63 / 286
63 封印の大扉
しおりを挟むすぐそばまで近づいて、並んで大扉を見上げる翡翠(ひすい)のオオカミと水色オオカミの子ども。
スンスンと鼻を動かしたのはラナ。
「ニオイはしないね。この様子だと、きっちり目張りがされてあるみたいだ」
ルクもマネをしますが、やはり何もニオイはしません。ですが……。
「なんだろう……、なんだか首のうしろがぞわぞわするよ」
「イヤな感じはするかい?」
「うーん、イヤというか、なんというか。ズーンと心が重くなる、みたいな」
そう言ってルクは小首をかしげました。どうやら自分でも自分の感じていることが、よくわからないみたい。
その様子に「ふむ」とうなづいたラナ。
「あんたは感覚が鋭いし、鼻も利く。そう言うからには、きっとこの扉の向こうには、何かがあるんだろうね」
「開けちゃう?」
「そうだねえ。中身は気になるところだけど、そいつはヤメておいたほうがよさそうだ」
足下を眺めながらそう言ったラナは、床から視線を外そうとしない。
ルクも見てみると、ちょうど扉の前の床一面に何やら絵みたいなのが描かれてあります。
大きな絵なので、顔を近づけすぎるとよくわかりませんが、数歩下がって眺めてみたら、そこには黒いドクロの絵。目のところが赤く塗られており、なんだかとっても不気味。
ドクロからウネウネした波? みたいな線が出ていて、その先にて小さな人みたいなモノが、バタバタと倒れている姿が。
「ねえ、ラナ、これって……」
「あぁ、何かはわからないけれども、ヤバイことだけは確かなようだ」
「だからこんなにも、しっかりと扉のスキ間を埋めているのかな」
「だろうね。逆に考えれば、ちょっとでも外に漏れたらダメなモノ、ということなんだろう」
鎮魂の森にある石碑をいじったら、突如としてあらわれた大穴。
内部は特別な鉄で囲われている。
まるで地の底にまで続いているような穴を、ひたすら降りて行ったら、なにやら得たいの知れない危険物が、厳重に封じられている場所が待っていた。
「サビない鉄のことといい。こんな地下深くにまで、わざわざ運ぶだけじゃなくて、大扉の向こうに閉じ込めるほど。ぶっちゃけ、勇者どもが探している魔王ってヤツを封じるのでも、ここまではしないと思うよ」
自分の意見を口にしながらラナは扉の前から離れると、こんどは壁の方へと向かいました。
ルクもあとにつづきます。
薄闇ゆえに気づけなかったのですが、よく見るとそちらにも床にあったのと同じ絵が描かれてあります。
壁沿いに歩いていくと、赤目の黒ドクロと倒れる人々の姿が、何度も何度も何度も何度も、くり返されてある。
それらをジッと眺めていると、黒ドクロがケタケタと笑っているかのような錯覚を見て、ルクはドキリとなりました。
「この分だと、あの石碑に書かれていた内容も、なんらかの警告文だったんだろうね。さてと、ルク、いちおうは目的も達したことだし、地上に戻るとするか」
「うん。それがいいよ。ここってば、なんだかおちつかないし」
「じつは私もなんだよ。みょうに心がザワつきやがる。嫌悪とはちょっとちがう。忌避感みたいなものか。とにかくここはあまり長くいるべき場所じゃないようだ」
二頭は来た道を戻るべく駆け出しました。
途中に何もないのはわかっているので、帰りはぞんぶんに走ります。
翡翠のオオカミが駆ける後ろ姿を追う水色オオカミの子ども。
彼らの歩みに合わせて、背後の明かりが次々と消えてゆき、暗くなる。
長い坂を駆けあがっていると、まるで背後から闇の領域が迫って来るかのよう。
自分たちの足音にまじって、ルクにはあの黒いドクロの笑い声が聞えたような気がしました。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる