水色オオカミのルク

月芝

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251 ドラゴン対岩の巨人兵

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 空に血飛沫があがり、ハラりと落ちたのは千切れた眼帯。
 ティアの槍をとっさに身をひねってかわせたのは、たまたま。
 ですが完全にはかわしきれずに、穂先はコークスの顔から胸へとかけて、ざっくりと切り裂きました。それだけでなくコークスのお腹には深い爪あとが。これは通り抜けざまにグリフォンが放った前足のカギ爪による一撃。
 槍をよけたがゆえに、そちらをモロにくらってしまって、傷口より血がドクドクとあふれている。

「おのれ!」

 眼下にいるルシエルとティアをにらみつけるコークス。
 眼帯が外れてあらわとなった右目。
 そこにあったのは紅い宝玉。これは白銀の魔女王が得意とする呪を用いた魔法が込められたモノ。

「こうなってはいたしかたない。出し惜しみはナシだ。我が右目をさらしたことを後悔するがいい」

 怒気まじりにコークスが叫ぶ。
 そのひょうしに彼の右目の紅い宝玉が火をふきました。
 轟々と燃え盛る炎が全身をつつみこみ、大ツバメが炎のトリへと姿をかえる。
 それに合わせかのように、空一面が赤く染まりました。
 一帯に展開されていたツバメの軍勢たち、そのすべてが同様に炎をまとったのです。

「やれ」

 コークスの号令一下。
 火のツバメたちがグリフォンへと殺到。それらが次々に爆発。
 特攻による自爆攻撃。
 狂気の炎と破壊の渦が空をおおい尽くし、ルシエルとティアをのみ込みました。



 浮島の上空が急に朝焼けのように赤くなったころ。
 湖から姿をあらわした岩の巨人兵と対峙していたのは、ドラゴンの三人娘。
 ドラゴンすらをもひと掴みにできるほどの巨体。
 山が動いているかのような圧倒的質量。だがそれゆえに動きはゆっくりとしており、のばされた手をなんなくかわしてみせるドラゴンたち。

「どらぁ!」

 自分よりもずっと巨大な相手にもひるむことなく、赤サビ色のドラゴンのフレイアがカラダを回転させて、尾の一撃を放つ。
 のばしきった二の腕にコレを喰らう巨人兵。
 とたんに腕の表面におおきな亀裂が走る。

「なんだぁ、コイツ。デカいだけでモロいぞ」

 フレイアにつづいて黒いドラゴンのレプラも足下に攻撃を加える。
 するとそちらもはげしく傷つきました。
 ヒザの辺りに攻撃を受けてかたむく巨体。
 淡い春色をしたドラゴンのラフィールが湖を利用して魔法にて造り出した水の銛。それを胸元に叩きつけると、巨人兵はまともに正面から受けて串刺しとなり、衝撃にてそこから全身に亀裂が入り、ついにはガラガラと崩れてしまいました。

「なんだいこりゃあ。とんだ見かけ倒しじゃないか」

 芝居小屋の張りぼてのような相手に、あきれ顔のフレイア。
 あまりにも弱すぎる。これにはレプラとラフィールもおもわず苦笑い。
 ですが、そんな表情はすぐに消し飛びました。
 倒した相手がふたたび動き出したからです。
 崩れたカラダが次々とくっついて、元通りになるまでさほど時間はかかりませんでした。

「そうこなっくちゃね。何度でもよみがえるがいい。何度でもぶっとばしてやるよ」

 威勢よく巨人の横っ面を蹴りとばした赤サビ色のドラゴン。
 頭部に受けた攻撃によりグラリと巨体がゆれる。
 が、倒れない。
 それどころか表面にはヒビこそ入っているものの、亀裂にまではいたっていない。フレイアは先ほどと同じくらいのチカラを込めていたというのに。
 レプラも巨人の周囲を飛びまわりながら、的確に関節などの急所に攻撃を入れていく。
 それでもやはり倒れず踏みとどまっている。
 これを見てラフィールが「まさか」と警戒感をあらわにしました。

「ひょっとして先ほどよりもカラダが丈夫なっているの? だとしたら……、いけない! フレイア、レプラ、いったん下がりなさい」

 ラフィールの声に反応して急旋回し、すかさず敵より距離をとったフレイアとレプラ。
 上空にて合流したドラゴン三人娘。
 中途半端な攻撃はかえって相手を強くするという推測を姫さまから聞かされ、おおいに頭を悩ませることに。

「最大のブレスで消し飛ばせばいいんじゃないのか」

 フレイアのこの意見はレプラに却下されました。
 カケラも残さずに消し飛ばすにはあまりに的がおおきすぎる。それで復活されたら完全に手がつけられなくなってしまいますから。

「この手のお約束としては、カラダのどこかに核となる部分があるものなのですが……」

 そうは言ったものの、チラリと巨人を見つめたレプラはタメ息をこぼしました。
 山をいくつもくっつけたかのような岩の塊。あの中からソレっぽいものだけを探し出すことが、あまりにも困難であったからです。
 しかも砕いたはしから復活するので、のんびりと探している時間もありません。もしも他の岩と同じような色形だったら、もうお手上げです。
 フレイアとレプラがやいやいと巨人を退治する方法を相談しているのを横目に、ずっと思案顔であったラフィール。
 ポンと手をたたき、こう言いました。

「よし、倒せないのならば、あきらめちゃいましょう」

 いきなり敵を放置すると言われて、おどろくレプラとフレイア。
 そんな仲間たちにラフィールは、茶目っ気たっぷりのウインクをして、こうも言いました。

「ただし見逃すわけではありませんよ。あんなのにうろつかれたらジャマですから。さいわいにもこの浮島はいま海上にあります。これを利用しましょう」と。

 言葉の意味がわからず、そろって首をかしげる黒いドラゴンと赤サビ色のドラゴン。
 ドラゴン三人娘が長い首の上にある頭を寄せて、なにやらごにょごにょ。
 悪だくみを終えたラフィールとレプラとフレイアは、さっそく散開して各々の役割を果たすべく動きだしました。


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