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124 のじゃ
しおりを挟む大きなカラダのままだと、話をしている間中、ルクたちはずっと見上げていなければならず、ドラゴンのほうもずっとうつむいていることになり、互いにしんどいのでウィジャばあさんも人間の姿となりました。
やわらかい長い黄色の髪を束ねた、どこか品のある老婆。ドラゴンの姿だとちょっと曲がっていた腰が、人の姿になると見当たらず背筋がしゃんとしています。
フレイアさんの口から、ここが竜の谷に属する神殿であり、弓の街で倒れた自分を助けるためにウィジャさんが尽力してくれたことを教えてもらい、ルクはあらためて「ありがとう」とお礼をのべました。
そして例のナゾの侵入者と黒い手鏡の話を聞かされたとき、ふと口からついて出たのは黒いまだらオオカミのガロンのこと。
なんとなくですが、彼の姿が頭に浮かんだのです。
「影の中を自在に出入りできるチカラか……。だからウィジャのカミナリから逃げおおせられたのかも」とフレイア。
「魔法使いどもの空間魔法とはちがうようですね。あれはその場に潜るだけで移動まではできませぬから。どうやらそのへんにタネ明かしがあるのでしょう」とウィジャ。
白銀の魔女王の手下にして、翡翠(ひすい)のオオカミのラナが追い求めているガロン。
接点なんて荒地の古城と星の都でちらりと見かけたぐらいしかなく、師匠であるラナから話を聞いて知っているだけ。
そんな相手がわざわざ、こんなところにまで危険を冒して、自分を追いかけてくる意味がわかりません。
よもや荒地の古城の一件を経て、紫眼のミラの口から自分のことが魔女王のところにしらされて、相手の興味を一身に集めているとは、知るよしもない水色オオカミの子ども。
ドラゴンの強固な結界内部へと侵入を果たした、その奇妙なチカラについて二人が議論をはじめてしまい、魔法理論がどうのとか次元移動がなんのとかいう、高度な会話についていけないルクは、「なんでかなぁ」とひとり首をかしげていました。
すると、さきほどからずっと気になっていた存在と目があいました。
神殿内部にある、ドラゴンたちが人間に変身しているときに過ごす区画のひと部屋。
ここでお茶会をしながら、話しをしていたフレイアとウィジャとルク。
その部屋の入り口にて、さきほどからチラチラと顔をのぞかせていたのは、綿菓子のようなふわふわの淡いピンク色の髪をした色白の小さな女の子。
すっかり議論に夢中になっているせいか、大人の二人はまるで気づいていません。
幼女は、そんなところに自分からズカズカと入っていくのがためらわれるのか、まるで「気づいて」と言わんばかりにわざとらしく、チラチラをくりかえす。
で、目があったら、また引っ込んだ。
ヤレヤレと腰をあげたルク。スタスタと部屋の入り口へと。
にょきと廊下に顔をつき出せば、すぐ側の壁にへばりつくかのような格好にて幼女が立っていました。
いきなり姿をあらわした青いオオカミの首に、ビクリとなる女の子。
「やあ、こんにちわ。ボクは水色オオカミのルク。キミはだあれ?」
突き出た首から話しかけられて、さらにビクリ。
でもすぐにコホンとわざとらしいセキをすると、落ち着いた風をよそおって、こう名乗りました。
「あちきはウルル。皇龍一族の第三姫なのじゃ」
小さなカラダをめいっぱいそらして、フンスカとかわいらしい鼻をふくらませ、ちょっと尊大な物言い。なぜだかつま先立ちにて、足をぷるぷるさせているのは、少しでも自分を大きく見せようという狙いなのでしょうか?
そのあたりの微妙な乙女心はよくわかりませんが、ここはふれてはいけないような気がしたルク。小さな子が背伸びしている姿に、生温かい視線をおくるだけにしておきます。
「えー、こほん。それで、フレイア姉さまが戻られたと聞いて、たずねてきたのじゃ」
「だったらさっさと中に入ってくればいいのに」
「しかし……、なにやら熱心に話し込んでいるみたいだし。大人の話に子どもがわりこむのはどうかとおもうし。なによりウィジャは怒るとカミナリびりびりで、こわいのじゃ」
「そうなの?」
「すごいのじゃぞ。宴会のときに酔っ払って、ケンカを始めた若い衆をまとめてびりびりドカンじゃ。あまりの迫力におもわずちょっとチビったのじゃ」
「おおきなドラゴンたちを?」
「そうじゃ。胸筋ムキムキどもを一発じゃ。くらったヤツの話では、頭の中がまっしろになって、カラダの芯からじんじんくるそうじゃ」
身ぶり手ぶりにて、そのときのすごさを熱心に語るウルル。
聞けば聞くほどに、なんともおそろしい。
これには水色オオカミの子どもも、ぶるるとカラダをふるわせました。
「それはたしかにこわいねえ」
「だからウィジャは……」と、さらに何ごとかを言いかけて、ぴたりと口をつぐんだウルル姫。見上げたその視線の先には、ウワサの人物の姿が。
ふいに立ち上がってフラフラと歩いていったとおもったら、部屋の入口で何やらごちゃごちゃとしている水色オオカミ。その姿を見とがめたウィジャばあさんが様子を見に来たというわけです。
「だから……、わたしがなんでしょうかな? ウルルさま」
「だからウィジャは、とってもたよりになるのじゃー、という話をしていたのじゃ。のう、ルクよ」
「え、ええーと、そうなのかなぁ。うん、たぶん」
涙目で「そういうことにしておいて」と無言でうったえるウルル。幼女の切実な願いをむげにもできずに、そう答えたルク。
なおウルル姫はそのままえりくびを持ち上げれて、ネコの子のようにして室内に運ばれていきました。
ウィジャばあさん、見た目によらずチカラもとっても強い。
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