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200 ペームトでの生活
しおりを挟む職人たちの生活は朝から晩までとってもにぎやか。
朝と夕の食事は大きなテーブルにてみんなでいっしょにとるので、食卓がこれまたにぎやか。
昼は昼で工房にて威勢のいい声と、カンカントントン、ノミや木槌の小気味よい音が鳴る。
おかげで静かなのは、ぐっすりと寝ている夜ぐらい。
それにみんな豪胆なのか、おおらかな性格なのか、あっというまにしゃべる水色オオカミの存在を受け入れてしまいました。
いくら神官さんから街中に通達があったとはいえ、なかなかできることではありません。それだけエリオットさんが住民たちから信頼されているということなのでしょう。
職人たちが出払ったあと、姉弟たちはリオーネさんに連れられて教会の敷地内にある学校へと向かう。
ここでは街の子どもたちならば、だれもが無料で文字の読み書きや計算なんかを教わることができる。
また同世代の子らがたくさん通っているので、すぐに友だちもでき、ココットとナタルの二人が街に馴染むのに、ひと役もふた役もかってくれました。
ペームトではみんな笑顔、笑い声が絶えることなく、大人たちはおだやかに、子どもたちは健やかにのびのびとすごしている。
とても住み良い街。
でも少しばかりヘンなこともあります。
たとえば人形の森での風習。
この街では子どもが生まれると、記念してその子を模した人形が作られる。その目的は厄除け。降りかかる厄災や病気、不運などをかわりに引き受けてもらう。いわば身代わりです。
子どもの成長に合わせて、人形はそのつど作りなおし、古くなった品をあのようにクサリでぶら下げる。
だれが始めたのかはナゾ。由来も不明ながら、縁起物としてずっと守られてきたしきたり。
なおココットとナタルの小さな姉弟たちが、あの森を抜けてきたと聞いて、大人たちはたいそうおどろいていました。
だって、いかに街の風習とはいえ、お世辞にも雰囲気のいい場所ではありませんので。
それに道ならば森を迂回するようにして、ちゃんとべつに通されてあったんだとか。ふつうはそちらを通って街へとやってくると聞かされて、これには姉弟たちの方が「えー」とおどろいた声をあげていましたけれども。
晴れてこの街の住人となったからには、ココットとナタルのための人形も作らないと。そう言い出したのはリオーネさん。
なにかといっしょにいる機会が多いせいか、二人も彼女にいちばん懐いており、いまではほんとうの姉のようにしたっているココット。ナタルはどちらかというとお母さんに近い甘えかたかな。
二人の姿身人形は、アンプ親方が腕によりをかけてこさえてやるとはりきっており、この分だと森に放置するにはもったいないような力作が仕上がるにちがいありません。
おかしなことといえば、他にもあります。
それは夜のこと。
一日仕事をがんばったあとの夜ともなれば、酒場の灯りをもとめて、うろつく酔っ払いの一人や二人、いてもおかしくないというのに、この街にはそれがありません。
酒場はあるのですが、教会の九つの鐘が鳴ると同時にしまってしまう。
そして街の住人らは決まって十の鐘が鳴るころには、自分のベッドへともぐりこんで、スヤスヤと寝息をたてるのです。
朝がはやく、日中もなにかといそがしい職人さんたち。だから夜もはやく休んだところでなんらふしぎではありません。
ですが、それが街中のみんなともなれば、いささか話がかわってきます。
どうにも気になったルクがアンプさんやリオーネさんにたずねてみるも、彼らは小首をかしげるばかり。職人さんたちも似たり寄ったりの反応。
とくに疑問に感じることもなく、ごく当たり前の生活習慣として受け入れている。
そりゃあムダに夜更かしをしたり、夜遊びをするよりも、ずっとカラダにはいいですし、なんらわるいことではありません。
その土地にはその土地の暮らしがある。
せっかくうまく回っているというのに、余所者がズカズカと踏み込んで手前勝手の理屈にて荒らしていいような問題でもなさそうなので、ルクは「ここはそういう土地なのだろう」と納得して、みんなにならうことにしました。
ココットとナタルの姉弟たちがペームトの街に住み着いて、早や七日目。
そろそろ大丈夫かな、とルクが安心していた矢先のこと。
夜更けにそれは起こりました。
きっかけはささいなこと。
でもそこからまさか街の秘密へと踏み込むことになろうとは……。
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