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129 暴露合戦
しおりを挟むちょいちょいくり出されるレプラとフレイアのイヤミの応酬。
これに周囲がハラハラしながらも、表面上は淡々と進行していく査問会。
どうやらこちらをとっちめる意図ではなくて、あくまでくわしい事情を当事者の口から聞きたかっただけのようだとわかって、水色オオカミの子どもは、ホッとしました。
なのにこの緊迫感ときたら、いったいなんなのでしょうか? 背中にへんな汗をかきます。
ひょっとしてフレイアさんがおとなしくしていたら、ことはもっとかんたんにすんだのでは? とルクがおもいはじめた頃、事態がついに動き出してしまう。
一石をドボンと投じたのはフレイアさん。
「そういえば知ってるか? あのグリフォン、ヨメをもらったらしいぞ」
この発言を聞き、「なんだとっ!」と叫んで、ガタンとイスを倒し、おもわず立ち上がったのはレプラさん。
これまでとりつくろっていた大人の女性の仮面をかなぐり捨てて、彼女の素顔がポロリ。
いきなりグリフォンの話題が飛び出し、こてんと小首をかしげたのはルク。
ルクにとって、グリフォンといえば、荒地の古城にすんでいるルシエルさんのこと。そういえば彼には、かわいらしいティアさんというおよめさんがいましたけれども……。
「やつが結婚だと……、そんなバカな……」
なにやらショックだったらしく、呆然と立ち尽くしているレプラさん。
それを尻目に、きょとんとしているルクを相手に、フレイアさんが嬉々としておしゃべりをしたのは、かつて外界にてレプラの鼻っ柱を盛大にへし折った相手のこと。
向かうところ敵なし、連勝街道をばく進していた彼女をぶっ飛ばしたのが、グリフォンだったそうです。
ドラゴンとケンカをして負かしたことがあるグリフォン。
ますますどこかで聞いたことがあるような話。「うーん」と考え込んだ水色オオカミの子ども。
「男にぶっとばされたとたんに腰くだけになって、相手にメロメロ。急にしおらしくなったと思えば、金銀財宝にまぎれて恋文をしのばせるとか。いやー、なんともいじらしい乙女っぷりだねえ」
あれれ? そういえばルシエルさんも言っていたような。
負かしたドラゴンからたくさん宝物をもらったんだけど、興味がなくってずっとどこぞの洞くつに放り込んでいたとかなんとか。
ということは、恋文もずっと気づかれることなく放置されたまま。
あぁ、なんという悲劇! あわれ、乙女の純情。
「あのう……、それってもしかしてルシエルさんのことかな? かも?」とルク。
おそるおそる言い出した水色オオカミの子どもに、敏感に反応したのは、ここまで呆けていたレプラさん。ひらりと壁の上の席から降りてきたと思ったら、ツカツカとルクにつめより、「その話、くわしく聞かせなさい」
あまりの迫力につき、ルクは求められるままに、荒地の古城でのこととか、ティア姫のことなんかをあらいざらい白状させられました。
不器用な乙女が苦心のはてに、そっと忍ばせた恋文が相手に読まれることもなく、いまだに宝物に埋もれている。しかも意中の彼に贈ったその宝物が、彼の新婚生活を支えていることを知って、愕然(がくぜん)となるレプラさん。「どおりで、いくら待っても返事がこないはずだ」とブツブツつぶやいていました。
いくらドラゴンの時間に対する概念がのんびりだとて、何百年もドキドキしながら待つとか、気が長いにもほどがある。
これにはさすがにあきれるルク。
フレイアさんは、ケタケタと腹をかかえて大笑い。
「ククク、バカだ、バカがいやがる。とっとと告っとけばいいものを。回りくどいマネをしたあげくに、人間の女に横からかっさらわれるとか、マヌケがすぎるぜ」
その通りなのですが、あんまりの言い草。
またまたレプラさんのこめかみがピクリ。
間近に見ると、くっきりと青筋が浮かんでおり、完全に怒っています。
これはいけないと、おもわずルクはじりじり数歩あとずさり。
「ふん。次々とちがう男にホレる、尻の軽い誰かさんには言われたくありませんね。しかもホレた相手、ホレた相手、全員が全員、恋人や奥さまがいて、まるで相手にされないヤバンな女には、と・く・に」
これまでのお返しだと言わんばかりに、レプラさんの口から暴露されたのは、フレイアさんの過去の恋愛話。
基本的に武闘派な彼女は、戦士の中の戦士とか、一流の腕を持つ職人とか、その道に命をかけている一本気な異性が好みのよう。
種族はあまり関係ないようで、人間だろうがドラゴンだろうが、自分が認めた相手には心が惹かれるそうです。
剣神とまで呼ばれた伝説の騎士、超絶技巧の腕を持つ家具職人、一生を絵筆に捧げた男性などなど。この分だとリリアのお父さんであったスゴ腕の弓士であったハスターさんにも気があったみたい。
でもって、こちらも目下、連敗記録を更新中と。
自分の失敗や恥ずかしい過去を、他人の口から小馬鹿にされて語られることほど、腹の立つことはありません。
フレイア、レプラ、いまや双方のこめかみに立派な青筋が立っている。
そんな二人にはさまれた格好になっている水色オオカミの子ども。どうしたらいいのかわからずに、オロオロとうろたえるばかり。
「ネチネチと執着してみっともない。そんなのだからグリフォンに相手にされないんだよ」
「ふふん。それは浅慮というものです。相手はしょせんは人間の女なのでしょう? だったらすぐにいなくなりますよ。だからわたしにはまだチャンスがあるのです。スッパリとふられまくっている、だれかさんとはちがって」
「なんだとっ!」
「なによっ!」
一気に膨れ上がった二人の女の怒気。グツグツとすっかり煮立っていた感情の鍋が、ついにふきこぼれてしまいます。
「上等だ! おもてに出やがれっ」
「のぞむところよ! 決着をつけてやる!」
ドラゴン同士の対決。
ちょっと見てみたい気もするのですが、さすがにこのままだとおおごとに。
だからルクは周囲に助けをもとめようとキョロキョロ。
なのに壁の上にいた白いローブ姿の人たちも、部屋の隅にて控えていたお使いの男女も、さっと顔をそらして、目もあわせてくれません。
どうやらフレイアとレプラの争いに関わりたくないみたい。というか、トメに入る勇気がない?
ただ一人、顔を合わせてくれたのは、お使い女性にお人形さんのようにかかえられていたウルル姫だけ。
綿菓子のようなふわふわのピンク色の幼女は、友だちの水色オオカミにもうしわけなさそうな顔をして、ただ一言。
「あちきにはムリ」
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