155 / 286
155 愛の三本勝負
しおりを挟むガァルディアにむんずとえり首をつかまれた二匹のアライグマの青年たち。
エスタロッサという娘さんをめぐってポンポコと争う彼らを、剛力にものをいわせて鎮圧したからくり人形。
広げた両腕の先にて、洗いざらしのタオルのように、それぞれがぶら下げられています。
「横暴ではないか! 暴力反対」
「そうだそうだ、愛の決闘をじゃまするな!」
えり首をつかまれ持ち上げれてぷらんぷらんしながら、アンドリューとシリウスが抗議しますが、ガァルディアはツーンとムシ。
そんなからくり人形の足下では、ヨヨヨと泣きくずれているエスタロッサという名前のアライグマの娘さん。
「ああ、わたしのために三人が争いを……。どうしてわたしはただの野花に生まれてこなかったの? そうすればこんな悲劇なんて起こらなかったというのに。でもわたしはバラに生まれてしまった。みなを魅了してしまう、うつくしいバラに」
それはもう盛大に、めちゃくちゃ現状に酔っていました。
いつの間にかガァルディアまで勘定に入っているし。
これには野ウサギのティーも、自然とジト目になってしまいます。
アライグマたちのめんどうくささは、まえまえから知っていましたが、彼女はその中でも、とびっきりだったようです。
アンドリューとシリウス、そしてエスタロッサの三名を見比べて、ティーはこう思いました。「これならまだ男たちを相手にするほうがマシだ」と。
そこで彼ら相手に森の便利屋さんが提案したのは、「男だったらいさぎよく正々堂々、勝負で決着をつけよう」というもの。
ヒロインの愛を賭けて戦う。
そのシチュエーションがすっかり気に入った男たちは、すぐに飛びつきました。そして渦中の娘さんとしても、もちろん否はありません。なんといってもドラマ性がグンとましたのですもの。
こうして森の便利屋さん主催による「エスタロッサの愛、争奪戦三本勝負」の幕が開けたのです。
勝負一本目は、泉に浮かべた丸太のうえで行われる押しスモウ対決。
チカラだけでなくバランス感覚も重要。それに心理的駆け引きも。まさに心技体が試される競技。なお先に水に落ちたほうが負けです。
ぷかぷか浮かぶ丸太のうえで、がっつりと組み合うアンドリューとシリウス。
チカラはシリウス、だけどバランスはアンドリュー。
長らく硬直状態が続くことに。そんな二名に声援をおくるエスタロッサ。
「どっちもがんばってー」
その声に「この勝利をキミにささげる」「すべてはキミとの愛の未来のために」と、かっこよく応えたアンドリューとシリウス。
ですけれども、そのひょうしにクルンと丸太が回転して、両名そろって泉にドボン。
引き分けという結果に。
勝負二本目は、知力対決。
いくらかっこよくって体力があっても、頭の中があんぽんたんでは話になりません。
そこでガァルディア制作によるペーパーテストを実施。内容は森での一般常識やら、キノコの見分け方、その他くらしに役立つ豆知識など。
さすがに日頃から森にて生活しているので、スラスラと問題をといていくアンドリューとシリウス。よゆうにて答えをすべてうめていく。
ですが最後の最後に予想外のオチがまっていました。
テストを採点し終えたガァルディアが結果を発表します。
「アンドリュー、シリウス、双方ともにゼロ点」
これにはさすがに、その場に居合わせた全員がおどろきました。だってしっかりと問題を解いていたのですもの。
「どういうことだ。ボクはちゃんと問題をといたぞ」
「オレだってそうだ。自信があったんだぞ」
プンプンと怒るアライグマたち。
そんな彼らの眼前につきつけられたのは、彼らが提出したテストの解答用紙。
たしかに両名が言っているように、しっかりとした答案がされてある。
ただし自分の名前をかくところが、空欄になっていました……。
勝負三本目は狩り対決。
ここまで二勝二分けという結果につき、泣いても笑ってもこれにて決着がつきます。
妻をめとるとあらば、家族を養わなければいけません。そのためには必要な能力。いかに顔がよくてスラリと背が高く足が長かろうとも、心がキレイでわき目もふらずに自分だけに愛をそそいでくれようとも、腹が減ってはどうにもなりませんから。
愛も幸せな家庭も、すべては腹が満ちてこそ。
家族を飢えさせるような甲斐性なしなんて、まっぴらごめんです。
とはいえ、ただ狩りをするのではつまらない。
だってこれはエスタロッサへの愛を賭けた勝負なのだから。
そこでティーは「彼女が一番よろこぶモノ」とのお題をつけてみました。狩りというていをよそおったプレゼント合戦。
これにていっきに難易度が跳ねあがった試練。
男たちはガァルディアの合図とともに、いっせいに駆け出して森の奥へと消えていきました。
で、待てども待てどもなかなか帰ってきません。
よほど吟味に吟味をかさねているのでしょうけれども、待っているほうはとってもたいくつ。
だからティーは、近くの花畑にてお花をつんでは、花かんむりをこしらえて遊んでいました。
白い花を土台にして黄色と赤色の小さな花をあしらっていき、じきに立派な花かんむりが完成。
ひと仕事おえたティーの目に映ったのは、待ち人来たらずですっかりぼんやりと空を眺めていたアライグマのエスタロッサ。
なるほど、毛並みは繊細でやわらかそう。目はくりくりとしてかわいらしいし、鼻すじもほどよく通っている。ゆらゆらシッポや、ときおりヒョコヒョコ動く耳なんて、おもわず手がのびそうなほどに愛らしい。ああやってじっと座っている姿も絵になりますし、これなら男たちが夢中になるのもしかたがないかと納得。
そんなお姫さまの頭にティーは、そっと作ったばかりの花かんむりをのせてあげました。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
先祖返りの姫王子
春紫苑
児童書・童話
小国フェルドナレンに王族として生まれたトニトルスとミコーは、双子の兄妹であり、人と獣人の混血種族。
人で生まれたトニトルスは、先祖返りのため狼で生まれた妹のミコーをとても愛し、可愛がっていた。
平和に暮らしていたある日、国王夫妻が不慮の事故により他界。
トニトルスは王位を継承する準備に追われていたのだけれど、馬車での移動中に襲撃を受け――。
決死の逃亡劇は、二人を離れ離れにしてしまった。
命からがら逃げ延びた兄王子と、王宮に残され、兄の替え玉にされた妹姫が、互いのために必死で挑む国の奪還物語。
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版

昨日の敵は今日のパパ!
波湖 真
児童書・童話
アンジュは、途方に暮れていた。
画家のママは行方不明で、慣れない街に一人になってしまったのだ。
迷子になって助けてくれたのは騎士団のおじさんだった。
親切なおじさんに面倒を見てもらっているうちに、何故かこの国の公爵様の娘にされてしまった。
私、そんなの困ります!!
アンジュの気持ちを取り残したまま、公爵家に引き取られ、そこで会ったのは超不機嫌で冷たく、意地悪な人だったのだ。
家にも帰れず、公爵様には嫌われて、泣きたいのをグッと我慢する。
そう、画家のママが戻って来るまでは、ここで頑張るしかない!
アンジュは、なんとか公爵家で生きていけるのか?
どうせなら楽しく過ごしたい!
そんな元気でちゃっかりした女の子の物語が始まります。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる