水色オオカミのルク

月芝

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 毛の色が変わったことを説明する話の中で、自分の過去についても明かした翡翠(ひすい)のオオカミのラナ。
 いろいろとありすぎて、なんて言ったらいいのかわからないルクは、ちょっと困り顔。
 かまわず平然としているラナ。そこには先ほどみせたような憂いはどこにもありません。いつもの凛とした雰囲気の彼女です。

「もうずっと昔の話さ。連中のウワサを聞く度に、あちこちへと駆けつけているんだけど、なかなかつかまらなくってね。なんでも魔女王の住処は空をふらふら飛んでは、たえず移動をしているって話だし、ガロンのヤツに関してはルクも見た通りさ」

 自分の影の中にもぐっては、消えたり現れたりする黒いまだらオオカミ。
 あまりにも神出鬼没ゆえに、こちらもとんとつかまりやしない。

「それでもいつかは必ず」とつぶやくラナ。その碧い双眸には強い光が宿っている。彼女はまだあきらめてはいないようです。

「そっかー、だったらボクも手伝うよ。いっしょに白銀の魔女王を探そう」

 なんとなくしんみりとなった場の空気を吹き飛ばすように、元気いっぱいにルクは立ち上がりました。
 ですがラナは勇ましい愛弟子の姿に「ふふっ」と小さな笑みをこぼすばかり。

「気持ちはありがたいが、そいつは遠慮しておこう。なにせこれは私の戦いだからね。私が自分の手でケリをつけなくちゃいけない問題なんだ。それにルクにはやるべきことがあるだろう?」
「うー、それはー」
「御使いの勇者の使命をまっとうするも、私のようにちがう道を選ぶも、いずれ必ず選択を迫られるときがくる。でもそれはいまじゃない。だから気持ちだけ受け取っておく。それにね……」

 いまはルクの修行のためにいっしょに旅をしているが、それもけっして長い間とはいかない。なぜならルクは水色オオカミの子どもだから。
 水はどこにでもあるし、何ものにでもなれるし、何とでも交われ、何色にでも染まる。
 あまり長いこといっしょにいると、きっと自分の影響を色濃く受けることになる。それはあまりいいことではないと言うラナ。
 するとルク、「えー、ボク、べつにラナの色になら染まってもかまわないよ。ラナ、とってもキレイだし」
 これには「ぶふっ」とラナも思わず吹きだした。
 相手の色に染まりたいだなんて、当人は自分が口にした言葉の意味を理解していないのか、茜色の瞳をくりくりさせて、キョトンとしています。

「はぁー、あんたねぇ。男が気安くそんなことを言うもんじゃないよ。ったく、なんだか私はとってもあんたの将来が不安になってきたよ。とんでもない女泣かせになりそうで」
「女泣かせ? ボク、そんなイジワルしないよー」

 シッポをぶんぶんふってムクれる水色オオカミの子ども。
 ですが「はいはい、わかったわかった」と、この話はもうこれでおしまいと打ち切られてしまいました。
 ラナについて、いろいろと知れたことはうれしかったのですが、どうにもまだまだ子ども扱いされて、ちょっとスネるルクなのでした。


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