136 / 286
136 祝賀会
しおりを挟む皇龍の城にある大広間。
そこにつめかけていたのは、とてもたくさんのドラゴンたち。くり広げられていたのは、飲めや歌えの大さわぎ。
第二姫ラフィールの石化がとけた祝賀会が開かれていたのです。
奥の上座にてどっしりとかまえて、手にした盃の中身を豪快に飲み干しては、「めでたい、めでたい」と言っていたのは、金色の大きなドラゴン。彼こそが現皇龍王。
そのとなりには細かい刺繍にて複雑な模様がほどこされた銀色のスカーフみたいな布にて、目元を隠している真紅のドラゴンの姿がありました。
彼女が王妃パランティア。至高の竜眼の持ち主にして、ウルルやラフィールのお母さんです。
王と王妃より一段下がったところにある席にいたのは、四男三女の子どもたち。
さらに下の段からは皇龍の一族に連なる者たちが、つらつらと並んで座っており、正面からみるとひな壇のよう。
みんなが喜色にて浮かれている会場。その中央に特設された台の上には、花に埋もれて横たわる水色オオカミの子どもの姿がありました。
ラフィールの精神世界から戻ったルクは、あれからずっと眠り続けていたのです。
だれかの心にじかにふれるというのは、それだけつかれるということ。
こんこんと丸二日も寝り続けていたルク。
時間の感覚がのんびりしており、気が長いはずのドラゴンたちが、これにじれて彼が目覚めるよりも先に、祝賀会を開いてしまったのです。それだけみんなラフィール姫の目覚めがうれしかったのでしょう。
とはいえ、奇跡をなした大恩人をほったらかして、その席に招待しないなんて皇龍の名がすたる。
そこで王さまは、こんな特別席を設けてまで、寝たままの水色オオカミの子どもを宴会へと、半ば強引にひっ張りだしたのですが……。
「あちきには、捧げられたあわれな供物にしかみえぬのじゃ」とは末妹のウルル。
酒を飲んでは陽気に歌って、台座の周りにてはしゃぎ、ずんどこ踊っているドラゴンたち。
幼女の目には、まるでもらった生贄(いけにえ)をよろこんではしゃいでいる姿にしか見えない。
「わたしには、お葬式にみえるわね」とはラフィール。
たくさんの色とりどりの花にうもれている水色オオカミ。
話だけを聞けばすてきにおもえる状況なのですが、実際に目にするとかなり印象がかわってくるから、とってもふしぎ。そなえられた花に囲まれるのと、咲き誇るお花畑にいるのとではぜんぜんちがう。
ひょっとして石像のときの自分もあんな風だったのかしらと、悩ましげな表情を浮かべていました。
「アレはないね」「しゅみがわるい」「いまだから言うけど、石化した我が子をまつるのもヘン」「まえまえから感覚がちょっとおかしいとは思ってた」「あの状況、オレなら気がついても寝たフリでとおすな」
他の子どもたちも、わりときびしいご意見。
「わたくしは反対したのです。せめてこちら側に置くべきだと言ったのに、それをあの人が」と王妃パランティア。
まさかの家族全員からの酷評に、父親の王さまガックシ。
すべてのドラゴンを従える、ドラゴンの中のドラゴン。そんな彼も家族相手ではかたなしです。
と、そんなタイミングで目を覚ましたルク。
なんだかにぎやかだなぁ、と目を開けたら、いきなりドラゴンたちが自分の周りでひょこひょこ踊っている姿が飛び込んできたものだから、すっかりキョトンとなってしまいました。
フレイアとレプラがいきなりケンカをはじめて、逃げた先の皇龍の城にてラフィールの石像にふれて、ラフィールの精神世界へ行ったとおもったら、いろいろあってバタンきゅう。で、起きたらこのありさま。
これをすぐさま理解できるほうがどうかしています。
自分が置かれている状況がわからずに、ポカーンとしている水色オオカミの子ども。
そんな彼のもとへと届いたのは、金色のドラゴンが発した威厳あふれる大音声。
それとともにみな口をつぐみ、さわぐのもやめて、会場内がしんと静まりかえりました。
王の言葉をさえぎるのは不敬に当たるからです。
「おぉ、ようやく目覚めたか! ワシはドラゴンたちの長、現皇龍王ロン・ユニコ・イギス・ホルンギャスパー・イグニット・ヴァンテイン・イーザル・シナート・アンスウェラー・ガルマラ・ドグマ・シルマリル・ギヌス。このたびは我が娘、ラフィールを救ってくれたこと、心より感謝する」
父親でありドラゴンの国の王さまでもあるお方からの、じきじきのお声がけ。
それはとてもとてもありがたくて、尊いものなのかもしれませんが、これを受けてまだ頭がぼんやりとしていたルクが発したのは、ただひと言。
「ながい」
これを耳にして「ぷっ」と最初に吹き出したのは、王さまのとなりにいた王妃さま。
続いて「ガハハ」と笑ったのはひな壇の末席にいた赤さび色のドラゴンのフレイア。つられてウルルやラフィールもくつくつ笑い出して、ついには皇龍一族がみな大笑い。そして会場中からもドッと笑いが起こって、そのまま宴会が再開されることに。
前々からみんな、やたらと長くてめんどうな名前だとはおもっていたのです。
ですが、さすがに王さまに面と向かってコレを口にする者はだれもいませんでした。それをあっさりとやってのけた小さな勇者の登場に、ドラゴンたちはやんやの拍手。
起きたルクのもとへと、さっそく向かうウルルやラフィール、フレイアたち。
そんな女性たちの姿を見ながら、金色のドラゴンがひとり「うぐぅ」と情けない声をこぼしたのを見て、王妃パランティアはコロコロと愉快そうな笑い声をあげずにはいられませんでした。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる