水色オオカミのルク

月芝

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155 愛の三本勝負

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 ガァルディアにむんずとえり首をつかまれた二匹のアライグマの青年たち。
 エスタロッサという娘さんをめぐってポンポコと争う彼らを、剛力にものをいわせて鎮圧したからくり人形。
 広げた両腕の先にて、洗いざらしのタオルのように、それぞれがぶら下げられています。

「横暴ではないか! 暴力反対」
「そうだそうだ、愛の決闘をじゃまするな!」

 えり首をつかまれ持ち上げれてぷらんぷらんしながら、アンドリューとシリウスが抗議しますが、ガァルディアはツーンとムシ。
 そんなからくり人形の足下では、ヨヨヨと泣きくずれているエスタロッサという名前のアライグマの娘さん。

「ああ、わたしのために三人が争いを……。どうしてわたしはただの野花に生まれてこなかったの? そうすればこんな悲劇なんて起こらなかったというのに。でもわたしはバラに生まれてしまった。みなを魅了してしまう、うつくしいバラに」

 それはもう盛大に、めちゃくちゃ現状に酔っていました。
 いつの間にかガァルディアまで勘定に入っているし。
 これには野ウサギのティーも、自然とジト目になってしまいます。
 アライグマたちのめんどうくささは、まえまえから知っていましたが、彼女はその中でも、とびっきりだったようです。
 アンドリューとシリウス、そしてエスタロッサの三名を見比べて、ティーはこう思いました。「これならまだ男たちを相手にするほうがマシだ」と。
 そこで彼ら相手に森の便利屋さんが提案したのは、「男だったらいさぎよく正々堂々、勝負で決着をつけよう」というもの。
 ヒロインの愛を賭けて戦う。
 そのシチュエーションがすっかり気に入った男たちは、すぐに飛びつきました。そして渦中の娘さんとしても、もちろん否はありません。なんといってもドラマ性がグンとましたのですもの。

 こうして森の便利屋さん主催による「エスタロッサの愛、争奪戦三本勝負」の幕が開けたのです。
 勝負一本目は、泉に浮かべた丸太のうえで行われる押しスモウ対決。
 チカラだけでなくバランス感覚も重要。それに心理的駆け引きも。まさに心技体が試される競技。なお先に水に落ちたほうが負けです。
 ぷかぷか浮かぶ丸太のうえで、がっつりと組み合うアンドリューとシリウス。
 チカラはシリウス、だけどバランスはアンドリュー。
 長らく硬直状態が続くことに。そんな二名に声援をおくるエスタロッサ。

「どっちもがんばってー」

 その声に「この勝利をキミにささげる」「すべてはキミとの愛の未来のために」と、かっこよく応えたアンドリューとシリウス。
 ですけれども、そのひょうしにクルンと丸太が回転して、両名そろって泉にドボン。
 引き分けという結果に。

 勝負二本目は、知力対決。
 いくらかっこよくって体力があっても、頭の中があんぽんたんでは話になりません。
 そこでガァルディア制作によるペーパーテストを実施。内容は森での一般常識やら、キノコの見分け方、その他くらしに役立つ豆知識など。
 さすがに日頃から森にて生活しているので、スラスラと問題をといていくアンドリューとシリウス。よゆうにて答えをすべてうめていく。
 ですが最後の最後に予想外のオチがまっていました。
 テストを採点し終えたガァルディアが結果を発表します。

「アンドリュー、シリウス、双方ともにゼロ点」

 これにはさすがに、その場に居合わせた全員がおどろきました。だってしっかりと問題を解いていたのですもの。

「どういうことだ。ボクはちゃんと問題をといたぞ」
「オレだってそうだ。自信があったんだぞ」

 プンプンと怒るアライグマたち。
 そんな彼らの眼前につきつけられたのは、彼らが提出したテストの解答用紙。
 たしかに両名が言っているように、しっかりとした答案がされてある。
 ただし自分の名前をかくところが、空欄になっていました……。

 勝負三本目は狩り対決。
 ここまで二勝二分けという結果につき、泣いても笑ってもこれにて決着がつきます。
 妻をめとるとあらば、家族を養わなければいけません。そのためには必要な能力。いかに顔がよくてスラリと背が高く足が長かろうとも、心がキレイでわき目もふらずに自分だけに愛をそそいでくれようとも、腹が減ってはどうにもなりませんから。
 愛も幸せな家庭も、すべては腹が満ちてこそ。
 家族を飢えさせるような甲斐性なしなんて、まっぴらごめんです。
 とはいえ、ただ狩りをするのではつまらない。
 だってこれはエスタロッサへの愛を賭けた勝負なのだから。
 そこでティーは「彼女が一番よろこぶモノ」とのお題をつけてみました。狩りというていをよそおったプレゼント合戦。
 これにていっきに難易度が跳ねあがった試練。
 男たちはガァルディアの合図とともに、いっせいに駆け出して森の奥へと消えていきました。

 で、待てども待てどもなかなか帰ってきません。
 よほど吟味に吟味をかさねているのでしょうけれども、待っているほうはとってもたいくつ。
 だからティーは、近くの花畑にてお花をつんでは、花かんむりをこしらえて遊んでいました。
 白い花を土台にして黄色と赤色の小さな花をあしらっていき、じきに立派な花かんむりが完成。
 ひと仕事おえたティーの目に映ったのは、待ち人来たらずですっかりぼんやりと空を眺めていたアライグマのエスタロッサ。
 なるほど、毛並みは繊細でやわらかそう。目はくりくりとしてかわいらしいし、鼻すじもほどよく通っている。ゆらゆらシッポや、ときおりヒョコヒョコ動く耳なんて、おもわず手がのびそうなほどに愛らしい。ああやってじっと座っている姿も絵になりますし、これなら男たちが夢中になるのもしかたがないかと納得。
 そんなお姫さまの頭にティーは、そっと作ったばかりの花かんむりをのせてあげました。


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