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134 目覚め
しおりを挟む「わたしが……、あの人を迎えにいく」
その言葉がくり返されるほどに、灰色の世界においてラフィールの存在感が、瞳に宿るかがやきが強まっていく。
それに呼応するかのようにして、地響きがおこり、水面には無数の波紋が起こって、ついには城壁そのものがゆれはじめて、ビキリビキリとそこかしこが音をたててくずれはじめました。
このままでは生き埋めになってしまうと、あわてた水色オオカミの子ども。
すぐさま暗い湖の中央にいたラフィールの体をかっさらって、自分の背中にのせると、「しっかりつかまってて」と言い、そのまま一気に出口へと向かって、風のように駆け出しました。
ラフィールをのせたルクが飛び出すのと同時に、黒い城塞はガラガラとくずれてしまいました。
でもそれだけではありません。
外に飛び出しみると、この高台を幾重にもとり囲んでいた、長く高い壁が次々とこわれていくではありませんか。
そして空を埋めつくしていた、どんより雲も次第にうすまり、散って、すき間から陽の光が差し込み、灰色の世界に色が満ちていく。
それはラフィール姫の心の変化をあらわしているかのよう。
ずっと閉じこもって、かなしみに暮れるばかりであった彼女が、その心が、上を向いて、いま前へと踏み出そうとしている。
でも、まだ何かが足りない。
大地はあいかわらず乾いたまま。すべてを涙にかえてしまったラフィールの心にも、体にも、もはやひとしずくの水も残ってはいなかったのです。
このままでは瓦礫だらけの荒廃した、つらい光景が広がるばかり。
水色オオカミの子どもが、「ワォーン」と遠吠えをひとつ。
すると霧のような細かい雨が降り始め、またたく間に空気が湿り気を帯びて、じょじょに大地がうるおいをとり戻していく。
「あたたかい……、なんてあたたかくて、やさしい雨なの」
ルクの背中からおりたラフィールが、両手を天へとかざし、全身でそのぬくもりを感じようとするかのようにして立つ。
彼女の足下から小さな芽がいくつも出て、草が生え、さざ波のようにドンドンとふえていく。
やや強い風が吹き、おもわず目を閉じたルク。
ふたたび彼が目を開けると、そこには一面の緑の世界が広がっていました。
ラフィールの灰色の世界が色をとり戻すのと、時を同じくして、石と化していた彼女のカラダにも変化がおきていました。
ぼんやりと石像にふれたまま動かなくなってしまった水色オオカミ。
心配するウルルがいくら声をかけても、カラダをゆすっても、ちっとも反応がありません。
さわぎを聞きつけてゾロゾロと集まってくるドラゴンたち。
すると彼らの目の前で、ラフィール姫の石像が、とつじょとして水色オオカミごと大きな水の玉に包まれてしまいました。
これにはその場にいた全員がおおあわて。
そこにたまたま王さまや王妃さままでもが顔をそろえたものだから、さわぎがいっそう大きくなっていく。
と、水の玉がゆっくりとですがしぼんでいき、ついにはブクブクと泡となって消えてしまいました。まるで石像の中に吸い込まれてしまったみたい。
そしてコテンと倒れてしまう水色オオカミの子ども。
ウルルが駆けよると、ルクは「すぅすぅ」と安らかな寝息をたてています。どうやら無事みたいだとわかって、ほっとする姫さま。ですがほっとしたのも束の間、すぐにもっともっとおどろかされることになりました。
目の前の姉の石像。
その足下から、少しずつ色味がもどり始めているのですもの。
あっけにとられているうちに、みるみるとけていく石化。
ついには頭のてっぺん、爪の先まで元通りになったとき、そこには世にも美しいドラゴンの姫君の姿がありました。
「ごめんなさいね、ウルル。あなたにはずいぶんとつらい想いをさせてしまったみたいで」
「えぇーっ、うそ! なんでー? ラフィール姉さまが元にもどったのじゃ! ウレシイのじゃ。めでたいのじゃ。でもどうしてなのじゃ」
「ルク君のおかげよ。この子が来てくれなかったら、この子ががんばってくれなかったら、わたしは、これからもずっと自分の殻に閉じこもって、きっと石のままだったでしょう」
「おぉ、おぉ、ラフィール。よくぞ無事に戻った」とは、父である王さま。
「あぁ、どれだけみなに心配をかけたとおもっているのですか、あなたは。ほんとうにしょうのない子なのですから」とは、母である王妃さま。
王さまも王妃さまもひさしぶりの次女との対面に涙をうかべています。それは周囲に集っていた他のドラゴンたちも同じこと。
そんな一同を見渡してラフィールは頭を深々と下げました。
「お父さまもお母さまも、それからみんなも、心配をかけて、ほんとうにすみませんでした」
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