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216 軌跡
しおりを挟むダスコールの武芸大会はドラゴンラバーの優勝。
決勝の最終戦? サクッと終わりましたよ。
弓士のピピンが途中で棄権しましたので。
最終戦、女戦士フレイアをまえにして、ピピンが矢を放つこと三度。
なにせ相手は強敵につき半端なチカラで射たところで攻撃は通りそうにない。
だから大会側から渡された弓を限界ギリギリにて扱っていたのですが、プツンと弦が切れてしまいました。
これではいかに名人達人どころか、伝説級の腕前を持つ弓士であっても、どうしようもありません。
こうして終わってみれば先鋒戦が一番盛り上がるという、なんとも締まらない結果に。
ちゃんと戦えたレプラとシュウ以外は、観客も含めて全員が消化不良にて、どうにもスッキリしない表情。会場全体にもシラけた空気が漂う。
そんな中で空気を読まない勇者シュウが、いつになくキリリと凛々しい顔をしてラフィールの前に立つ
「ひと目見たときからあなたに心惹かれていました。どうかオレと結婚を前提におつきあい下さい」
衆人環視の中、いきなりの大胆な告白。
これにはすっかり盛り下がっていた観客たちも、目をむき沸きに沸く。
もっともキャアキャアとよろこんでいるのは女性陣ばかりで、男性陣からは怨嗟と怒号が起こっていましたけれども。
突然のことに戸惑っているラフィール。
見かねてレプラが割って入ろうとしたところ、「ちょっと待ったぁ!」とさらなる乱入者があらわれました。それも二人。
「……大地に咲く可憐な花。どうかその御身を生涯そばで守らせてほしい」
キザな台詞を臆面もなく口にしたのは弓士のピピン。
「ぜひ我が妃になって、いっしょに領地を盛り立てていってほしい」
そう言ったのはジャナン・ダスコール。ここの領主の息子にして跡継ぎ。ずっと貴賓席から舞台上に立つラフィールへと熱烈な声援を送っていた青年です。
三人の男より差し出された手。
はたして彼女はどの手をとるのか?
固唾をのんで見守る観客たち。
しばしの沈黙ののちに、ペコリと頭を下げたラフィール。
「あの、ごめんなさい。わたし婚約者がいるんです」
そろってフラれた三人は、その場でガックシと膝をつく。
そして観客席の男どもからも、野太い悲痛な声があがりました。
抜け駆けしやがって、ざまぁみろ。といった感情とラフィールに意中の相手がいたことに対する絶望です。
これに心底あきれた顔をしていたのはレプラと、客席にいた神官のエリエール。
フレイアは肩をふるわして、くつくつ笑いながら、「おまえは告らなくていいのか」と、いつの間にか事情聴取がすみ、しれっと戻ってきていたガントンを茶化す。
「オレはえんりょしとく。たしかに美人だけど好みじゃない」
「そういえば、あんたはちっこいのがスキだったよね」
「おまえなぁ……、まぎらわしい言い方をするんじゃねえよ。あっ! ひょっとして嬢ちゃんたちがオレを目の敵にしていたのって、おまえのせいじゃないのか? 言っておくがオレがスキなのは、あくまで『小さくて守ってあげたくなるような女』なのであって、断じて幼女じゃねえ!」
「へいへい、まぁ、そういうことにしておいてやるよ」
ひらひら手をふって適当に受け流すフレイアの態度に、苦虫をかみつぶしたような顔をするガントン。
おもいかえせば最初から最後まで、女性にふりまわされていたような気がする今回の武芸大会。
会場にいた男どもを、なで切りするかのごとくバッサリとした美姫の無双伝説を残し、幕を閉じました。
ですがおおいなる実りはあったのです。
期せずしてドラゴンと勇者たちとの奇縁を結びつけただけでなく、さらには両者をつなぐ水色オオカミの子どもの存在があることが、大会後の打ち上げの席にて判明。
共通の友人を持つ彼らの縁(えにし)は、より強固な結びつきへとなっていくのです。
水色オオカミのルクが出会った者たち。
点と点がドンドンとつながっていく。
そのつながりこそが天の国の御使いの勇者として、地の国を旅してきたルクの軌跡。
やがてそれは大きな大きな、とっても大きな輪となる。
全貌が明らかになったとき、はたしてどのようなできごとが待っているのでしょうか。
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