水色オオカミのルク

月芝

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 ルクたち一行が目指すべき浮島は、絶海の空の上にありました。
 浮島は周囲の景色にとけ込むかのようにしてにじんで消えたとおもったら、しばらくすると少し離れたところに姿をあらわす。これをくり返しては空を移動している。
 すぐにでも突撃したいところですが、やっかいなことにこの消えたりあらわれたりするのが、結界の役割を果たしているらしく、内部に侵入できません。
 これにジレた赤サビ色のドラゴンのフレイア。

「ここまで来たんだ。私のブレスでこんな結界、吹き飛ばしてやるよ」などと威勢のいいことを口しましたが、それはレプラに止められました。

「あいかわらずの単細胞ぶりだな。ムリをして反動で結界内にも被害がおよんだら、ティー殿の身にも危険がおよぶだろうが」

 人質を助けにきて、その人質を危い目にさらしては元も子もないと言われては反論の余地もなく、フレイアは「ぐぬぬ」とくやしがるばかり。
 するとラフィールの背にいた野ウサギのフィオが「ちょっと待って」と首からさげた小袋の中に手を突っ込んで、一枚の紙を取り出しました。

「それは?」

 ルクがたずねると、この紙はエライザさまに渡されたメモ書きだとフィオは答えました。

「困ったことがあったら読むようにって……、えーと、なになに。あっ! なるほど、コレを使えばいいのか」

 さらに小袋に手を突っ込んでフィオがとりだしたのは黄色い玉。
 見た目はおもちゃの玉のようですけれども、これでも立派な魔道具。

「ラフィールさん、あの島の上に移動して下さい」

 フィオの言葉に従って、浮島の上空へと向かう春色のドラゴン。
 ちょうど真下に浮島が見えるところにまで来たところで、「えいっ」とフィオが黄色い玉を投げました。
 小さな玉がどんどん落ちていって、そのまま浮島全体をおおう結界にコツンと当たる。
 とたんに結界中に細かいヒビが入って、パリンと砕け散り、あらわとなる白銀の魔女王の牙城。
 これには一同、全員が目をむいて、たいそうおどろき、たいそう感心しました。
 ですがあんまりのんびりとはしていられません。
 なにせ派手に壊してしまったものですから、じきに侵入者を迎撃しようと敵が押し寄せてくるのは明白ですから。

「よし! ではあとは手ハズ通りに」

 島へと乗り込んだ一行は、翡翠(ひすい)のオオカミのラナの合図で二手に分かれました。
 ドラゴン三人娘とグリフォン夫妻が、その機動力と戦力を活かし、城外にて派手に暴れて敵の注意を引きつける陽動組。
 ラナとルクの師弟コンビにフィオとタピカの野ウサギ兄弟、からくり人形のガァルディアらはティーの救出のために城内へとふみ込む突入組。
 森を抜けて、ルクたちが城へと無事に潜入を果たすのと時を前後して、陽動組と迎撃部隊との戦いがはじまろうとしていました。



 結界が破られたことに気がつき、いち早く外へと飛び出してきたのは一羽のツバメ。
 かぎりなく漆黒に近い夜の藍色をしており、そのカラダはとても大きく、グリフォンぐらいもあります。
 ですがなによりも奇妙であったのが、首から上の部分。
 そこにあったのはクチバシを持つトリの頭ではなくて、眼帯をはめた人間のモノ。
 これこそが白銀の魔女王のいちばんの側近である、コークスの正体であったのです。

「おのれ! グリフォン。ここをレクトラムさまの所領と知っての狼藉か」
「もとより承知のうえだ。いままでの借り、まとめて返させてもらうから覚悟せよ」

 グリフォンのルシエルの物言いから、彼が本気だとさとったコークスはすぐに行動にうつりました。
 自身の両翼をバサリとおおきく広げる。
 漆黒の闇の世界に通じているかのような黒さがそこにはありました。
 闇の中から次々とわいては飛び出してくるのは、ツバメたち。
 コークスの羽が変じた分体にて、鋭い羽先はふれた相手を切り刻む。
 そんなツバメたちがたちまちのうちにふえて、大軍勢となり、ぐるりとグリフォンとその背にまたがる女性を包囲してしまいました。

「ティア、ふり落とされるなよ」ルシエルが言えば、「しっかりとヒモで鞍とカラダを結んでありますので。どうぞご存分に」とティアは答え、自身は手にした槍をかまえて勇ましい。彼女は生粋のお姫さま育ちながらも、厳格な母の教育方針にて武芸についてもしっかり仕込まれているので、その辺の騎士が束になっても適わないほどの強者であったのです。
 そんな頼もしい妻の姿にルシエルがニヤリと笑みを浮かべ、すぐさま敵勢へと向かって突っ込んで行きました。

 一方そのころ。
 ドラゴン三人娘たちのまえに姿をあらわしていたのは、赤い髪をした紫眼のミラ。
 ですがミラは侵入者たちをひと目みるなり、シッポをまいて逃げ出しました。
 相手がドラゴン、それもどれもヤバそうな雰囲気にて、勝ち目がないとの判断。
 あまりの見事な逃げっぷりに、ラフィールたちがあっけにとられたほど。
 と、その隙にミラが向かったのは湖。
 ここには浮島の防衛の一角を担う存在が眠っており、それを彼女は起こしに走っていたのです。

「じょうだんじゃない! あんなバケモノどもの相手なんてやってられないよ。バケモノの相手はバケモノにまかせた」

 湖の畔にあった小さな神殿。
 その内部に設置されてある石版のまえにて、息を乱しながらもミラが操作をするなり、湖の底から突きだされたのはゴツゴツした太い腕。
 つづいて姿をあらわしたのは、積み木のように岩をつなぎあわせて造られた巨人兵の上半身でした。


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