86 / 286
86 怠惰な山猫
しおりを挟むすっかり意気投合した水色オオカミのルクと紫の大きなクモのカイロさん。
「そんなに気にいったんなら、もっとすごい、とっておきのヤツをみせてやるよ」
カイロさんにさそわれ、連れだって向かうのは悪魔の山。
道すがら、もともとそこを見物に行く予定だったとルクが話すと、「また、もの好きな」とちょっと呆れられました。
「そういえば、カイロさん。あそこって、てっぺんに悪魔がいるって話だけど、ほんとうなの?」
「あー、おらもガキのころからそう聞いて育ったけど……。実際に見たという話はとんと聞かねえなぁ」
「そうなんだー。でも魔王がいるみたいだし、悪魔ぐらいいてもふしぎじゃないのかなぁ」
「ええっ! 魔王ってほんとうにいるんだか?」
「うん、いるみたいだよー。だって光の勇者はいたし、聖剣もあったし、シュウさんやエリエールさんとか魔王討伐の旅をしていたし」
ルクの口から次々と飛び出した単語の数々に、びっくりぎょうてんのカイロさん。
「はぁー、おらは、ずっとこの森で暮らしているから、外のことはなんも知らねえ。でもその話がほんとうなら、たしかに悪魔ぐらいいてもおかしかねえなぁ」
「でしょう? もしいるのなら、ちょっと見てみたいかなぁ……、なんてね」
「うーん、だどもあの岩壁をのぼるのはムリだで」
「ポロポロくずれちゃうんでしょ」
「それもあるけど、もっとやっかいなのが、ポロリとなるところと、そうでないところが混ざっていることなんだな」
見分けがまるでつかないから、いちいち調べてからでないと先にすすめない。
どんな木でもスルスルのぼれる身軽なサルどもですらが、まる一日がかりで岸壁に張りついても、たいしてうえまでいけやしなかったという話を、カイロさんから教えられたルク。
水色オオカミのチカラをつかえば、きっと登り切れるとは思うのですが、ここではあえて口をつぐんでおきます。
そんな悪魔の山にあるという、カイロさんのとっておき。
気になるルクが教えてとせがむも「ついてからのおたのしみ」とはぐらかされるばかり。
しかたがないのでルクは話題をかえることにしました。
「そういえば……、あのチョウチョたちって、やたらと口がわるかったよね」
「あー、あいつらはみんないつもあんな調子なんだな。自分たちの羽に自信があるもんだから、それを鼻にかけての言いたい放題」
「えーっ、だからって、アレはひどすぎると思う」
「まぁまぁ、たしかにこまった連中だども。言葉とは裏腹に態度は正直だでね」
「あれで? どこが?」
「たしかにひどいところも多いんだども、心は正直というか、キレイだと認めたものには、ふらふらと近寄ってしまうんだ」
つまりカイロさんの言うとおりならば、チョウチョたちは彼の作品のあまりの完成度の高さに、その美しさに感銘を受けて、ついフラフラと彼女たちにとってはキケンなはずのクモの巣に近寄ってしまったということ。
せっかく作った作品をぐちゃぐちゃにしてしまう、困ったちゃんたち。
だけど、この森で一番のカイロさんのファンでもあるわけで、なかなか反応によわってしまっている森の芸術家。
スキすぎて、ついふれてしまったと言われたら、怒るに怒れないんですもの。
「あれで、ほんのちょびっとでもかわいげがあっだら、言うことナシなんだどもなぁ」
「……だよね」
迷いの森にて生まれ育ったクモのカイロさん。
彼のおかげでとくに何ごともなく、森を横断して、あっさりと悪魔の山へとたどりつけました。
巨大な灰色の石板を何枚もかさねて張り合わせたみたい。まるでミノムシの衣を逆さにして、地面につき刺したような形の悪魔の山。
その板の一枚一枚の大きなこと。それらが切り立った壁となって、ほとんど垂直の状態にてまっすぐに天へとのびている。
これではたとえ岩肌がもろくなくても、登るのはとってもむずかしいことでしょう。
おもいっきり背中を反らし、アゴ先を突き出すようにして、山を見上げているルク。
ここからでは山頂は見えませんが、カイロさんの話によると、山の上の白い霧は、たとえどれだけ空が晴れているときであろうとも、嵐が荒れ狂ったあとであっても、けっしてなくなることはないそうです。
間近にするとすごい迫力。
地の国を御使いの勇者として旅するようになってから、いくつもの山を越えましたが、それらとは一線を画する存在感。悪魔どころか魔王が住んでいてもおかしくないかも、と思える威容をまえにして、ただただ圧倒されるばかり。
しばらくルクのスキにさせてから、落ち着いた頃合いを見計らってカイロさんに案内されたのは、そんな岸壁のふもとにある小さなほら穴。
大人が少しかがんで、やっと通り抜けられるほどの大きさ。表からみたかぎりでは奥行もたいしたことがなさそう。
かと思えば、しばらく進むとズンズンと広く高くなっていく。
気がつけば立派な洞くつになっており、さらに奥へと進むと、きらびやかな空間が広がっておりました。
「ふわぁ。おや、カイロじゃないか。いらっしゃい」
岩の上でのんべんだらりとしながら、生あくびを盛大にもらし、長いシッポをゆらゆら。来客に声をかけたのは、トラやライオンほどもある、黒と茶のまじったブチ柄をした大きな山猫。
ずっと寝ていたのか、まぶたがとっても重たそう。前足でごしごし顔をこすっています。
「やぁ、チャチャ姉さん。今日はお客さまをつれてきたんだ。この子は水色オオカミのルク」
カイロさんから紹介されたルクが「こんにちわ」とあいさつをしたら、山猫から「くわぁ」と大あくびをかえされました。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる