水色オオカミのルク

月芝

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217 出動! 森の便利屋さんパート2

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「おかしい……」

 ぼそりとつぶやいたのは野ウサギのティー。
 とある森に住む三兄妹の末っ子。かつては熱病で生死の境をさまようも、西の森の魔女エライザのクスリによって元気をとりもどし、いまでは仲間たちとともに森の便利屋として、いそがしい毎日をおくっていたのですけれども。
 この頃、二人の兄の様子がおかしい。
 物陰でやたらとヒソヒソ、コソコソ。それでこちらの姿を見ればピタリと会話をやめて、わざとらしく素知らぬ風をよそおう。
 野ウサギとしてはやや大柄ながらも、いろいろと抜けているところのある次兄のタピカを問い詰めると、バカ正直なほどに目が泳ぐ。でも口を割ることなく逃げ出してしまう。
 ならばと、しっかり者でおちついている長兄のフィオが相手となると、逆になんのかんのとやり込められてしまい、いつも煙にまかれてしまう。

「まぁ、連中も年頃じゃし、いろいろとあるのだろう」

 ティーのつぶやきを耳にして、そう言ったのはおかっぱ頭のかわいらしい女の子。
 だがその正体は、からくり王の異名を持っていた古代バロニア王国の初代クラフト王が残した最高傑作のうちの一体。愛くるしい見た目に反して、巨大なオノをぶんぶんとふりまわす剛力無双をほこるからくり人形。

「そうですわ。男には男の世界があるのです。男とは身勝手な生き物。そして泣かされるのは、いつも女ばかり」

 なんとも芝居がかった台詞にて会話に入ってきたのは、アライグマのエスタロッサ。
 この近辺に住むアライグマたちは、だいたいが名前から仕草や話し方などまで、いちいち芝居がかっています。原因は親の親の親ぐらいの世代が人間たちのお芝居に夢中になり、かぶれてしまったから。先祖の業が子や孫へと受け継がれて、いまではすっかり定着しています。
 いろいろあって、押しかけ女房みたいな形にて森の便利屋の仲間入りをはたした彼女。
 その美貌はアライグマ界隈では知らぬ者なしにて、その界隈ではモテモテ。近頃では請われるままに、悩める森の乙女たちの恋愛相談なんぞを受けており、わりと好評。

「いや、それならそれでべつにいいんだけど。なーんか、ちがうんだよねえ」

 ガァルディアとエスタロッサの言葉を聞いても、どこかしゃくぜんとしない表情のティー。
 気になりだすと、よけいに目につくようになってしまう。
 おかげでつのるのはイライラばかり。
 なんともいえないモヤモヤを抱えたまま数日が過ぎていきました。

 その日は、依頼が二つ重なり、チカラ仕事のほうをガァルディアに頼んで、もう一方の細々とした方をティーとエスタロッサで片づけることに。
 キツネのタウじいちゃんに頼まれたのは、貯蔵庫と帳簿の整理。
 洞穴の中にある貯蔵庫は森のみんなで共同管理している場所。年中ひんやりとしており、食べ物がとっても長持ちする。ここはだれでもルールさえ守れば自由に使えるかわりに、モノの出入りが多いので放っておくと、すぐに中がごちゃごちゃに。
 ティーが帳簿とにらめっこしながら、エスタロッサが棚に納められてある品をひとつひとつ手にとり確認していく。傷んでいるモノや、そろそろ怪しいモノなどを書き出しまとめる。これはあとで持ち主に連絡をして処分してもらうため。

 おもったよりも早く仕事が終わったので帰ろうとしたら、見かけたのはタピカ。
 なにやら周囲を気にするそぶりにて、コソコソと森の小道をいく次兄のうしろ姿をいぶかしんだ末妹。

「タピカ兄ちゃん、あんなところで何やってるんだろう」
「たしかにキョロキョロと挙動不審ですわね。これは怪しいですわ。というわけで行きますわよ、ティー」
「ちょ、ちょっとまってよ、エスタロッサ。行くってどこへ?」
「決まっていますわ。あとをつけて現場をおさえるのです。それで万事解決ですわ」
「えぇーっ!」

 まるでおもしろいモノでも見つけたとばかりに、いつになくノリノリなエスタロッサ。
 彼女に手を引かれる格好にて、次兄の尾行をするハメになったティー。



 ふいに道をそれて、しげみの中へとわけいったタピカ。
 奥にてガサゴソとしていたとおもったら、じきに姿をあらわして、その手にはやや膨らんだ袋。

「野いちごでも採ってきたのかな?」
「あそこは日当たりがいまいちっぽいですから、キノコかもしれません」

 後方の物陰より、様子をうかがっていたティーとエスタロッサが、こそこそと小声で話しているうちに、ふたたび道を歩き出した尾行対象。
 野ウサギとしては大柄なカラダをしているタピカ。歩幅もあるのでなかなか足が速い。
 おかげでこっそりとあとをつける方は、けっこうな小走りにて、木陰から木陰の間をタタタと渡りつつ、身をひそめながらちょこちょことついて行くのがたいへん。
 方角からして森の奥へと向かっているようですけれども。次兄はどこへ行くつもりなのでしょうか?
 ちょいちょい道をそれては、そのたびに膨らんでいく袋。

「たんに食べ物を集めているだけのような気がしてきたんだけど」

 尾行に飽きてきたティー。ふわぁ、と大アクビ。
 すると「しっ」といきなり口もとをおさえられて、エスタロッサに木陰へと引きずりこまれました。


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