を経て、足下や頭上から次々と姿をあらわす刃を、ジグザグに動いてかわしきったラナ。勢いもそのままに口にくわえた緑氷の剣にて、ガロンへと斬りかかる。
ガロンもまた口にくわえた漆黒の剣にて、これを迎え撃つ。
正面から交わる両者の剣。
剣身が弧を描いては、三合ばかしはげしく打ち合った後に、つばぜり合いに。
拮抗するチカラとチカラ。
が、ここでわずかながらにラナは体勢を崩されてしまう。
その力場の変化を発生させたのはガロンの剣の形状。ラナの持つ剣の形状は真っ直ぐなモノなのに対して、ガロンの持つ剣はやや外側に反りがはいっており、まるで凍った坂道を滑るかのようにして、緑氷の剣に込めたチカラがそらされてしまった。
翡翠のオオカミは勢いあまってつんのめり、重心が狂う。
ほんのわずかな隙。いや、ふつうであれば隙とも呼べないほどのモノ。
しかしガロンはそれを見逃さない。
ラナの動きにあわせるようにして、自分の軸をズラし、するりと相手の側面へと回り込むと、逆手に切り上げるかのようにしてふるわれた瞬足の一刀。
狙うは首筋。
すんでで身をひねってかわした翡翠のオオカミ。
なんとか致命傷は避けたものの、鋭い傷口からぷつぷつと血がわいて、胸元の毛を赤く染めた。
だがラナもやられっ放しではない。
かわすさいに大胆にもカラダ全体をおおきくひねって横回転をし、すくいあげるかのようにして放った斬撃にて、ガロンのアゴ下から右頬へかけてザックリと切り裂く。
互いに一刀を受けたラナとガロンは、パッと飛び退り距離をとりました。
剣技による接近戦は、ほぼ互角。
ならばと次なる水色オオカミのチカラを先にふるったのはガロン。
小さな水溜まりのような影をいくつも出現させると、周囲にこれを散開。
そのすべてから一斉に飛び出してきたのは、先端が槍の穂先のようになった影の触手。
これが翡翠のオオカミのカラダを串刺しにせんと、次々に迫る。
一本一本がまるで生きているかのように、自在にうねってはヘビのように襲いかかる。
石の床をもたやすくえぐり貫く破壊力を持つ、嵐のごとき怒涛の攻め。
なまじ受けるのは危険と判断したラナは、剣を納めると避けることに専念する。
翡翠のオオカミが黒刃の雨の中を駆け抜ける。
鍛えあげられた足が、研ぎ澄まされたその感覚が、磨きあげられた武技が、これまでに練りあげたそのすべてが、回避という一点にこめられたとき、ラナは緑の風と化す。
当たらない。ガロンの放つ攻撃がことごとくかわされるばかり。
どんなに強力な攻撃とて当たらなければ意味がないと、あざ笑うかのようにラナは足を動かしつづけ、反撃の機会をうかがう。
はげしい攻防。
いっしゅんでも気を抜いたら命取りになりかねない状況にて、水面下で次の一手をくり出し、均衡を破ったのはまたしてもガロン。
狩りの定石。
それは獲物をやみくもに追いかけ回すのではなくて、より狩りやすい場所へと誘い込むこと。
狩人は黒まだらオオカミのガロン。
そして狙われたのは翡翠のオオカミのラナ。
ワナはとっくに設置されてあったのです。それもいたるところに。
グニャリとした足下の異様な感覚にラナが気づいたときには、すでに手遅れでした。
ほんのわずかながらも、右の前足が沈みこんでいたのは水溜まりのような影の中。
影をあやつり空間にも関与するガロンのチカラ。それを用いたワナ。落とし穴とはとても呼べやしない、少しだけ掘り下げた程度のクボ溜りのようなモノ。
たったそれだけのモノが緑の風の流れを止めてしまう。
それとて時間にすればまばたきする程度。
でもガロンにはそれだけで十分でした。
狩人の放った漆黒の凶刃が獲物のカラダを刺し貫き、血煙が舞う。
あたりに死を予感させる濃厚なニオイが立ち込める。
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